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【アジアで会う】西村範子さん 考古学者・東京メトロハノイ駐在員事務所長 第398回 亡き夫の思い胸に、ベトナムの未来をつくる(ベトナム)

にしむら・のりこ。1972年生まれ。旧姓・西野。東京外国語大学でベトナム語を専攻。在学中にハノイに留学し、陶器「安南(あんなん)焼」の歴史を研究する。2012年に博士号取得。夫の考古学者、西村昌也(まさなり)氏とともに各地を調査し、ハノイ・キムラン村の博物館設立などに関わる。13年に昌也さんがバイク事故で死去後、遺された研究の一部を引き継ぐ。17年から東京メトロのハノイ駐在員事務所に勤務。

慢性的な交通渋滞の解消や環境汚染への対策として都市鉄道の整備が進められているベトナムで、東京メトロはハノイ市やホーチミン市の都市鉄道運営会社の組織・規定作りなどの設立支援や、鉄道の安全運行を担う人材育成の支援などに取り組んでいる。

駐在員事務所に勤める西村さんの役割の一つが、都市鉄道プロジェクトにおける関係機関との調整だ。東京メトロの専門家らの説明資料の翻訳の確認や、関係機関からの疑問点に対するフォローなどの業務も手掛ける。

世界屈指の地下鉄網を運営する東京メトロと、最近になって都市鉄道が開業したばかりのベトナム側との橋渡しは容易ではないが、鉄道運行上、必須の「安全」に関する事柄が多く、細心の注意を払って業務に臨んでいる。

ベトナムの鉄道政策やハノイ・ホーチミン市の都市鉄道プロジェクトの進捗(しんちょく)などの情報収集も担当している。武器になっているのは、30年近くに及ぶベトナム滞在歴で培った人脈と、自在に操る語学力だ。「今の仕事はベトナムの未来をつくる仕事。性に合っている」と話す。

■「朝から晩までずっと一緒だった」

今の仕事に関わったのは偶然だった。夫の昌也さんが不慮の事故で死去したのは、西村さんがハノイの日本大使館で専門調査員として働いていた13年。専門調査員の契約満了後、育ち盛りの男の子2人を抱えて、まずは働き口が必要だった。当時の知り合いのつてをたどる中、最初に声を掛けてくれたのが東京メトロだった。

1990年代のハノイ留学時代にベトナム陶器の研究を始めた西村さんは、大学卒業後に日越合同チームによる農村での考古学調査に参加するようになった。発掘チームのまとめ役が昌也さんだった。昌也さんはベトナム考古学会で初めて、銅鼓を鋳造する型の破片を発見し、それまでの通説を覆して北部で2世紀後半から銅鼓が生産されていたことを裏付けた気鋭の研究者。ベトナム人からは「アイン・ニシ(ニシ兄さん)」と呼ばれ、慕われていた。

兄貴肌の昌也さんと西村さんは、「自然と」一緒にいるようになった。当時のハノイでは外国人向けのサービスアパートも増え始めていた。しかし、若い二人はハノイの下町で下宿を借り、手洗いを改修して台所にし現地の生活に溶け込んだ。

朝から晩までずっと一緒の生活。ハノイ郊外のキムラン村では村の人たちとの共同作業で11世紀以降に製造された陶磁器を発掘し、10年がかりでベトナム初の「村立博物館」の開館に結実させた。発掘現場に連れて行った2人の子どもは、村の古老たちが遊んでくれた。

■「天で見守っている」

幸せな時間を昌也さんの事故死が突然遮った。昌也さん47歳、西村さん40歳の時。発掘のイロハを惜しみなく若手に伝授した兄貴分の葬儀には、ベトナムの友人約3,000人が参列し、別れを惜しんだ。

9歳と6歳の男の子を抱えるシングルマザーとして、一時は「どん底にいた」という西村さん。前を向かせてくれたのは、世話好きのベトナム人たちだった。「ニシが天国で見守っている」という言葉に押され、未完の調査を引き継いだ。

中部沖で引き揚げられた、東南アジア最古とされる沈没船の研究チームを再集結させ、資金を集めて数千点の陶磁器を調べ上げた。7,000冊ある夫の蔵書をベトナム国家大学に寄贈し、「西村昌也ライブラリー」を開設させた。

■いつか夫の全集を

東京メトロへの入社後、自身の研究は中断している。それでも交通事故で最愛の家族を失った遺族として、都市鉄道の整備支援を通じて市民の安全・安心な生活に貢献する仕事に関われることに新たなやりがいを見いだしている。

もちろん、考古学への志を捨てたわけではない。仕事と子育てが落ち着いたら昌也さんがやり残した研究を編さんし、全集を出したいと夢を語る。夫婦が博物館設立を手助けしたキムラン村で眠る昌也さんとともに、この地で生きていく。(ベトナム版編集・渡邉哲也)


関連国・地域: ベトナム
関連業種: 運輸マクロ・統計・その他経済社会・事件

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