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【食とインバウンド】Z世代が動かす市場

第30回

2年前の本コラムで私は「2020年はプラントベースフード(植物性食品)が市民権を得る』と予想しました。当時すでに世界で急拡大していたプラントベースが、東京五輪をきっかけに日本でも認知度を高めると考えたからです。加えて、その前年の18年末に英エコノミスト誌が19年に起こる12のトレンドの一つに「ヴィーガン(動物性食品を摂らない)」市場の急拡大を予想していたことも一因でした。これらの予想が的中したのかは議論の余地がありますが、ヴィーガンやプラントベースといった言葉が日常生活でもよく見られるようになったのは確かです。サステナブル(持続可能性)の文脈からも語られるようになったプラントベースは果たしてこのまま成長を続けるのか。今月は海外のデータを基に22年に何が起こるかを予想したいと思います。

■米国市場は成長に一服感

19年に51億米ドル(約5,600億円)だった米国のプラントベース小売食品市場は20年に70億米ドル(約7,700億円)に至りました。最大の商品は植物性乳で前年比約24%の伸び、次いで植物性乳製品が47%伸長しました。日本ではまだ少ない乳や乳製品が主要商品になっている点からも米国がこの分野で進んでいることが分かります。

市場の拡大に伴い、プレイヤーの躍進がたびたび報道されました。植物性肉最大手の米インポッシブル・フーズは今年5億米ドルを調達し調達総額は20億米ドル、評価額は70億米ドル(約7,700億円)になったと推定されます。植物性卵最大手の米イート・ジャストは北米、ドイツに次ぐ生産工場をシンガポールに建設中で、30億米ドル以上の評価額で新規株式公開(IPO)すべく現在準備を進めているようです。20年の当市場全体への投資額は、こうした大きな資金調達によって過去最高の31億米ドル(約3,410億円)に至りました。

しかしながら、直近では気になる情報もあります。英フィナンシャル・タイムズが報じた(※1)ところによると、21年4月以降は植物性肉の売り上げが前年比でマイナスと、成長に一服感が出ているのです。同誌によると、原因は前年の市場拡大が急激であったことの反動や、新型コロナウイルスのデルタ株の感染拡大によるサプライチェーンの混乱などに起因するとのこと。また、新商品を消費者に試食してもらえなかったり、似たような商品が増えているなどといった、新しい市場ならではの問題も影響したようです。

■若者が牽引する米国市場

次に消費者の動向を見てみましょう。植物性食品は新しい食品として注目されているため消費者も若者が多いという印象がありますが、実際はどうでしょうか。米国の消費者を対象にした調査結果があるのでご紹介します。

図は米国のZ世代(現在13~19歳)とミレニアル世代(20~38歳)への調査結果を示したものです。図の左は「植物性食品を定期的に買っているか(飲食しているか)」、右はその回答を世代ごとに分けています。植物性食品に「興味がない」は全体の30%、「定期的に買ってはいないが興味はある」が23%、「定期的に買っている」は47%という結果です。つまり、米国の若者の半数はすでに植物性食品を定期的に買っており、「関心がある」層を含めると全体の75%程度に上るということです。

世代別に見てみると、ミレニアル世代がZ世代よりも実際に購入していることが伺えます。これは植物性食品が動物性食品よりも価格が30~40%高い傾向にあることから、Z世代は「興味はあるがまだ買えない」という状況にあることが推定されます。米国のZ世代の人口は8,600万人で全人口の26%ですが、消費は全体の40%を占めると推定(※2)されています。彼らが年齢を重ねるにつれ所得が上がれば「興味がある」という層も植物性食品を購入する可能性が高くなります。

彼らのような「買うこともある」層は「フレキシタリアン(肉魚を減らし菜食を取り入れている人)」と称されますが、市場が拡大するのはこうしたアーリーマジョリティ(前期追随者)が増えるタイミングに重なります。本コラム第7回で市場拡大の鍵はフレキシタリアンの獲得であると述べましたが、米国はその流れに乗っていると考えられます。

■22年は日本企業がようやく動き出す

最近私はフードテック分野へ投資する海外投資家と話す機会を得ています。その際必ずと言っていいほど質問されるのは「なぜ日本企業はいないのか?」です。「ネクストミーツ(東京都)とDAIZ(熊本市)などほんの数社しか聞かない」「日本はこの市場に関心がないのか」とも付け加えられます。いかにも周回遅れを指摘されているようで回答には窮するのですが、私は「発酵やうまみが海外で注目されているのは良いこと」「そうした食文化をアップデートする日本企業が出てくるはず」と答えています。

日本の食文化はユニークで豊かで世界が注目しているのは間違いありません。「機会があれば投資したい」と語る海外投資家は多いです。しかしながら彼らの多くは「情報が少なく状況がわからない。どこにアクセスしたらよいのかもわからない」と語ります。プラントベース含むフードテックへの投資市場は世界的に拡大していますが、先述のように米国では拡大スピードが小休止しています。そして投資家が次に注目しているのはアジア市場です。投資家主導で日本の食が掘り起こされ、22年はようやくグローバルな市場に打って出る日本企業が出現することでしょう。

※1:The Financial Times 2021/11/29

※2:US Population by Age and Generation in 2020 knoema

<プロフィル>

横山 真也

フードダイバーシティ株式会社 共同創業者

プラントベースジャパン株式会社 共同創業者

キャリアダイバーシティ株式会社 共同創業者

ヨコヤマ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役

2010年日本で独立開業後、12年シンガポール法人を設立。14年ハラールメディアジャパン株式会社(現フードダイバーシティ株式会社)、19年フリーフロム株式会社(現プラントベースジャパン株式会社)、20年キャリアダイバーシティ株式会社を共同創業。
日本と海外での500社以上のプロジェクトマネージメントが評価され、16年シンガポールマレー商工会議所から起業家賞を受賞(日本人初)。著書に「おいしいダイバーシティ~美食ニッポンを開国せよ~」(ころから株式会社)。ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科修了(MBA)、同大学および東洋大学非常勤講師。


関連国・地域: マレーシアシンガポールインドネシアフィリピン日本米国
関連業種: 食品・飲料サービス観光マクロ・統計・その他経済

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