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目標出そろい脱炭素本格化へ 気候危機「決定的な10年」(1)

英国で開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、アジアの首脳が温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」を目指す長期的な目標を相次いで表明し、アジアも脱炭素社会へ向け大きくかじを切った。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が定める、世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて1.5度に抑えて不可逆的な気候危機を回避する目標の実現に向けて、政府、企業、市民がそれぞれの立場で取り組みを加速させている。

国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の首脳級会合で、開催国の英国のジョンソン首相(右)と拳を付き合わせてあいさつするインドのモディ首相=1日、英国・グラスゴー(同国政府提供)

国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の首脳級会合で、開催国の英国のジョンソン首相(右)と拳を付き合わせてあいさつするインドのモディ首相=1日、英国・グラスゴー(同国政府提供)

新型コロナウイルス感染症の世界的流行を受けて1年延期され、10月31日に開幕したCOP26。今年8月に国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した第6次評価報告書で、地球温暖化の原因が人間の活動であることに「疑う余地がない」と初めて明記され、温室効果ガスの削減目標のさらなる上積みや追加的な対策が求められる中でのスタートとなった。

11月1~2日の首脳級の会合では、アジアの首脳が長期的な削減目標を相次いで発表した。温室効果ガス排出量が世界3位のインドのモディ首相は、30年までに電力需要の50%を再生可能エネルギーで賄い、70年までにネットゼロを実現することを初めて表明した。

ベトナムのファム・ミン・チン首相は50年までにネットゼロ達成を目指すとし、タイのプラユット首相は50年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」を実現すると述べた。これによりアジア主要国のネットゼロ(またはカーボンニュートラル)の達成目標が出そろった。

既に50年までにカーボンニュートラルを達成するとの目標を表明している韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、パリ協定第4条に基づき5年ごとに提出・更新が義務付けられている温室効果ガス削減目標「国が決定する貢献(NDC)」について、昨年12月に提出した更新版からのさらなる上積みを表明した。

IPCCの報告書によると、1850~2019年のCO2の累積排出量は2,390ギガトン(1ギガトン=10億トン)。IPCCは、温暖化を一定範囲内に抑えようとする場合の目安として、排出可能なCO2累積総量を「カーボンバジェット」として発表している。気温上昇を1.5度に抑えるには、20年以降に排出できるCO2の残量は300~900ギガトンになると推計している。

例えば1.5度目標を67%の確率で達成するためのカーボンバジェットの残りは400ギガトンだが、現状の排出量が続けば30年前後にその上限を超えるとされる。早急な大幅削減が求められる20年代が「決定的な10年」と呼ばれる理由だ。

国際エネルギー機関(IEA)は、COP26での各国の削減目標引き上げを加味すると、今世紀末の気温上昇を1.8度まで抑えられる可能性があるとの声明を発表した。1.5度目標には届いていないものの、以前は各国の削減目標が達成されてもおよそ2.7度上昇するとされていたため、一歩前進したとの評価もある。

また、NDCについても、各国が30年までの削減目標を来年に見直すことが、COP26の合意文書「グラスゴー気候合意」に盛り込まれた。削減目標はさらなる上積みが図られるとみられる。

■「南北格差」埋める支援が鍵

アジア主要国の温室効果ガス排出量は、世界の40%超を占めている。経済成長の継続や人口規模の大きさから総排出量が増えている一方、先進国に比べて1人当たりの排出量が少ない新興国が多い。COP26では新興国から、歴史的な排出量の違いを踏まえて定められた気候変動枠組み条約の「共通だが差異のある責任」の原則に基づき、先進国に対して気候変動対策に充てる資金援助を求める声も上がった。

60年までにネットゼロを目指すインドネシアのジョコ・ウィドド大統領は首脳級の会合で、過去20年で同国の森林破壊率は大きく減ったと強調。24年までに60万ヘクタールのマングローブ林を再生し、30年までに林業分野で温室効果ガスの吸収量が排出量を上回る「カーボンネットシンク」を達成すると述べた。

その上で、「インドネシアは世界のネットゼロの早期達成に貢献できるが、われわれへの先進国の貢献はどれだけ大きいのか」と疑問を呈し、「先進国の支援と貢献が必要だ」と強調した。

世界最大の温室効果ガス排出国で、60年までのカーボンニュートラル実現を宣言している中国は、習近平国家主席がCOP26に出席しなかったものの、声明文で「具体的な行動を重視する必要がある。ビジョンは行動した時にのみ実現する」と述べた。その上で、先進国は自国のことにより多く取り組むだけでなく、途上国への支援をすべきだとした。

アジア主要国の1人当たりの温室効果ガス排出量は、石油産業が主力のブルネイが突出しているが、それ以外に世界平均を超えているのが韓国、マレーシア、シンガポール、日本、中国となる。

残る東南アジア諸国連合(ASEAN)7カ国とインドは世界平均を下回る。だが、これらの国を含む新興国は、海面上昇や干ばつ、台風など気候変動の影響を受けやすく、ドイツの非政府組織(NGO)「ジャーマンウオッチ」が公表している気候リスクを示す指数でも順位が高い。

「排出量は少ないが、影響を大きく受ける」国が多い新興国への資金提供を巡っては、09年のCOP15で先進国が20年までに年間1,000億米ドル(現在のレートで約11兆4,100億円)を提供するとした約束が未達となっており、グラスゴー気候合意の中でも実行の遅れに深い遺憾の意が示された。経済協力開発機構(OECD)は、この約束の達成は23年になるとの見通しを示している。

■東南アの脱石炭の思惑

COP26では温室効果ガスの削減策の一つとして、石炭火力発電の廃止に向けた宣言が発表され、47カ国・地域(英国のウェールズを1カ国・地域とカウント)が賛同した。温室効果ガスの排出削減対策がとられていない石炭火力発電所について、先進国は30年代、世界全体では40年代に廃止するという内容だ。アジア主要国では韓国とシンガポールのほか、石炭への依存度が高いベトナム、さらにインドネシアとフィリピンも条件付きで署名した。

ここでいう排出削減対策について、NPO法人「気候ネットワーク」の平田仁子・国際ディレクターは「国際的な定義としては、CO2回収・利用・貯留(CCUS)技術のことを指す」と説明する。

1次エネルギーの構成比率で石炭が4割を超える東南アジアの3カ国が宣言に署名した狙いについて、世界自然保護基金(WWF)ジャパンの東梅貞義事務局長は「脱炭素をしながら経済発展を目指すには、海外投資を呼び込んで新しい生産設備や技術で社会全体を脱炭素へ移行させる必要がある。その際に先進国が石炭火力発電に投資してくれる見込みがなくなったと判断したのだろう」と話す。

一方、日本の岸田文雄首相は、石炭や天然ガスを燃料とする既存の火力発電をゼロエミッション化するとし、アンモニアや水素を混焼する石炭・天然ガス火力発電に転換するために1億米ドル規模の事業を行うと表明。これらの技術でアジアの脱炭素を進めるとした。

また石炭への依存度が高い中国やインドも宣言には署名しなかった。COP26の合意文書でも、温室効果ガスの排出削減対策がとられていない石炭火力発電所の「段階的な削減(フェーズダウン)」に向けた努力を加速させるとし、採択案にあった「段階的な廃止(フェーズアウト)」からトーンダウンした。中国とインドが反発したためという。

これに対して、東南アジアやインドのNGOなどは相次いで抗議声明を発表。このうち「債務と開発に関するアジア民衆運動(APMDD)」は「気候ファイナンスの提供や化石燃料による温室効果ガス排出量の削減対策を遅らせる時間は、世界に残されていない」と批判した。


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