オーストラリアの2021／22年度の乳製品の輸出額は38億豪ドル（約3,455億円）で、世界第４位の規模を誇る。輸出先は約130カ国・地域に及ぶ中で、オーストラリアに…

オーストラリア

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――それぞれどのような団体ですか？

【マクエルホン氏】最初にデアリーオーストラリア（ＤＡ）について説明しましょう。ＤＡは主に酪農家が生産量に応じて拠出した出資金によって設立された業界団体です。オーストラリアの酪農業界のグローバル市場における競争力強化を目的とした調査・研究や、マーケティングを通じたサプライチェーン（供給網）展開の支援、栄養・健康分野の政策決定などを行います。
オーストラリアの農業界には、こうした組織が15団体あります。1980年代に農業界の自由化が進んだ際に、業界と政府が連携して設立されました。私たちはその一つで、酪農に関するあらゆる統計の洞察を行います。
また、日本のような重要市場に対しては業界全体と協力し、長期的なプログラムを組んで市場アクセスの拡大も支援します。日本市場では、雪印、明治、森永、三菱商事、三井物産などが主な顧客です。

【ウィリアムズ氏】ＡＤＰＦは、酪農業界の商業部門を代表する業界団体です。サプライチェーンでは、農場や酪農家よりも後半の部分に当たります。具体的には乳製品メーカーや、商社、販売会社によって構成されています。
業界の問題に対し、酪農家の団体であるオーストラリア酪農家連盟（Australian Dairy Farmers Federation）と協力して対応していくために設立されました。また、オーストラリア酪農業協議会（Australian Dairy Industry Council、ＡＤＩＣ）とも連携し、政府に対しロビー活動を行います（注：同氏はＡＤＩＣの副会長も兼務）。2020年に施行された酪農業界の行動規範の制定に当たり、政府との協議も行いました。
ＤＡとは、政府への提言の際の技術的な協力や、酪農家に対しても投資案件について助言するようなパートナーシップを構築しています。オーストラリア酪農業界が、強く健全であることを確実にするための関係性と言えます。

――世界におけるオーストラリアの酪農業界の強みは何ですか？

【マクエルホン氏】私たちの業界の強みには６つの要素があります。それは、長期的な関係、ニーズへの機敏な対応、高い品質、持続可能性、酪農地域の多様性、そして気質です。
まず日本のような重要市場と長期的で良好な関係を構築していることが挙げられます。日本とはチーズ産業の発展のため、長年にわたるパートナーシップを組んできました。具体的にはジョンが説明すると思いますが、オーストラリアには競争力があり、環境の変化に即応できる乳業会社が数多く存在し、相手市場のニーズに対応することができます。このことは、大きな会社が１つだけ存在するニュージーランドとは大きな違いです（笑）。オーストラリアは顧客のリクエストに機敏に対応することができるのです。
また、私たちは日本の企業や消費者のニーズに合わせ、彼らに不可欠な乳製品を、一定の高い品質で作り上げてきました。さらに食品として高い安全性と品質を確保するシステムも稼働し、他国の追随を許しません。
持続可能性も重要な要素です。私たちはこの10年間で、環境保護や動物福祉、経済的な活気、労働者の福利厚生などの観点から、持続可能性を高める先進的な枠組みを構築しています。
さらに、オーストラリアにはビクトリア州を中心に８カ所にわたる酪農地域があり多様性に富んでいます。
最後に、オージー気質と言うべき忠誠心（Royalty）とチャレンジ精神（Can-do sprits）の高さが、酪農業界を形づくっていることを付け加えましょう。

――日本とのパートナーシップとは？

【マクエルホン氏】日本のチーズ市場でオーストラリアは長年にわたり支配的なプレーヤーで、オーストラリアで製造されたチーズの38％が日本へ輸出されています。しかし日本の小売店で多くのオーストラリア産チーズを見つけることは難しいかもしれません。というのは、オーストラリアの企業は日本企業と緊密に連携し、「彼らの商品」として求められる乳製品を開発・供給しているからです。オーストラリアの輸出業者が日本と協力して取り組む真の「パートナーシップ・アプローチ」が顕在化した例だと思います。

【ウィリアムズ氏】具体例を挙げましょう。六甲バター（兵庫県神戸市）とは、歴史的と言っていいほど長い取引関係を築いています。同社のキーブランドの「ＱＢＢチーズ」は、品質がベストで美しいことから名付けられた名前ですが、実はクイーンズランド州が発祥です。私も「キャンディーチーズ」の開発に参画したことを覚えています。
またピザなどに使われる、刻んだ（Shred）チーズも両国で共同開発しました。その名前を「豪シュレッド（Go Shred）・チーズ」と名付けて日本に供給しています。豪は日本語でオーストラリアを意味しますよね。
実はこうした日本市場向けに特化した商品は多数あります。両国がアイデアを出し合い、協力して商品を開発・改善し市場に投入しています。

【マクエルホン氏】両国の酪農業界の関係が強いという証拠に、神戸市の街道の並木にはオーストラリアの酪農業界関係者の名前が付けられています。ジョンの名前の木もありますよ（笑）。（酪農が盛んな）メルボルンに日本の乳業企業のオフィスが多数あることも偶然ではないですね。

――日本からの要求やニーズは細かいですか？

【ウィリアムズ氏】はい、特に日本は細かいですね（笑）。しかし、だからこそオーストラリアがこれまで成功して来られたと思います。日本の消費者や顧客は、味や品質に対する基準が厳しく、要求水準も高いです。しかしオーストラリアが日本市場と緊密な関係を持ったのは、われわれが単に製品を作り放しにするのではなく、消費者が求める顧客指向の製品を作りたいからなのです。
日本側からは「私たちが求めているのはこのような品質です」とか、「需要はこうした方向に向かっています。対応できますか？」という要求が示されます。さらに彼らはその年だけでなく、次の年や４～５年先のことまで視野に入れています。オーストラリアには数多くの乳製品工場がありますが、工場はそうした要求によって能力や可能性が引き上げられ、期待に応え、日本との長期的で前向きな関係が構築されたのです。日本とのこうしたパートナーとしての関係は、もう40～60年にもなるでしょう。
例を挙げると、私は三井物産で長く働いていました。その時にビクトリア州のチーズ工場の立ち上げに関わったことがあります。工場の仕様について多くの意見が日本の顧客から寄せられました。つまり日本のＤＮＡがその工場や施設には埋め込まれているのです。これは非常にユニークなことで、世界中どこを見てもそうしたサプライヤーは現実的にいないと思います。

――そうした細かい要求を受けて、オーストラリア側に利益はありますか？

【ウィリアムズ氏】はい。長期的な投資があり、アイデアは需要を生みます。現在オーストラリアの酪農業界はハイスペックな製品を製造する能力があります。そうした製品には他の市場からの需要もあるのです。
日本からの要求が細かすぎるかという点については、期待値に見合うフェア（公正）な対価があるなら問題はありません。もし過剰な要求なら、現在のような良好なパートナーシップは構築されていないでしょう。また、現在の関係は、オーストラリアの酪農加工業界が日本の高い水準の要求を受け入れ可能であることを示しています。オーストラリア側にも日本の要求に対し、高い品質で応える能力があるということですね。
日本側が、オーストラリアの農場から工場に通じるサプライチェーンに対して求める品質基準が私たちのベンチマーク（基準値）になった側面もあります。一方で両国がベストプラクティス（最適解）を出し合って協働した部分も多く、それが長年の信頼関係の基礎になっているのです。
私たちはビジネスを進めるに当たり、最も良い収益を得られる市場を探します。そうした中でも日本は多くの市場に比べ従来から高い収益を得られる市場です。
ただし日本はまだ関税が高く、サービスコストが安い国ではありません。世界にはもっと低コストの市場もありますから、長期的にはその辺りに課題があるかもしれません。

【マクエルホン氏】要求に俊敏に対応すること以前に、対応する能力も重要です。オーストラリアは生産量の64％を国内市場で消費し、輸出されるのは36％です。これは競合国に比べて大きい国内市場を持ち、対応する大規模な生産システムがあることを意味します。つまり輸出市場で活用できる準備も整っているのです。
私たちは「オーストラリアの条件を受け入れるか、嫌ならやめていい（Take it or leave it）」と言うことでもできます。しかし一方で、価格も含め顧客のニーズに対応してきた多くの実績と歴史もあるのです。そして日本ほど、それを実証できた貿易相手国はありません。
もちろんニーズへの対応にはコストがかかりますが、常にチャレンジしています。

――では、オーストラリアの酪農業界の課題は何ですか？

【マクエルホン氏】特に近年明確になっているのが、季節的な問題です。オーストラリアでは数年前に、史上最も深刻なうちの一つとも言われる干ばつや山火事が発生し、昨年には東部州で大規模な洪水を経験しました。こうした「雲の変動性」と言うべき問題が農業部門、特に酪農にとって問題となっています。また、新型コロナウイルスの流行で悪化した労働力も問題です。この２つは、私たちが成長環境に戻る上で制約となり課題です。また、畜産や青果など農業界全般が好調で、農地価格も高額になりました。

――国内の生乳の生産量が減少傾向にあります

【マクエルホン氏】そうですね。ただしこのことは、オーストラリアの酪農製品に対する需要と収益性が減少しているという意味ではありません。業界として意識し対応しているところですが、一つの状況的な問題であり、時間の経過と共に改善する可能性があります。実際に国際価格はこれまでにない水準になっています。乳加工業界も対応していると思います。

【ウィリアムズ氏】確かに私たち加工業界にとって現在の課題は、どうやって工場を生乳で一杯にして稼働率を上げるかということです。そのため多くの工場は合理化を進めていますし、古い施設は閉鎖を免れないかもしれません。
投資を行い生産量を増やしたい酪農家にとって、高騰するエネルギーコストが重荷になっていますが、今後、生産者サイドにポジティブさが戻った時に、投資も増え生産量の増加につながると考えています。
一方で乳加工会社が酪農家に提示している生乳の買取価格（生産者乳価）は非常に高く、「メーカーや世界はオーストラリアの牛乳を欲している」というメッセージを酪農家に向けて発信し、成長の意思を示しています。

【マクエルホン氏】統計的な面では、昨年の輸出は2.5％増加しました。一方で生産は3.5～４％減少しています。したがって私たちは、減少した牛乳の在庫（ミルクプール）を最も価値の高い市場に優先して供給し、最大のリターンを得ることを考えます。それは日本のような輸出市場だったり国内市場だったりします。
世界のミルクプールへのアクセスをめぐっては、競争が非常に激しい環境になっています。気候変動への制約などもあり、ＮＺや欧州など私たちの競争相手はどこも、ミルクプールに制約を受けています。世界中の消費者にとって需要を維持し、選択権を持つ顧客として存在し続けることが困難になりつつあります。そうした中で、膨大な需要があるというメッセージがオーストラリアには伝わっており、輸出につながっていると言えます。

――メーカーによる高い買取価格は、世界的な競争力の低下につながりませんか？

【ウィリアムズ氏】生産者乳価の上昇に加え、先ほどお話した高コストや新型コロナの問題も、加工業界が直面している課題です。そのため、特に国内市場やフードサービス業界に対し、可能な部分でコストを価格に転嫁しています。同時に海外顧客に対しても、コスト圧力への理解を深めてもらうことも必要でしょう。
一方で乳製品価格はコモディティー価格であり、世界中の需給ダイナミクスの中で発生することに関しては、最善を尽くすほかありません。
ただ、先ほどのチャーリーの発言に追加しますが、オーストラリアの乳製品に対する需要が弱まったわけではありません。今後も私たちが活躍できる場所があると考えています。
生産者乳価が今の高い水準から下落するかについては、現在は乳製品加工業界の厳しい競争が価格引き上げを余儀なくさせています。しかし製品の販売で利益を得られなければ、持続可能ではないということになります。この点からメーカー各社の判断が下されるものと思います。

――中国市場をどのように見ていますか？

【マクエルホン氏】中国はオーストラリアの乳製品輸出の37％を占める最も大きく、最も成長している市場です。両国の自由貿易協定は発効後８年目となり、乳製品の関税が撤廃される最終段階に入った状態です。これは言うまでもなく、対中輸出に利点を生むことになります。
しかし、幸運にも酪農業界は対中貿易でダメージを受けていませんが、ここ数年間オーストラリアのほかの農業セクターは地政学的な摩擦の影響を受けました。国際的なビジネスには政治が絡むリスクがあり、それが新たな世界ともいうべき状態になっています。
最終的にはそれぞれの企業が各市場への供給を管理し、各輸出先ごとのエクスポージャーを判断することになりますが、市場の多様化がこれまで以上に重要になっていると思います。

――今後の対日関係などをどうみますか？

【マクエルホン氏】オーストラリアは世界で４番目に大きい乳製品の輸出国で、輸出先は130カ国・地域に上ります。一方で乳製品の輸出市場は競争が激しく、酪農企業は最大の利益を得るための判断が毎日のように求められています。そうした中で、日本とは最も長きに亘り、最も信頼できる関係が構築されていることは明らかです。
私たちは商業的な現実を認識する必要があることも理解しています。つまり先ほどお話ししたように、私たち供給側にもいくつかの課題があります。しかしオーストラリア産乳製品に対する需要は確実に存在し続けます。その上で「共に繁栄する」ことに価値を置き、日本市場に適した高品質で安全な乳製品の、持続可能なサプライヤーとして進んでいきたいと考えています。

【ウィリアムズ氏】私たちは日本の消費者にオーストラリアの製品を継続して届けたいと思っています。しかし、一部には障壁もあります。輸出業界ではマーケットアクセスが問題となりますが、日本に対する継続的な課題の一つは、市場へのフルアクセスです。オーストラリアは過去10年間で、多くの貿易相手国と二国間協定を締結し障壁を取り除きました。日本とも協定が結ばれ、ＣＰＴＰＰ（アジア太平洋地域における経済連携協定）もあり、貿易環境は改善しました。しかし乳製品に関しては、オーストラリア側が完全な競争力を持って市場に参加できるよう、引き続き検討する余地もあると思います。（聞き手＝湖城修一）

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