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【食とインバウンド】ハラール認証の前にやれることはある

第2回

今月ある日本のウェブメディアで、ムスリム(イスラム教徒)客に人気となっているある地方都市のレストランが取り上げられました。記事はご当地グルメをどうハラール化(ムスリムでも消費できるように)し、ムスリム客を増やしていったのかを紹介していました。ムスリム客につきもののハラール認証を取得していないのにムスリム客が殺到しているというのです。一体どういうことなのでしょうか。

■ハラール認証機関の乱立が難しいイメージを定着

ムスリム客に選ばれるにはハラール認証は必須でしょうか。この問いは、近年日本だけでなく世界中で論じられています。曰く、「認証は安全安心の証であるから必要だ」「ハラールか否かはアッラー(唯一神)が決められたものであり、認証機関によって決められるものではない」「マレーシアの認証基準こそが世界で最も厳格だ」。「いや、イスラム法を遵守しているブルネイの方が信頼性は高い」

日本でハラールが注目され始めたのは2012年、マレーシアのマハティール元首相(当時)が来日した際にハラール産業について言及したのが始まりと言われています。マレーシアの国策であるハラール産業の振興について、同国で確立されたハラール認証制度がいかに厳格で信頼性が高いか、元首相は熱弁を振るいました。しかしそれが逆に、日本の事業者には「ハラールは相当難しい」というイメージを与えてしまったのです。

その後、日本国内で次々と設立された認証機関は、認証の基準を統一することなく各団体が個別に活動を始めたため、事業者は「どこに相談すればよいのか」と混乱しました。そこに海外の認証機関も日本へ進出してきたため、さらなる混乱を引き起こしたのです。

こうして「ムスリム客に選ばれるにはハラール認証が必須。しかしそれは高額の費用がかかり、かつ取得するのも難しい」というイメージが定着してしまいました。

■ムスリム客の80%は認証以外の条件を重視

では本当にムスリム客はハラール認証を取得している店舗でなければ、食事をしないのでしょうか。答えは「YES」でもあり「NO」でもあります。というのも、ムスリム客によって判断が異なるからです。「ハラール認証がないとダメ」というムスリムもいれば、「無くても良い」というムスリムもいるのです。この辺り、読者の方も肌感でご理解いただけるのではないかと思います。宗教に対して厳格な信者もいれば柔軟な信者もいるということです。

ここで実際のデータを見てみましょう。チャートはハラール・ベジタリアンレストラン検索アプリ『ハラールグルメジャパン(HGJ)』の店舗検索で使用された条件の割合を示しています。

条件とは、以下の18項目です。(1)ハラール認証店舗です(2)ハラール肉を使ったメニューがあります(3)豚肉を使ったメニューはありません(4)ハラール調味料を使ったメニューがあります(5)ハラールに対応したメニューがあります(6)オーナーがムスリムです(7)シェフがムスリムです(8)ハラール対応用の専用保管庫があります(9)ハラール対応専用の厨房と食器を使用しています(10)アルコール飲料を提供していません(11)アルコールを使ったメニューはありません(12)ベジタリアンメニューがあります(13)礼拝場所があります(14)WiFi(ワイファイ)スポットがあります(15)デリバリー可です(16)テイクアウト化です(17)クレジットカード利用可です(18)団体利用可です――。

このうち最も使用されたのは(1)ハラール認証店舗でしたが、注目すべきはそれが全体の2割程度にとどまったという点です。つまり、必ずしも「ムスリム客に選ばれるにはハラール認証は必須」とは言えないということです。認証はムスリム客にとっては選択肢の一つでしかなく、事業者にとっては情報伝達手段の一つでしかない。約8割のムスリム客は認証がなくても選ぶ可能性があるということです。

■情報は伝わるべき人に伝われば良い

厳しい審査を経て晴れてハラール認証店舗になると、その成果を誇示したくなるものです。ハラールロゴマークをお店の正面に、ウェブサイトのトップに、そしてメニューにも大きく掲出したくなるものです。「当店はムスリムのお客様に安全安心の食をお届けします」とPRしたりします。

しかし、私はそうすることをあまりお勧めしていません。日本の消費者には、「ハラール食=ムスリムのための特殊な食事」という誤解が多いからです。ハラール認証店舗とはいえ、ムスリムではない日本人客が占める割合が多いのが実状です。こうした日本人客が離れてしまうのはお店にとっては大きな痛手になってしまいます。ハラールのお食事はもちろん日本人でも美味しく食べていただけますが、それをわざわざ誤解を招くようにするまでもないのです。

ムスリム客を呼び込みたいのであれば、彼らに人気のメディアや彼らのコミュニティで情報を拡散させるのが効果的です。冒頭のあるウェブメディアで話題になったレストランでは、日本人にはハラール対応しているという情報を出していません。ムスリムに届くメディアを駆使してムスリム客を集客していて、結果日本人客も減らさずに全体として売上アップを実現させているのです。ハラール認証を取得しなくてもやれることはあるのです。

<プロフィル>

横山真也

ヨコヤマ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役

フードダイバーシティ株式会社 共同創業者

1968年兵庫県生まれ。2010年日本で独立開業後、12年シンガポールで法人を設立。国内外の企業買収、再生、立ち上げ、撤退プロジェクトを運営管理するかたわら、14年ハラールメディアジャパン株式会社(現フードダイバーシティ株式会社)を共同創業。16年シンガポールマレー商工会議所から起業家賞を受賞(日本人初)。米トムソン・ロイター系メディアSalaam Gatewayから”日本ハラールのパイオニア”と称される。ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科修了(MBA)、同大学院ティーチングアシスタント、同大学ラーニングアドバイザー 


関連国・地域: マレーシアインドネシア日本
関連業種: 食品・飲料サービス

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