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【アジア取材ノート】「次のコロナ」を防げ 珠江デルタの日系企業

新型コロナウイルス感染症の影響から回復を遂げる中国経済。「世界の工場」と呼ばれる中国南部の珠江デルタ地域に進出する日系企業の経営も正常に向かっている。ただ、次の流行に対して気を緩めることはできない。各社は衛生対策を常態化しつつ、昨春の経験を教訓に備えを進めている。(NNA広州 川杉宏行)

マスクを着用して業務に当たる日系メーカーの従業員=2020年10月28日、広東省東莞市

マスクを着用して業務に当たる日系メーカーの従業員=2020年10月28日、広東省東莞市

「従業員のマスク着用を徹底している」。広東省の広州、仏山、中山、深セン、東莞といった都市に拠点を置く複数の日系メーカー関係者は、こう口をそろえる。

感染拡大が落ち着き、珠江デルタ地域でも事務系企業のオフィスではマスクなしの姿も普通に見られるが、製造業の現場では「各部門で1人でも感染者が出たら、その部門は一定期間動きが止まる」(広州市の広州松下空調器)、「食品工場として感染者は絶対に出さないよう注意している」(食品メーカーA社)と、着用を徹底する。

各社ともマスク代は会社負担で1日当たり1人1枚を基本に支給。パナソニック傘下で家庭用エアコンなどを手掛ける広州松下空調器では、屋外での業務など高温作業に従事する従業員には1日2枚を支給する。

従業員数は約4,000人。かなりの支出となるが、同社経営企画室の藤原拓馬氏は「必要な経費」と捉える。工場で集団感染(クラスター)が発生し、業務停止した場合の損失を計算するとマスク代は「保険のようなもの」との考えだ。

企業関係者によれば、マスクの相場はピーク時には1枚3元(約47円)まで高騰したが、ここ数カ月は0.5元前後で落ち着いているという。

各社はマスク以外にも、工場立ち入り時の体温測定や消毒徹底といった対策をとる。中山の部品メーカーB社では、消毒液の噴霧器を各部署に配置し、1日1回欠かさず散布している。

多数の従業員を抱える労働集約型企業では、食堂の管理も一苦労だ。

仏山の電子部品メーカーC社では、昼食時に500人ほどが食堂に集まる。対面を避けるため、全員が同じ向きに座るようルールを設定した。この方法だと座席が不足することから、昼食時間を3回に分けて実施している。

広州松下空調器は、昨年2月から5月ごろまでは食堂を使わず、事務所に戻って食べる方式にした。感染拡大が落ち着いた現在は、座席をパーテーションで仕切るといった対策を講じる。ほか、食堂での会話を禁止する企業もあった。

労働集約型の企業は地方出身者の比率も高く、寮を併設するところが多い。ただ、1部屋当たりの人数を減らす企業は少なく、「既存雇用者の部屋は最大6人で、このうち新規採用者は2人まで」(広州松下空調器)といった措置にとどめている。

日系電子部品メーカーの食堂では、対面しないよう従業員が同じ向きで食事している=20年10月30日、広東省仏山市

日系電子部品メーカーの食堂では、対面しないよう従業員が同じ向きで食事している=20年10月30日、広東省仏山市

■衛生用品で支出増、旅行や懇親は減少

各社ではコロナ対策が常態化するにつれ、マスクや消毒液といった衛生用品への出費が膨らんでいる。その半面、懇親や社会保険料など結果的に軽減された経費もあるようだ。

東莞で玩具などの受託製造を手掛ける永発国際創建(ウィングファット)の中込直樹総経理は、防疫用品の出費により「コロナ前と比べてコストが1割ほど増えたのではないか」と感じている。

深センの部品メーカーD社はコロナ対応が最も厳しかった昨年2~3月ごろ、医療・防疫用品の備蓄が足りず、値段も高騰していたので想定外の出費となった。通常と比べて5~10%ほどコストがかさんだと同社はみる。

食品メーカーA社は、衛生用品に限ると20年は前年同期比で4倍の支出となった。一方、「社内旅行を見送ったり、食事会を縮小したりとコストダウンした面もあり、トータルでみるとコストが増加したとは言い切れない」(同社)とも説明する。

中山の部品メーカーB社の担当者も「マスクなどの出費がかさむ一方で、社会保険料の減免といったコストダウンもあるため、全体としてコストアップしたとは単純に言えない」と話す。

日常業務のあり方を見直した企業もある。

深センの部品メーカーD社は、コロナを機にこれまで敷いていた厳格な情報管理体制を見直し、連絡ツールの利用などに柔軟さを取り入れた。

コロナの影響が深刻だった昨年1月末から3月にかけて、同社では従業員の安否確認や地元政府からの問い合わせへの対応などが毎日のように必要となった。

チャットアプリ「微信(ウィーチャット)」を業務連絡で使用することは情報漏えい防止の観点から禁じていたため、従来通りメールや電話で対応しようとしたが効率的ではなく限界があった。

そこでウィーチャットでの連絡を認め、ビデオ会議も導入するなど柔軟な体制に切り替え、業務手順の見直しが進んだという。

■各社の頭悩ませる、日中間の人的往来

感染者が出た場合の対応マニュアルや制度の整備も各社は進めている。

仏山の電子部品メーカーC社では、従業員の感染が確認された場合、2週間の出社禁止とすると定めている。その後、PCR検査を受けて陰性になれば出社を許可する。また、取引先で感染者が確認された場合は先方との往来を禁じている。

感染者が出た場合に操業停止を想定する企業も多いが、深センの部品メーカーD社は地元政府と交渉し、立ち入り禁止エリアを限定することで全面的な操業停止を回避する計画だ。

このほか食品メーカーA社では、従業員が感染または感染疑いのために隔離措置を受けた場合、特別休暇を付与する制度を導入した。

広州松下空調器では、従業員の勤務中の体調不良に備え、一部の社用車を搬送専用として配備。すぐに病院に搬送できる体制を整えた。

コロナと向き合う日々が常態化しつつあるとはいえ、一企業の努力では乗り越えることが難しい課題もある。各社が頭を悩ませるのが日中間の人的往来の制限だ。

広州松下空調器では昨春の新型コロナ流行期から、出勤時に従業員への体温測定を続けている=20年3月、広東省広州市

広州松下空調器では昨春の新型コロナ流行期から、出勤時に従業員への体温測定を続けている=20年3月、広東省広州市

深センの部品メーカーD社は、日本から赴任者などを迎える際には隔離措置を受けさせる必要があることから「費用面で経営上の負担」だと指摘する。

中山の部品メーカーB社は、これまでのように駐在員が気軽に一時帰国できないため、リフレッシュできず精神的な負担が増すことを懸念している。

広州松下空調器では日本メーカーの設備を導入しているが、技術者が中国に渡航できず、故障やメンテナンス、新設備立ち上げなどの業務が遅延するといった実務への影響も出ている。

日中間の渡航制限もコロナ収束とともにいずれは緩和に向かうとみられるが、「技術者の立ち合いには1~2週間ほどの期間が必要な場合がある」(同社の藤原氏)といい、短期出張が認められたとしても滞在期間が短ければ十分な効果を上げることができない可能性もある。

珠江デルタ地域の日系メーカーは今後、どのような姿勢でコロナと向き合うべきなのか。

食品メーカーA社の担当者は「日系の長所は品質やサービス。愚直にそれを追求していくことで活路が開けるのでは」と考える。コロナで経営環境が厳しいからといって品質を下げたり、安易な値下げに走ったりすると「価値を自ら下げてしまう」と自戒する。

今は将来への助走時期と捉え、例えば研修を手厚くするなど「来るべき時に向かって準備を進めることが大切」(同担当者)と力を込めた。

※特集「アジア取材ノート」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2021年2月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: 中国-広東日本
関連業種: 医療・医薬品その他製造雇用・労務

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