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【発足IPEF】地政学リスクが供給網に影 オムディアの南川明氏に聞く

米国主導の新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」が発足した。今後、需給が逼迫(ひっぱく)する半導体のサプライチェーン(供給・調達網)にどのような影響が出てくるのか。ロシアによるウクライナ侵攻など世界的に地政学的なリスクが高まる中、英調査会社オムディアの南川明氏は最悪の状況に備えたリスク管理の重要性を訴える。

サムスン電子の半導体生産工場。製造現場は注文の処理に追われている状況だ(写真はイメージ、同社提供)

サムスン電子の半導体生産工場。製造現場は注文の処理に追われている状況だ(写真はイメージ、同社提供)

――タイの製造業でも半導体不足が深刻だ。いつごろ需給の逼迫(ひっぱく)は解消するか。

すでにパソコン(PC)やテレビ、スマートフォン向けの新規の注文は減った。しかし、車載や産業機器向けは依然として厳しい状況だ。需給の逼迫が緩和されるのは今年第4四半期(10~12月)から来年第1四半期(1~3月)になるだろう。

――半導体の製造現場はどのような状況か。

注文を処理するだけで精いっぱいだ。半導体の納期がこれだけ遅れれば、通常、発注のキャンセルが相次ぐはずだが、各社は辛抱強く待っている。「次にいつ注文を入れられるか分からない」「在庫を確保しておきたい」という思いがあるのだろう。

――過去に例を見ないほどの半導体不足になった原因は何か。

自動車関連の産業が集積する中国・上海市での都市封鎖(ロックダウン)措置の実施やロシアによるウクライナ侵攻で、半導体の製造に必要な部品の輸送ができなくなるなど、サプライチェーンが分断された。半導体製造装置に必要な半導体も不足し、半導体メーカー各社、生産能力が上がらない状況も続いている。

■TSMC1社依存にリスク

――米国はIPEFを立ち上げた。半導体などの戦略物資について在庫や生産能力といった情報を共有する体制を整えたい考えのようだ。

中国を巡る地政学的リスクが高まる中、半導体の受託生産を台湾積体電路製造(TSMC)1社に依存している状態にリスクがあるのは間違いない。中国に最先端の半導体技術を渡さないという狙いもある。中国は軍事大国ではあるが、軍需産業に使われる半導体のほとんどを輸入に頼っているという状況だ。

一方、中国からの統一圧力にさらされている台湾は「自衛」のため、今後ますます先端半導体の開発に力を入れていくだろう。半導体があってこそ、台湾は米国と対等な立場に立つことができるためだ。

――韓国がIPEFに加入した。半導体メモリーを生産しているサムスン電子やSKハイニックスの対中ビジネスはどのように変化していくと考えるか。

中国市場を手放す意図はないだろう。中国は世界最大のマーケットだ。ビジネスはビジネスとして今後も粛々と継続していくだろう。一方で韓国は、中国が半導体の自給率を高めようとしている点をリスクとして認識しているはずだ。習近平体制が続く限り、いつまでも市場を開放しつづけるとは限らない。

「リスク管理の有無が企業の生死を分ける」と話す南川氏(本人提供)

「リスク管理の有無が企業の生死を分ける」と話す南川氏(本人提供)

――東南アジア諸国連合(ASEAN)からも多くの国がIPEFに加入した。今後、多くの日系企業が製造拠点を持つタイやベトナムなどで、車載や家電向けの半導体の生産が本格的に始まる可能性はあるか。

半導体の製造には、水や電力、ガス、装置などのインフラが不可欠。優秀なエンジニアも必要だ。現時点では、回路形成といった前工程を手がける外資系企業の誘致は現実的ではないだろう。インドで半導体企業の誘致がなかなか進まないのも同じ理由だ。

――タイや東南アジアに製造拠点を構える日系企業は今後、半導体や電子部品の調達で何を意識すべきか。

地政学的リスクの高まりで、未来を予測することはほぼ困難な状況だ。誰もこのような未曽有(みぞう)の半導体不足を予知できなかった。企業には今後、いくつかのシナリオを想定し、それぞれの対応策を準備するなどのリスク管理が求められる。例えば、現在半導体を確保できた企業は、半導体メーカーからの値上げを受け入れた企業だ。逆に、値上げを拒んだ企業の優先順位が下がった。リスク管理の有無が企業の生死を分ける時代に入ったことを認識すべきだろう。(聞き手=坂部哲生)

<プロフィル>

南川明:

英調査会社オムディアのシニアコンサルティングディレクター。

1958年神奈川県生まれ。武蔵工業大学電気工学科卒業。米モトローラに勤務した後、WestLB証券やクレディ・リヨネ証券などで、世界の電子機器産業や半導体産業の分析に従事。04年にデータガレージを設立し、06年に米アイサプライと合併。10年に同社が米IHSグローバルの傘下に入る。16年にIHSとMarkitが統合でIHS Markitに社名を変更。19年に英インフォルマに統合され、現在はオムディアブランドで活動している。著書に「IoT最強国家日本 日本企業が4つの主要技術を支配する時代」(講談社+α新書)などがある。


関連国・地域: 中国台湾韓国タイベトナム
関連業種: 自動車・二輪車IT・通信

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