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【アジアの本棚】『性と暴力のアメリカ 理念先行国家の矛盾と苦悶』

米大統領選挙は本稿校了(11月26日)時点で、民主党バイデン候補勝利の方向のようだがトランプ陣営も敗北を認めておらず、選挙戦を通じてアメリカ社会の分断の深さを改めて感じた人は多いだろう。

選挙を控えた両候補の熱狂的な支持者が「自衛」のために武装しているとして、選挙期間中に銃器販売が伸びているという報道もあった。多くの国が銃社会ではないアジアのわれわれからみれば「なぜそこまで」という違和感が残る。

本書は現代アメリカ文化を専門とする大学教授が、この国に深く根差している「性と暴力」の問題を掘り下げて分析した内容だ。

2006年の出版だが、銃乱射事件、人種差別殺人などアメリカ社会で大きな動きが起きるたびに私は読み返している。今回の大統領選挙を巡るさまざまな疑問にも答えてくれる一冊だと思う。

著者によれば、アメリカは「理念先行型」の社会だ。民族や思想、宗教の異なる多くの人々を人為的にまとめるために、常に新たな理念を実験している国だという。

性を巡る問題は「他者との関係をどう築くか」、暴力の問題は「紛争をどう解決するか」という課題と深い関係があり、アメリカという国家の本質に迫る問題だとしている。

性に関しては、厳格な性道徳を掲げたピューリタン時代から性的少数者の権利擁護の現代まで、日本ならタブー化して表沙汰にしない問題を「常に直視する」のがアメリカ社会の特徴と指摘する。

その中で、最大のタブーが「白人と黒人の間の性的接触」だ。それは「劣等人種とみなしてきた黒人の血が白人と混ざることで、優等人種としての白人の地位が揺らぐのではないか」という強い不安感がもたらしたもので、南部での黒人へのリンチ(多くは白人女性への性的接触を理由にしていた)もこれが背景にあったという。

一方、暴力の歴史では、ピューリタンと先住民との戦いや独立戦争時の民兵の武装に端を発し、19世紀の開拓時代には政府の治安維持が辺境にまで及ばないことから300以上の自警団が存在したという。

1791年制定の合衆国憲法修正第2条は「一般人が武器を持つ権利を侵害してはならない」と規定している。「暴力の全否定は、アメリカの過去の否定になってしまう」という指摘は非常に重い。

こうした暴力の伝統は、中東や南米でのアメリカによる「リンチ型戦争」として海外でも発動され、国際的な影響も大きい。問題はアメリカ自身に「暴力の特異国」という認識が薄いことだと、著者は最後に強調している。

アメリカは現在もこれらの問題を引きずり続けているのは間違いなく、アジアに身を置く私たちにも無縁ではない。

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『性と暴力のアメリカ 理念先行国家の矛盾と苦悶』

鈴木透 著 中央公論新社

2006年9月発行 840円+税

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【本の選者】岩瀬 彰

NNA顧問。1955年東京生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業後、共同通信社に入社。香港支局、中国総局、アジア室編集長などを経て2015年にNNA代表取締役社長。20年3月より現職

※特集「アジアの本棚」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2020年12月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: 日本米国
関連業種: 社会・事件

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