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【ASEAN】コントロールされたシンガポールのホテル市場

過熱するASEANのホテル投資(5)

11月12日付のNNA記事「外国人旅行者数、4~6月は8%増」(https://www.nna.jp/news/result/1834766)によると、シンガポールの今年の第2四半期(4~6月)の外国人旅行者数は前年同期比8%増の460万人だったという。

政府観光局(STB)が発表した観光統計によると、第2四半期の観光収入は、前年同期比2%減の66億Sドル(約5,447億円)。内訳は、その他(シンガポールの航空会社の運賃や国内の移動費など)が20%増の17億8,300万Sドルで、2桁のプラスとなった。宿泊は6%増の14億8,200万Sドル。一方、買い物と飲食はそれぞれ22%減の12億6,400万Sドル、15%減の6億100万Sドルと大きく落ち込んだ。観光・娯楽・カジノは2%減の14億5,400万Sドルだった。

旅行者の国・地域別の支出額は、中国が24%増の9億8,800万Sドルで最大だった。買い物の割合が43%で最も高く、これに宿泊(26%)、その他(25%)、飲食(5%)が続いた。このほか2位のインドネシアが19%増の7億6,600万Sドル、3位のインドが18%増の5億6,600万Sドルと、上位3カ国・地域がいずれも2桁の伸びを記録した。4位はオーストラリア(4%増の2億9,800万Sドル)、5位は日本(9%増の2億2,800万Sドル)となっている。

第2四半期のホテル平均稼働率は85%で、前年同期から0.9ポイント上昇した。平均客室単価は2.0%上昇の214Sドル、客室1室当たり売上高(RevPAR)は3.1%上昇の181Sドルだった。平均客室単価では、エコノミーホテルが4.8%上昇の106Sドルで伸びが目立った。

■堅調なシンガポールのホテル業界

このシリーズでは、ホテル投資が過熱する東南アジア諸国連合(ASEAN)の現況をテーマに記載してきた。特に今まではベトナムにフォーカスを当てて、現地の加熱するホテル投資事情や、その投資環境を見てきた。

ただ、同じ東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国の中でも、当然それぞれの国によってホテル業界の過熱度合いは異なっている。今回は、中でもより過熱を抑制している国の例として、シンガポールの市場状況を見ていきたい。そこでキーワードになるのが、政府によるホテル市場のコントロールだ。

■堅調な拡大を見せるシンガポールのホテル・宿泊業界

冒頭の記事でも紹介したシンガポールの観光概況だが、他のASEAN諸国と同様に堅調な伸びを見せている。季節性を排除するために下記の図表1は2017年度の実績数値を前年度と比較しているが、ホテル宿泊セグメントは、前年比較で2%の上昇となっている。

ここ最近の国際入国者数の推移を見ても、比較的安定して市場が増加傾向をたどっていることが見て取れる。図表2は、シンガポールにおける国際入国者数の推移だが、リーマンショック後など一部の年では前年比減もあるが、比較的通年で堅調に増加しており、過去10年間の複利成長率では、約5.4%とおおむね安定した成長を実現している。

■市場の安定成長のポイントは政府によるホテル市場のコントロール

シンガポールにおける安定した成長実現のポイントは、市況を鑑みた政府によるホテル市場のコントロールによるところが大きいが、それはホテルの部屋数の供給量(供給者側)と、宿泊者数(需要者側)の双方において行われている。

供給数の管理のポイントは、新規建設許可のコントロールだ。国土面積が限られるシンガポールでは、不動産開発において政府の管理のもとに行われる。当然ホテルの建設着工にしても、シンガポール政府が将来的な入国者数の拡大予想を基に、それに見合ったホテル数をコントロールして、新規の建設許可を出している。その結果、市況が過熱していても大幅に新規ホテルの建設が野放図に行われるようなことはなく、実需水準に見合った客室数を維持することになる。

図表3は、シンガポールにおけるホテル供給数の推移 (2001年-2021年)だ。09年から17年の間のホテル部屋数の合計は、67.9%増(2万6,734客室増)の年平均成長率5.9%となっており、9年間平均して毎年2,970客室が追加されたことになる。

一方で需要側のコントロールにおいては、海外からの入国者数のコントロールがポイントだ。国土が小さいシンガポールにおいては、宿泊者数に占める海外からの旅行者の割合が高い。そのため、ホテルの宿泊者数、つまりホテルの需要数側のコントロールにおいても、海外からの流入数を調整することにより、比較的行いやすい。これは、ベトナムのように、旅行者に占めるベトナム人の割合が高い場合には、なかなか行うことができない。国際都市シンガポールならではの需要数のコントロールだ。

上記の図表2及び3において、それぞれ過去10年間及び9年間の年率成長率を記載している。需要側である入国者の増加率が5.4%だったのに対して、供給側であるホテル客室数も約5%とほぼ同じ水準になっていることが分かる。需要の供給の伸びがマッチしているのは単なる偶然ではない。

こうした需給のコントロールの結果、シンガポールのホテル市場における稼働率は、ASEANの他の地域と比較しても、高い水準を維持している。図表4は、アジア主要国におけるホテル平均稼働率の比較だ。シンガポールは、マカオ、ハノイについて、84%と高い水準を維持していることが分かる。

■平均稼働率も域内で最高水準

シリーズ第3回の連載、「【ASEAN】ホテル業界でのハノイとホーチミンの違いとは」(https://www.nna.jp/news/result/1833514)で記載した通り、ハノイでは客室稼働率は高いものの、平均客室単価はそれほど高くない状況を説明した。シンガポールはその点どうだろうか。

図表5は、アジア主要国におけるホテル平均客室単価(ADR)の比較だ。これを見ると、シンガポールは181米ドルで、日本や香港、台湾よりかは低いものの、ASEANの他の主要都市と比較して一番高い水準にあることが分かる。ハノイは112米ドルと域内でも比較的低い水準にあることと比較すると、大きな違いだ。

当然その理由の大きな要因として、そもそもシンガポール自体の物価水準が高いことが挙げられる。それに加えて、前述の政府による需給のコントロールにより、価格水準が大崩れしないレベルに保たれていることも、その一つの要因と考えられる。

このように平均客室稼働率が高く、加えて平均客室単価も高い水準にあるシンガポールは、ホテル市場として極めて安定して高い稼働が見込める市場となっており、それは「一日あたり販売可能客室数あたり客室売上」、つまりRevPARの比較からも見て取れる。「一日あたり販売可能客室数あたり客室売上」もしくはRevPAR(Revenue Per Available Room)とは、前述の平均客室稼働率と平均客室単価を乗じて計算され、販売可能客室1室あたりの売上を表す値であり、実際の稼働率を考慮した客室1室あたりの売上高が分かる重要な指標だ。

図表6は、アジア主要国における一日あたり販売可能客室数あたり客室売上(RevPAR)を比較したものだ。これを見ると、シンガポールは152米ドルと、ASEAN主要都市の中では「最もホテルで稼げる都市」であることが分かる。

このように見てくると、シンガポールのホテル市場は良い点ばかりのように見えてくる。あえて欠点を探すと、やはり国土が小さく、市場全体の大きさが限定的である点だろう。それは市場規模としての魅力度が周辺の他の国と比較して劣後するという点に加えて、短期的に市場が不安定化するということもマイナス点として挙げられる。

つまり、シンガポールでは前述のとおりホテルの供給量が制限されているのだが、大規模なホテルの建設が行われると、供給量が一気に増え、その結果需給バランスが一時的に崩れるという点があるためだ。その結果、一時的に平均客室単価や稼働率が下振れすることになる。

ただ、そうした一時的な市場のぶれも飲み込みつつ、長期的には着実に市場規模を拡大してきており、これこそ長期的な安定性が、短期での不安定感を上回ってのシンガポールのホテル市場の魅力といえるだろう。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: シンガポール日本
関連業種: 建設・不動産観光

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