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【アジア取材ノート】韓国止まらぬ不動産高騰 賃貸制度チョンセに大なた

高騰する不動産市況を抑え込むことができるか――。韓国の賃貸制度「チョンセ」を用いた不動産投資に政府が大なたを振った。これまで文在寅(ムン・ジェイン)政権が講じた20回を超える対策も、結果はむなしく際限のない価格上昇を許した。経済格差の原因ともされる不動産への規制に対し、残り2年となった政権運営の真価が問われる。(取材=NNA韓国 中村公)

高層マンションの建設が進むソウル市。新築マンションは1戸10億ウォン以上の物件が多い=4月(NNA撮影)

高層マンションの建設が進むソウル市。新築マンションは1戸10億ウォン以上の物件が多い=4月(NNA撮影)

6月16日、北朝鮮による南北共同連絡事務所の爆破という一大事が発生したにもかかわらず、大手検索サイト・ネイバーの急上昇ワードランキングでは「不動産対策」がトップになった。今の韓国では、南北関係の緊張よりも生活に直結する不動産規制の方が、より切実で関心が高いようだ。

KB不動産によると、ソウルのマンションの中間価格(※)は2020年5月時点で9億2,013万ウォン(約8,130万円)。13年比で約2倍に急騰した。富裕層が集まる「江南3区」(瑞草区、江南区、松坡区)ではここ5年で10億~20億ウォン値上がりし、ソウル郊外でも「10億ション」が当たり前の時代になった。

※「中間価格」は、韓国不動産市況の指標の一つ。全取引価格を最低額から最高額まで並べ、その中央値を指す。平均価格よりも多少高く算出される傾向がある。

■全世帯の2割がチョンセ暮らし

賃貸暮らしの世帯から不満が噴出する中、韓国政府はマンション高騰の主因に切り込んだ。それは、韓国に住んだことのある人なら誰もが知る賃貸制度「チョンセ」を通じて行われる、独特の不動産投機だ。

韓国の不動産を理解する上で、チョンセ制度は避けて通れない。毎月の家賃の代わりに「保証金」としてまとまったお金を預ける制度だ。大家はその資金を運用して利益を上げる。借り主は毎月の家賃がいらない上に、引っ越しする際には預けた保証金が全額戻ってくるという利点がある。

韓国首都圏の全世帯のうち、チョンセで暮らす家庭は2割に上る。インドや南米のボリビアにも似た仕組みはあるものの一般的には使われていないため、世界で唯一の賃貸制度といえるだろう。

今回、規制の対象となるのはチョンセ制度を活用して不動産に投機する「GAP投資」。チョンセで入居可能なマンションを投資家が購入し、価格上昇後に売却して差益を得る仕組みだ。

物件購入額の6~8割は借り主が預けるチョンセの保証金で賄えるため、投資家は残額分を住宅ローンや手持ち資金で満たせばいい。こうすれば高級マンションでも簡単に所有することができる。

少ない元手でも参加できるため、若者から高齢者まで個人投資家が大挙して流入している。韓国国土交通省によると、ソウル江南区の全体のマンション取引のうちGAP投資の比率は足元で72%にまで上昇しているという。

例えば、日系駐在員が多く暮らすソウル竜山区のマンション「ハンガラム」は、不動産価格が上昇する前の16年の売買価格(85平方メートル、3LDK)が約6億ウォンだった。

それに対し、チョンセ価格は約4億5,000ウォン。1億5,000万ウォンの資金があれば物件を購入できる計算だ。1億5,000万ウォンは住宅ローン融資で全額カバーできる。

このマンションは、20年5月時点で約13億ウォンまで急騰したため、単純計算で投資家は4年の間に7億ウォンの差益を得たことになる。

■コロナで下落の局面も

政府はGAP投資を抑制するため規制をかけた。ソウル市や郊外など投資が過熱する地域を対象に、住宅ローン融資でマンションを購入した場合は6カ月以内に居住することを義務付けた。投機用のみならず、投資家が住居用物件向けに契約する住宅ローンも制限する。

大手不動産取引アプリ「チクパン」のハム・ヨンジン・ビックデータラボ長は、「今回の不動産対策は、これまでとは違うかなり強力な規制だ。GAP投資を減らせばマンション価格の上昇を抑えることができるだろう」とNNAの取材に話した。

韓国は経済成長の停滞で15年からは政策金利が1%台で推移。新型コロナウイルス感染症の拡大の影響もあり、今年5月には0.5%まで引き下げられた。感染者が拡大した3~4月は取引が急減し、マンション価格が下落する場面もあったが、感染者数が減り始めてからは超低金利を追い風に反転上昇している。

17年に発足した文政権下での不動産対策は、既に20回以上行われた。これまで◇15億ウォン以上の住宅ローンの禁止◇ソウル市内のマンション融資額を40%まで制限◇譲渡税の引き上げ――などあらゆる手段を講じたが、都市圏でのマンション価格が下落することはなかった。

今回の規制強化は急騰ムードに水を差した格好だが、持続的な政策を打ち出さなければ、すぐにでも不動産に投機マネーが流れ込む。4月の選挙で革新系与党が定数の6割を獲得し、求心力を強める文大統領。市況の正常化に向け、再び本気度が試されることになる。

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■経営傾く「摩天楼の呪い」

韓国高層ビルの光と影

韓国では高層ビルを建てた財閥企業が、完成以降に経営が傾いた例は少なくない。

ドイツの経済アナリスト、アンドリュー・ローレンスは「摩天楼の呪い」というジンクスを説いた。巨額の費用がかかる超高層ビル事業は、好景気時期に工事が開始されるが、完成するころには景気が下降に向かい不況を迎えるという説だ。韓国では、この法則が企業の栄光と低迷の歴史になぞらえて伝えられる。

◇現代自動車

「グローバルビジネスセンター」

現代自動車は、国内最高層の「ロッテワールドタワー」(555メートル)よりも14メートル高い569メートルの新社屋「グローバルビジネスセンター(GBC)」を、2026年までにソウル市江南区の一等地に完成させる予定だ。5月にソウル市から建設許可を得ており、近く着工する。

現代自動車が建設を予定する国内最高層、完成時高さ569メートルの自社ビル(ソウル市提供)

現代自動車が建設を予定する国内最高層、完成時高さ569メートルの自社ビル(ソウル市提供)

地上105階、地下7階建てのGBCは、約50のグループ会社を集約するとともに、ホテルや公演施設、展示場、販売施設、展望台なども設ける。ビジネス客や観光客なども誘致して、ソウルの新たなランドマークにする計画だ。

問題となっているのが、巨額の事業規模だ。総額16兆ウォン(約1兆4,370億円)以上の巨大プロジェクトは、自動車の販売不振に陥っている経営をさらに圧迫しそうだ。

現代自は14年に実施されたGBCの土地取得のための競走入札で、ライバルとされたサムスン電子の提示価格(4兆6,700億ウォン)の2倍以上となる10兆5,500億ウォンで落札した。これは土地の相場の5倍(当時)に相当したため、予想を超える投資規模に不安の声が高まった。

足元では新型コロナウイルス感染症の影響で、今年4~6月期は創業以来、初の赤字に転落する公算が大きい。現在の手元資金は14年比で半分ほどの20兆ウォン前後に低下しているとされる。

◇大韓生命保険

「63ビル」

「ゴールデンタワー」と呼ばれる「63ビル」がソウル永登浦区に完成したのは1985年。高さ249メートルで、それまで最高だった日本のサンシャイン60を抜き、アジア一の高層ビルとなった。

オーナー企業である大韓生命保険は、高度経済成長期の追い風を受けて当時の資産が1兆ウォンを突破し、1,800億ウォンの建設費は経営にさほど影響のない数字だった。

ただその後、98年のアジア通貨危機で大韓生命保険の資金繰りが一気に悪化。63ビルの維持費も負担となって経営破綻の危機に陥った。公的資金の投入で倒産は免れたものの、2002年には63ビルを含めてハンファグループに買収された。

◇ロッテ

「ロッテワールドタワー」

2017年に完成した「ロッテワールドタワー」(ソウル市松坡区)は、現時点での国内最高層ビルで、世界でも6位(19年時点)に入る。総建築費は4兆2,000億ウォンで、当初予算の3.5倍の費用が投入された。

しかし、ロッテワールドタワーが完成した時期から、在韓米軍による高高度防衛ミサイル(THAAD)配備問題や、日韓関係の悪化による不買運動の影響などで事業環境が一変。

ネット通販勢に押される中、最近のコロナ禍の影響もあり、小売り事業を手掛けるロッテショッピングは今年1~3月期に433億ウォンの最終赤字を計上。10年前に1兆ウォン以上の黒字を記録した全盛期の面影はなく、ロッテワールドタワーの運営維持費が経営の重荷になっている。

※特集「アジア取材ノート」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2020年8月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: 韓国日本
関連業種: 建設・不動産マクロ・統計・その他経済社会・事件

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