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【有為転変】第166回 豪州のチャイナ・プラス戦略

米国が、世界経済で覇権行為を繰り返す中国に対する戦略で、法的基盤を固めている。6月に上院で、産業競争力の強化を目指す「米国イノベーション競争法(Innovation and Competition Act)」を可決。下院でも同様の「対中競争力強化法案(China Competition Bill)」を可決した。経済や安全保障、人権問題まで包括的な中国戦略をまとめて両院で一本化し、数カ月以内にも可決するとみられる。そうした中、同じく中国と対立を深めるオーストラリアは、米国と行動を共にする姿勢が鮮明になっている。

オーストラリアのフライデンバーグ財務相が9月6日に、オーストラリア国立大(ANU)で行われたクロフォード・リーダーシップ・フォーラムで、近年対立が深刻化する豪中関係についてスピーチした。その内容には、オーストラリアが中国との「新冷戦」を生き抜くための決意が感じられたので、ここで紹介しておきたい。

■「戦略的競争が復活した」

同財相は「米ブッシュ大統領と中国の胡錦濤国家主席が会談を重ねた2000年代から、世界は劇的に変わった。『戦略的競争』が復活したことは疑いようがない。オーストラリアも例外ではなく、他国よりも厳しい圧力に直面している」などと述べた。

旧冷戦時代のソ連は、西側諸国側とは経済で切り離されていたため、貿易でも投資面でも交流がなかった。

それに対し今回の新冷戦では、世界の国内総生産(GDP)で中国が占める割合は2001年の7.7%から、今年末には18.8%に膨れ上がる見込みだ。中国が最大の貿易パートナーである国は、今や130カ国に上る。

このため「中国が持つ経済シェア、グローバルな経済統合、中国の攻撃的な態度は、多くの国々にとって脅威になりつつある」と指摘した。

中国のそうした覇権的態度で、最も影響を受けている国のひとつがオーストラリアだ。中国がオーストラリアに課した貿易制裁で、オーストラリア側の実質的な打撃は約230億豪ドル(約1兆8,576億円)規模に上るとの試算も出ている。

外務貿易省(DFAT)の元高官らがまとめた同報告書によると、オーストラリア産の大麦やワイン、石炭などへの中国の禁輸措置の実際の影響は、堅調だった鉄鉱石輸出の裏で隠れているものの、少なくとも8品目に対する中国の輸入制限により、昨年7月から今年2月までの間に66億豪ドル規模の貿易機会が失われた。

鉄鉱石を除くと、2020年の対中貿易取引額は前年比23%以上減少したという。

■「新市場を開拓しつつある」

こうしたことを受けて同財務相は、中国との戦略的競争に立ち向かうため、国内企業は市場の多様化やサプライチェーン(調達・供給網)の強化、中国への依存軽減といった「チャイナ・プラス」戦略を取り入れて適応力を高める必要があると主張した。

ただオーストラリアにとって不幸中の幸いだったのは、ワインや海産物、大麦、石炭などに対する関税引き上げや輸入規制導入などで制裁的な攻撃を受けたにもかかわらず、国内経済への影響は比較的小さく、多くの輸出業者が新しい市場を開拓しつつあることだろう。中国市場以外へのそれら品目の輸出は、逆に44億豪ドル増えたという。

財相は強調する。「我々は『核となる価値観(コアバリュー)』が切り崩される圧力に直面している。今後も毅然(きぜん)と立ち向かうが、経済的報復にさいなまれることになる。我々の任務は、それに備えることだ。新冷戦時代には、経済的な回復力が鍵となる」

■日本では……

さて――。

我らが日本政府は、菅義偉首相が案の定、任務と責任の重さに耐えきれず、たった1年で椅子を投げ出す。コロナ対策や外交など重大案件が山積しているというのに政権は国会を開こうとさえせず、与党は選挙向けの顔選びばかりに熱を上げている。

オーストラリアのペイン外相とダットン国防相は、今月末にも米国など各国を公式訪問し、ブリンケン米国務長官、オースティン米国防長官と外務・防衛閣僚協議(2プラス2)を開催する予定だ。最大のアジェンダは当然、対中国戦略である。

オーストラリアのメディアからは、日本が主導的にまとめた日米豪印戦略対話(クアッド)が、菅首相辞任表明で「大混乱に陥った」とあきれられている。その菅首相も今月末、クアッドで訪米するのだという。

退陣表明したレームダックの首相が参加せざるを得ないお粗末な事情を見て、米や豪、インドから、日本は頼りにならない、とため息をつかれなければいいのだが。【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: 中国オーストラリア日本米国
関連業種: マクロ・統計・その他経済政治社会・事件

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