本書は、「革命だ」「乗り遅れるな」と連呼する論調に対して「新しい流行をつくり出そうとする一部のキャンペーン」だと反論する。著者の一人はインダストリー4.0について、IT界の革命(レボリューション)と、産業現場で起きていた進化(エボリューション)の融合と分析。そして、日本の製造業は自己の強みや弱みを認識した上で冷静に対応し、「インダストリー4.0騒ぎ」をチャンスに変えるべきだと主張する。
日本の製造業は、冷戦終結と前後し、プラザ合意による急激な円高や、大量の低賃金労働力を抱える中国のグローバル市場への参入など、厳しい環境にさらされてきた。しかしその間、工場は苦闘しながらも地道な革新を続け、現場力を強化してきた。国内外の工場で数々の現場を調査してきた経済学者3人が説くものづくり論は小気味いい。本書を読めば、「失われた20年」という言葉はマクロ経済の視点から見た言葉に過ぎないと気付くだろう。日本のものづくりの強さをあらためて確認させてくれる一冊だ。
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『ものづくりの反撃』
中沢孝夫/藤本隆宏/新宅純二郎 筑摩書房
2016年1月発行 820円+税
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「日本企業が、半導体で負けたのに高級便器で勝てるのはなぜか」を問うことが大事なのです。(本書より)
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<目次のぞき見>
ものづくり現場力の国際比較試論
日本の現場は最強である──工場進化論
インダストリー4.0という幻想──日本の競争優位の本質を読み解く
大震災から甦る製造業──東北復興レポート
貿易立国・日本の針路──戦後経営史から未来を読む
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<著者紹介>
中沢孝夫(なかざわ・たかお)
1944年生まれ。福山大学経済学部教授。専門は中小企業論、地域活性化論。主な著書に『グローバル化と中小企業』など
藤本隆宏(ふじもと・たかひろ)
1955年生まれ。東京大学大学院経済学研究科教授。専門は技術・生産管理論。主な著書に『ものづくりからの復活─円高・震災に現場は負けない』など
新宅純二郎(しんたく・じゅんじろう)
1958年生まれ。東京大学大学院経済学研究科教授。専門は経済戦略論、国際経営。主な著書に『日本のものづくりの底力』など
※特集「アジアに行くならこれを読め!」は、アジア経済を観るNNAの新媒体「NNAカンパサール」2017年10月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。
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