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【有為転変】第173回 中国とソロモンの安保協定の裏側(上)

アジアを中心に覇権的行為を繰り返す中国を巡る外交問題では近年、モリソン首相率いる保守連合の果敢な対応が、オーストラリア国内外で支持されてきた。その分、中国に甘い顔を見せてきたと揶揄される労働党は形無しだった。だが総選挙直前に、南太平洋のソロモン諸島と中国が安全保障協定を締結したことは、モリソン政権に打撃を与える事態になっている。この協定の背後には何があったのだろうか。

最初に、ソロモン諸島が中国との間で安全保障協定を結ぶだろうという警告を発したのは、ソロモン諸島に軍を駐留させているニュージーランド(NZ)だった。3月時点で協定文書を入手した国際安保専門家アナ・ポーレス氏によると、中国はソロモン諸島で船舶の寄港や物資補給だけでなく、武装警官や軍の要員を配備できるようになるという。

これに、オーストラリアは騒然となった。自国から2,000キロ以内のソロモン諸島に中国軍が基地を建設する可能性があるためだ。中国軍が駐留すれば、東海岸は深刻なリスクにさらされるのは必至だ。

ソロモン諸島のソガバレ首相を批判する5日付オーストラリアン紙。写真は、中国と安保協定を締結した際のソガバレ首相(中央)

ソロモン諸島のソガバレ首相を批判する5日付オーストラリアン紙。写真は、中国と安保協定を締結した際のソガバレ首相(中央)

オーストラリア自身、ソロモン諸島とは安全保障協定を結び、豪国防軍を駐留させている。太平洋諸島を「裏庭」のように扱っていたオーストラリアにしてみれば、背後から冷や水を浴びせられた形だ。モリソン政権はセセルジャ太平洋相をソロモン諸島に派遣して説得したものの、ソロモン諸島は4月19日に予定通り、中国と正式に安全保障協定を締結した。

■ソバガレ首相「“侵略”の脅迫を受けている」

ソガバレ首相は、中国がソロモン諸島に軍事拠点を設けることはないと明言したものの、モリソン首相は、中国による軍事拠点化を「絶対に越えさせない一線(red line)」と表現し、断固たる措置を取るとした。NZのアーダン首相も「中国軍が配備されればNZ軍を撤退させることも検討する」とした。

ソガバレ首相は、豪や米国による干渉を「無礼で侮辱的だ」と強い不快感を示した。5月4日の同国議会では、オーストラリアを名指しこそしなかったものの、「中国との協定を非難する層から、われわれは銃を持って歩き回る幼児のように扱われている。“侵略”の脅迫を受けているようなものだ」などと激しく痛罵した。

■15年時点で既に基地候補を模索

ソロモン諸島と中国の協定を、モリソン政権への格好の攻撃材料と見たのは野党労働党だ。ペニー・ウォン影の外務相は「わが国の外交政策において第二次世界大戦以降最大の失策」と批判した。

労働党だけではない。オーストラリア諜報機関の一つ、国家情報局(ONI)の元局長を務めたニック・ワーナー氏が、オーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー(AFR)紙に寄稿し、「(ソロモン諸島と中国の合意で)長年築いてきたオーストラリアと太平洋諸国の強固な関係が無駄になった」と指摘した。

オーストラリアが主導する平和維持隊「ソロモン諸島地域支援団(RAMSI)」の発足を率いた経験を持つワーナー氏によると、中国は2016年にはジプチに最初の国外軍事拠点を設け、カンボジアのリアムにもほぼ整備した。さらに、UAE(アラブ首長国連邦)のアブダビ、スリランカのハンバントタ、パキスタンのグワダルなどにも触手を伸ばしていた。

そのため「中国は2015年時点で既に、南太平洋地域でも軍事基地の候補地を模索していたのは明らかだ」と指摘。「それなのにオーストラリアは当時、夢遊病患者のように歩いていた」という。オーストラリアが迅速に対応していれば、ソロモン諸島の協定などの動きは防げた、という主張である。

■秘密裏に結ばれたMOU

公共放送ABCは最近、先の協定に先立つ19年11月に結ばれたソロモン諸島と中国の一部合意文書の覚書(MOU)を暴いている。それによると、MOUには、中国の国有航空・軍機機メーカー、中国航空工業(AVIC)によるソロモン諸島の約36本に上る滑走路などの空港整備が含まれていた。

中国からの直行便を受け入れ、ソロモン諸島の南太平洋地域の航空ハブ化を促進するという。その見返りに、ソロモン諸島はAVICから民間航空機6機を購入する。しかしその内容は、国有航空であるソロモン・エアの会長など役員でさえ知らされていなかった。

だとすれば、ソガバレ政権は秘密裏に中国側と交わしたということだろう。ソロモン諸島はちょうど19年に台湾と断交し、中国と国交を樹立している。こうした覚書は、その直後に行われたものだったのだ。(続きは来週月曜9日付で掲載します)

【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリアその他大洋州
関連業種: 政治社会・事件

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