ビジネスパーソンにおすすめのアジア関連書籍を、新刊を中心に紹介。NNA編集スタッフが選んだ今号の本は、世界が直面しているエネルギー問題をユニークな切り口で論じた『エネルギーをめぐる旅 文明の歴史と私たちの未来』(古舘恒介著、英治出版)。
■人類とエネルギーの関わりを古今東西の視点で解説
中国を中心に、アジア各地でも脱炭素社会を目指す動きが加速している昨今。関連書籍が続々と出版されているが、独特の切り口でエネルギー問題や気候変動対策を論じたのが本書だ。
著者は、石油や天然ガスの開発を手掛ける企業に勤めるサラリーマン。長年、エネルギー業界で働きながら、「なぜ人類はエネルギーを大量消費するのか。そもそもエネルギーとは何なのか」と考察することをライフワークにしてきたという。
そんな著者が、エネルギーを切り口に物事を捉える試みを「旅」になぞらえ、科学的な解説のみならず、歴史、哲学、文学などを絡めて縦横無尽な思考でエネルギーの正体を追求。人類の飽くなきエネルギー希求が引き起こしたさまざまな問題の本質を暴きつつ、人にとって都合の悪い現実を直視し、心底納得することが経済活動と環境保護の両立をかなえるためには必要と訴える。
興味深かったのが、「エネルギー問題を考えることは、人類がいかに生きるべきかという哲学を考えることと同意」という持論。少ないエネルギー消費でも幸福を見いだしていた江戸時代の「粋」の精神など古今のエピソードが紹介され、俯瞰(ふかん)的にエネルギー問題を捉えることができる。
アゼルバイジャンの「燃える山」や富山県の黒部ダムなど、世界各地のエネルギーの“聖地”を巡る旅コラムも、著者のエネルギーおたくぶりが垣間見え楽しく読める。
原油価格の高騰が続き、日本政府が異例の対応として石油の国家備蓄の一部放出を決定するなど、エネルギー問題がますます深刻化している今。教示を受けられる一冊だ。
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『エネルギーをめぐる旅 文明の歴史と私たちの未来』
古舘恒介著 英治出版
2021年8月31日発行 税込み2,640円
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■その他のBOOK LIST
※書籍の紹介文は各出版社の宣伝文から引用(原文ママ)。記載の発行日、発売日、価格(消費税込み)は紙版の情報
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『2030 半導体の地政学 戦略物資を支配するのは誰か』
太田泰彦著 日経BP
2021年11月24日発売 1,980円
米中対立の情勢分析、最先端の技術開発の現場ルポ、過去の日米摩擦の交渉当事者の証言などを交えながら、技術覇権をめぐる国家間のゲームを地政学的な視点で読み解き、ニッポン半導体の将来像を展望します。
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『入門 米中経済戦争』
野口悠紀雄著 ダイヤモンド社
2021年11月16日発行 1,760円
米中経済戦争は、貿易摩擦やハイテク技術競争から、バイデン政権で国家理念の対決になった。他方で、生産地としても市場としても中国のウエイトはコロナ前より高まっており、中国を除外した経済運営は考えられない。こうした中で日本が選ぶべき道は何か? 米中の経済対立の中で日本や日本企業がとるべき立場を考える。
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『東南アジア4か国のジョイント・ベンチャー法制と実務対応――インドネシア・マレーシア・タイ・ベトナム』
公益財団法人国際民商事法センター監 アジア・太平洋会社法実務研究会、法務省法務総合研究所国際協力部編 商事法務
2021年12月1日発行 4,620円
ジョイント・ベンチャーに適用される会社法制度・外資規制の各国最新動向および株主間契約締結の際に注意すべきポイントを、インドネシア・マレーシア・タイ・ベトナム各国における企業法務を熟知する4人の現地弁護士と日本の研究者・実務家が解説。
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『ビルマ 危機の本質』
タンミンウー著、中里京子訳 河出書房新社
2021年10月27日発売 3,520円
死者800人以上に上る民衆の軍政府への抵抗の理由を、1962年からのミャンマー情勢を克明に追うことによって明らかにした決定版。NHKの道傳愛子氏が自らの経験で解説を付す。
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『インドネシア 21世紀の経済と農業・農村』
加納啓良著 御茶の水書房
2021年10月30日発行 4,950円
発展途上国から中進国への成長を遂げ、アジアと世界における存在感を高めつつあるインドネシア考察する。インドネシアの成長と変貌を、50年にわたり分析した社会経済史。
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『ニュージーランド アーダーン首相 世界を動かす共感力』
マデリン・チャップマン著、西田佳子訳 集英社インターナショナル
2021年11月26日発売 2,200円
2017年37歳で首相就任。世界で産休をとった初の首相で、当時は事実婚。2019年、ニュージーランド史上最悪のモスク銃撃事件に鮮やかな手腕で対処、犠牲者に補償を約束し、ただちに銃規制した。2020年に単独政権をとると多様性に富んだ組閣をする。 常にリーダーになりたくないと言っていた彼女が首相になったのはなぜか。 世界が注目する新しいタイプのリーダーに迫る評伝、 フェミニズムの観点からも興味深い1冊!
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『差別はたいてい悪意のない人がする 見えない排除に気づくための10章』
キム・ジヘ著、尹怡景訳 大月書店
2021年8月23日発行 1,760円
あらゆる差別はマジョリティには「見えない」。日常の中にありふれた 排除の芽に気づき、真の多様性と平等を考える思索エッセイ。
※特集「アジア本NOW」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2021年12月号<https://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。
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