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【特別インタビュー】豪国内の安定需要、水素輸出に恩恵 岩谷オーストラリア・西村優GM

日本とオーストラリアで水素産業に注目が集まる中、オーストラリア・クイーンズランド(QLD)州で着々と水素事業を進めているのが岩谷産業だ。岩谷オーストラリア・ブリスベン事務所で水素事業開発・商用化検討を統括する西村優ゼネラルマネジャー(GM)に、同社の水素事業の方向性などについて聞いた。【NNA豪州編集部】

――岩谷産業の水素事業の取り組みは?

80年前から日本国内で水素事業を行い、液化水素や圧縮水素について13プラントを運営しています。当社にとって水素は将来の事業ではなく既に確立した事業で、日本における市場シェアは70%超です。

日本政府は、年間300万トンの水素を確保することを目標に掲げています。これらの水素は環境に配慮した方法で製造された水素である必要があり、再生可能エネルギー発電により水を電気分解する「グリーン水素」か、化石燃料由来で水素を発生させ炭素回収貯留(CCS)を組み合わせる「ブルー水素」で需要家に届ける必要があります。

これまでの水素事業は地産地消型で、現在の日本国内の水素需要は基本的に一定していますが、2020年代後半から急激に需要が伸びる見込みとなっています。

この需要に応えるため、国内生産の拡充と海外からの調達の両輪で検討を行う必要があります。当社は、国内事業への投資だけではなく、海外で水素を作ることにも投資し、複数のプロジェクトを同時に進めていく方針です。

――オーストラリアの水素事業はどうでしょう?

岩谷産業は、ビクトリア(VIC)州で褐炭から水素を取り出して日本に送る「ハイドロジェン・エナジー・サプライ・チェーン(HESC)」に参画しています。

それ以外にも今年9月にプレスリリースしたQLD州の電力公社スタンウェルと共同で進めているCQ―H2プロジェクト等を推し進めています。

VIC州のプロジェクトでは、年間生産目標が22万5,000トンで、QLD州では30万トン強を目指します。VIC州とQLD州のプロジェクト以外にも、オーストラリアではいろいろな案件が動いており、当社が関心を持っているその他プロジェクトもあります。

――スタンウェルとの事業とその現状は?

スタンウェルとの事業計画では、太陽光・風力発電などの再生可能エネルギー由来の電気を活用し、水電解装置により全く二酸化炭素(CO2)を排出せずに水素を発生させ、その水素を20キロメートル程度のパイプラインで港まで運び、そこで液化して船に注ぎます。

プロジェクトは、スタンウェルとAPA、川崎重工業、関西電力、丸紅、当社の6社で進めており、今後も役割に応じてプロジェクトの拡張を検討していきたいと思います。

現在、事業化調査を実施中で、2022年3月を終了めどとして進めています。実はコンセプトスタディーとしての事業化調査を既に一度終えており、現在実施しているのは事業化調査ですが、より細かな概念設計作業(PreFEED)と言える内容の検討を行っています。

QLD州で開催された水素カンファレンスで岩谷産業の事業について話す西村優GM(GEA提供)

QLD州で開催された水素カンファレンスで岩谷産業の事業について話す西村優GM(GEA提供)

これに対し、連邦政府の再生可能エネルギー庁(ARENA)からグリーン水素製造・輸出案件としては唯一217万豪ドル(約1億8,200万円)という資金が出ており、日本の経済産業省からも補助金を受給しています。

こうした中、まずは足元の事業化調査で着実に成果を出すことと、スタンウェルをはじめとした現地企業やQLD州政府、現地コミュニティーとの関係性強化を実施することを目標とし、ブリスベンに水素専門の事務所を開設しました。

――QLD州の利点はどのようなものですか?

QLD州グラッドストーンの位置する東海岸は人口が多く、オーストラリアの中では産業もバラエティーに富んでいます。輸出だけではなく、オーストラリア国内に水素を供給することも考えたプロジェクトの場合、東海岸には大きな内需があります。

水素は製造量を拡大すればコスト低減が期待できるため、オーストラリア国内での安定した水素需要は輸出事業者にとってもウィンウィンの関係になります。

輸出面で重要な点は港です。グラッドストーン港は、オーストラリアの中でも恵まれた条件の良い港です。既に整備された土地や桟橋があり、建設予定地がQLD州政府の産業開発用地であることも大きなポイントです。

水素製造拠点について、既にスタンウェルが最適な場所のデューデリジェンス(資産査定)を終了させ、アルドガ(Aldoga)地区に236ヘクタールの土地を確保しています。すぐ真横に送配電のサブステーションがあり、既設インフラの活用を考えてもいいでしょう。

――港として重要な点は?

液化水素事業で港の条件として大事な点は、液化水素タンクと液化水素運搬船との距離です。水素はマイナスセ氏253度で液体になりますが、船までの配管距離が長いと、それだけ気化してロスが大きくなります。ロスを抑えるには短い距離が望ましく、そういった意味でも、グラッドストーンは非常に良い港です。

――水の確保は問題ではないですか?

その問題については、今まさしく事業化調査の中で議論しています。スタンウェルは州政府系の企業で、現地水道局などとも密に議論を行っています。

オーストラリアは必ずしも水資源が豊富な国ではありませんが、グラッドストーンの水資源に問題はありません。ただ、インフラがうまく連携しておらず、現時点では水素のような新産業に潤沢に水を割り当てられません。この点は、以前から懸念されていることもあり、QLD州政府は既にインフラ拡充に向けた事業計画を実際に行っています。今後は大きな問題にはならないでしょう。

――オーストラリアではブルー水素とグリーン水素がある中で、前者への懸念が出ています

非常に難しい問題です。最終的には各国の指針や、オフテイカー(引き取り手)がどのような水素を求めるかによります。ブルー水素であっても環境には特に影響はないとの理解が続けばいいのですが、CCSへの懐疑論が世論にあることも事実です。

大規模な設備を導入する事業は投資額も大きく、プラントの寿命も数十年の期間で検討し、投資回収を行っていくことになりますが、十年後にどのような水素が世の中に受け入れられるのかは現時点では分かりません。

各国が今後、低炭素水素に対する基準を明確化していくことになり、その基準にのっとってオフテイカーは水素を調達することになるので、この基準が最も大きな指標になるでしょう。

オーストラリア企業は日本企業よりもグリーン水素、ブルー水素について個々にはっきりとした意見を持っている傾向があり、これらの意見は大切にしないといけません。

ブルー/グリーンの議論については明確な回答が出る前に投資判断を行わないといけない可能性もあり、中長期目線での基準の議論と、オフテイカーが長期・安定して水素をオフテイク(引き取り)できる仕組み作りを急がないといけません。

――水素キャリアとしてアンモニアに注力する企業もあります

グラッドストーンの事業では、液化水素を主体に考えています。キャリアについてはすべてのキャリアに一長一短がありますが、アンモニアと液化水素では、技術開発のポイントが違います。

アンモニアの場合、製造・輸送においては既に技術が確立し、さまざまな場所で検討が進んでいますが、一方で利用面の開発を行う必要があります。

また、アンモニアが欲しいという企業以外に、水素が欲しいという企業も多く、日本国内での分離/精製、水素としての二次配送を検討する必要があります。その場合、分離/精製、二次配送にそれなりのエネルギーが必要で、この点についても課題解決が必要です。

液化水素は、HESCで取り組んでいるように、大規模製造・貯蔵・輸送という過程で技術開発が必要ですが、日本に持ってきて顧客に届けるという点では、当社はすでに国内で長年の実績があり大きな障害はないでしょう。

液化水素なら、高純度の状態で顧客に届けることができ、かつ効率のよい液体状態で輸送・昇圧を行うことも可能で、幅広いニーズに応えることができます。

――日本のエネルギー事情の中で、水素の位置づけは?

基本的には電化がどんどん進むと考えていますが、将来的に水素がある一定の役割を担うとみられ、安価で安定した水素を供給し続けることが最大の課題です。

水素の大規模な利用先は電化にも共通する火力発電所で、環境に良い電気を作ることが最大の目的です。

ただ、すべてを水素に変えるという意味ではなく、日本で再生可能エネルギーから電気を取り出せば、コスト・効率を考えてもそのまま電気として使った方がいいでしょう。

一方、熱を発生させたい事業者や、電力の大規模な貯蔵・変動的な取り出しを行う事業者にとっては、水素が一定の役割を持つでしょう。

将来の電源構成としては、日本政府が閣議決定した第6次エネルギー基本計画にも記載されている通り、再生可能エネルギーの比率を上げることが一番の優先事項です。

計画の中で日本政府は、30年時点で1%の電力を水素・アンモニアによるエネルギーで賄うと発表しています。今まで水素やアンモニアが電源構成の中に全くなかった中で、これはかなり大きな進歩です。

水素・アンモニアについては、当然ですが現在の火力発電所がある立地で、活用の伸びしろがあるでしょう。

当社の使命は、水素を安定的に日本に届けることで、環境によい電源を水素という形に変えて日本に届けることを意味します。

30年に1%という目標からのスタートですが、今までにないこの新しい1%を達成するという大きな目標に向かって全力で取り組んでいきたいと考えています。(聞き手=小坂恵敬)


関連国・地域: オーストラリア日本
関連業種: 化学運輸天然資源電力・ガス・水道マクロ・統計・その他経済

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