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【特別インタビュー】「原発、豪で石炭火電の代替に」 マーク・ホー豪原子力協会副会長

オーストラリアでは、モリソン首相が9月に原子力潜水艦の導入を含む米国と英国との3カ国の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」を発表して以降、二酸化炭素(CO2)排出量の削減の機運と相まって、「クリーンエネルギー」としての原子力発電の可能性についての議論が高まっている。産官学の原子力産業関係者を代表する独立団体、オーストラリア原子力協会(ANA)のマーク・ホー副会長(前会長)に、AUKUSの効果や、オーストラリアが原子力産業を発展させる上で重要な点などについて話を聞いた。【NNA豪州編集部】

――ANAはどのような組織ですか?

ANAは、原子力産業の専門家を代表する団体で、関連の科学者やエンジニアのほか、法的な側面や技術的側面から原子力に関連する団体も参加しています。

私自身は、日本での日本原子力研究開発機構(JAEA)に相当する、オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)の職員です。以下は私自身の意見であり、必ずしもANAやANSTOの公式見解を反映していない点に注意してください。

――現在のオーストラリアの原子力産業はどのようなものですか?

オーストラリアは、原子力に関する多様な能力を既に持っていますが、特殊な領域でもありよく知られている訳ではありません。

原子力産業と言えば、ウランの生産と燃料化、原子力発電、放射性廃棄物の処理を含む核燃料サイクルの話になります。このうち、オーストラリアはフロントエンドとバックエンドに強いと言えるでしょう。例えば、オーストラリアは南オーストラリア州のオリンピックダム鉱山など、豊富なウラン資源を持っており、輸出規模は年間5億豪ドル(約403億円)に上ります。オーストラリア産のウランによる海外の発電量は、国内のエネルギー市場オペレーター(AEMO)が管理・運営する全電力に相当します。

バックエンドの場合、多くの研究者が放射性廃棄物の処理の研究に関わっています。特にオーストラリア国立大学とANSTOは、さまざまな放射性廃棄物を焼結して作る人工岩「シンロック(Synroc)」を開発し、地層処分を可能にしています。

――オーストラリアは、AUKUSにより原子力潜水艦を導入します。原子力産業への効果はありますか?

モリソン政権は3月前半に、原子力潜水艦の可能性についてANSTOに連絡を取っていました。ただ、AUKUSについては発表まで知りませんでした。

「AUKUSは、オーストラリアの原子力に関するノウハウを拡大させる」と話すホーANA副会長

「AUKUSは、オーストラリアの原子力に関するノウハウを拡大させる」と話すホーANA副会長

AUKUSは、オーストラリアの原子力に関するノウハウや能力を拡大させるでしょう。原潜の運用については海外からの支援が重要となり、今後は特別な技能を持つ人員が必要です。ただ、原潜の原子炉は燃料の追加が必要とされないので、オーストラリアの軍港で必要とされる原子力関連の作業はそれほど多くはないでしょう。

また、AUKUSは原潜やほかの技術など広範囲にわたる戦略的提携であり、現段階で原子力産業に大きな効果をもたらすかどうかは分かりません。AUKUSの内容は民間の原子力発電に関係なく、連邦政府も禁止したままです。

――発電会社は原子力発電に興味がないのでしょうか

理解するべきなのは、連邦政府は20年前から原子力発電を禁止している点と、州政府も原子力発電に反対している点です。これらにより、発電会社は原子力発電について意見を表明するような面倒は避けるでしょう。

ただ、ANAは過去5年間に、連邦や州の多くの政治家に対して原子力発電の可能性について次のように説明してきました。

現在、全国エネルギー・マーケット(NEM)で取引される電力の70%は、30~40年前に設置された石炭火力発電に由来します。都市や産業用地の近くに設置された石炭火電や送電網が民営化され、効率的に運営されています。

一方、次世代の発電では再生可能エネルギーへの関心が高い一方、AEMOが提唱する再生可能エネルギー・ゾーンは、既存の火電から遠く離れた場所に設定されています。これまでのところ、再生可能エネルギー発電地域と都市・工業地帯を結ぶ送電インフラに対し、詳細な大規模投資計画を目にすることはありません。

そうした遠隔地を結ぶ送電網のコストが高く付くだけではありません。再生可能エネルギー稼働は、例えば太陽光発電なら1日のうち8~10時間です。また、風力発電の設備利用率は33%となっており、いずれもAEMOには大きな課題です。

これらの事実を人々は意識していませんが、政府はCO2の排出削減の必要性とともに気づいています。

私は、CO2排出が無く、設備利用率が90%の原子力発電こそ、石炭火電の代替としてふさわしいと考えています。

――連邦と州で原子力発電に向けた動きはありませんか?

大きな視点で見れば、連邦と州政府は既に原子力発電の検討を始めています。これまで原子力に関する4つの王立委員会が設置され、原子力発電を支持する報告が出されています。ただ、提言に対して行動を起こすかどうかは政府の問題です。

日本の多くの原子炉は伝統的な軽水炉ですが、オーストラリアの政治家と国民は王立委員会を通じて、溶融塩原子炉や高温ガス冷却炉などの最新の形式や、小型モジュール式原子炉(SMR)が海外で重視されていることを理解しています。原子炉がなければ、世界が気候変動対策を実現する上で困難に直面するでしょう。

欧米では、20~30年前に作られた原子炉が、フランスや米国で重要な電源として稼働しています。また米国では、ジョージア州で2基の新設原発の建設が進められています。日本も、原発の展開では成功しています。ただ、現在の原発新設の中心は中国や韓国、ロシアのほかアラブ首長国連邦(UAE)などです。

オーストラリアが原子力発電に踏み切る場合、政党を超えた支持が必要です。なぜなら、SMRなら3~5年で可能かもしれませんが、大抵の原発の建設期間は8~10年で、政権の4年の周期を超えているからです。与党保守連合(自由党・国民党)は、最大野党労働党に対してCO2排出が少ない原発を利用する考えがあるか真剣に尋ねるべきでしょう。

国民が原発を理解するには時間がかかります。ただ、近年の世論調査、特にAUKUSが発表されてからの結果を見ると70%の人々が原発を支持しています。10年前に比べれば信じられないほど大きな違いと言えます。特に、原発を恐れる年長世代とは違い、若者世代の間で原発への支持が高くなっています。

――オーストラリアが原発を持つ上での利点は?

オーストラリアは活気に満ちた民主主義の国であり、多くのチェックやバランスが機能します。公開性に向けた文化が成熟しており、そのまま原発の安全を優先する文化を醸成することになるでしょう。

もしオーストラリアがこれから原発を設置するなら、最も発展した最新式の原子炉が採用されるでしょう。私は原子炉について、最新の原発関連技術を利用することができるので、競争の二番手でいいといつも言っています。

――原発を持つためにするべきことは?

オーストラリアは物事を効果的に進めることに優れ、柔軟で資源に富んでいます。また、多くの事柄を他国より少ない予算でうまく実現してきました。こうした特性が前提として大切です。

これらを踏まえた上で、原子力産業の推進について最も重要なことは、既存の原子力産業がこれまでうまく進めてきたことを継続することです。近年の原発への多くの支持は、原子力科学技術で優れた足跡を示してきたことが理由で、国民がわれわれを信用しているからです。

次に必要なことは、原発の可能性をまじめに考えるために、肯定的な結果を引き出すために必要なことが何か、注意深く検討して計画を立てるために徹底してわれわれが討議していくことでしょう。

もし、原発開発禁止が解除された場合、原発関係業界を強化して支援していくべきです。

(聞き手=小坂恵敬)


関連国・地域: オーストラリア日本米国欧州
関連業種: 天然資源電力・ガス・水道マクロ・統計・その他経済政治

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