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米SPAC上場の新興企業増 巨額の資金調達、信頼性獲得へ

東南アジアの大型スタートアップが、特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じて米国市場に上場する動きが活発化している。SPAC上場は手続きの簡素化・迅速化が可能な上、巨額の資金調達や、投資家の信頼を獲得できることが魅力だ。こうした流れを受け、域内の取引所の間でもSPAC上場を認める動きが広がっている。【清水美雪】

シンガポールの配車サービス大手グラブはSPACとの合併を通じて米ナスダック市場に上場する計画だ(グラブ提供)

シンガポールの配車サービス大手グラブはSPACとの合併を通じて米ナスダック市場に上場する計画だ(グラブ提供)

シンガポールでは配車サービス大手グラブが4月、米投資会社アルティメーター・キャピタルのSPACであるアルティメーター・グロース・コープとの合併を通じ、米ナスダック市場に上場する計画を公表。不動産情報ポータルサイト大手プロパティーグルは7月、米上場のSPAC、ブリッジタウン2ホールディングスと統合し、ニューヨーク証券取引所に上場すると発表した。

フリーマーケットサイト運営大手カルーセル・グループも、SPACを通じた米上場を検討中とみられる。最近では、新興バイオテクノロジー企業ミレックサス(MiRXES)も米国でのSPAC上場に向けて交渉中だと地元紙が報じた。

中古車売買サイトを運営するマレーシアのカーサムや、インドネシアの旅行サイト運営チケットドットコム、ベトナムのIT大手VNGコーポレーションといった、シンガポール以外の東南アジアの企業でも同様の動きがみられている。

東南アジアのスタートアップが米国でのSPAC上場を目指す背景には、世界のSPAC市場の中心地である米国で、巨額の資金調達が見込めることがある。

グラブは米国でのSPAC上場で、最大45億米ドル(約5,009億円)の資金調達を見込む。これに対し、シンガポール取引所(SGX)における今年の新規株式公開(IPO)の最高資金調達額は、9月30日時点で3億1,437万Sドル(約258億円)となっており、米国と比べて規模の差は歴然としている。

域内の大型スタートアップが米上場を目指す理由としてはこのほか、「投資家からのお墨付き」を獲得する意味合いもあるようだ。

スイスとシンガポールにあるビジネススクール、国際経営開発研究所(IMD)のハワード・ユー教授はNNAに対し、「米株式市場にアクセスすることは、資金調達だけでなく会社の信頼性獲得にも寄与する」と指摘。SPACとの合併を通じた米上場が成功すれば、投資家から「ゴールドスタンダード(投資家が求める基準)」を満たしていると見なされるためだ。

域内の証券取引所は大型スタートアップに対し、米国と自国での二重上場を働き掛けているといわれるが、自国で先に上場しても米上場で得られるような「ステータス」を獲得するのは難しい。先に米国で上場すれば、「将来自国でも、上場などを通じた資金調達がしやすくなる」(ユー教授)という。

米国の投資家が、投資先を多様化するためにアジアのスタートアップへの関心を高めていることも、アジア企業による米上場の増加に拍車をかけていると付け加えた。

■魅力的な出口戦略

SPAC上場は、投資家がSPACを設立して上場させた上で他の企業を買収し、その企業と合併するという手法だ。SPAC自体は事業実態がないため、一般的な企業のIPOとは異なり、上場までの準備期間が短く、審査も簡素化されている。

著名投資家がSPACを組成したことや、新型コロナウイルスの流行で業績予測が困難になり、通常のIPOでは上場審査などに時間がかかるといった現状を受け、SPAC上場は昨年から増加傾向にある。スタートアップにとっては、SPACを通じた上場は魅力的なイグジット(出口戦略)となっている。

さらにコロナ禍での過剰流動性を背景に株式市場への資金流入が続いている。大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)は世界のIPO調査の中で、「株式市場での流動性の高まりがSPAC上場の増加を加速させている」と指摘した。

米ベーカー&マッケンジー法律事務所がまとめた2021年上半期(1~6月)の統計によると、SPAC上場の世界的な中心地となっている北米では、SPACのIPO件数が322件となり、昨年通年の248件を既に大きく上回った。

■シンガポールも始動

アジアの証券取引所の間でも、有望なスタートアップの上場を誘致する取り組みが広がっている。シンガポールや香港、インドネシアではSPAC上場の容認に向けた動きが出ている。

シンガポール取引所は9月初旬、SPACのメインボード(第1部)上場の申請受け付けを開始。時価総額が最低1億5,000万SドルのSPACの上場を認める。地元紙によると、アジアの主要取引所では初の取り組みという。

シンガポール貿易産業省は9月中旬、急成長するスタートアップの上場を支援するため、こうした企業を対象とするエクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)の支援策を拡大すると発表した。

アーンスト・アンド・ヤングは今後のSPAC上場の見通しについて、「米国市場が世界の中心であり続けるが、シンガポールや香港、インドネシア、英ロンドン、ドイツ・フランクフルト、オランダ・アムステルダムなどの取引所でもSPACを上場させる動きが広がる」と指摘する。

域内の大型スタートアップによるSPAC上場先が今後多様化するかどうかは、現地の取引所の上場誘致の取り組みにかかっているといえそうだ。


関連国・地域: ベトナムマレーシアシンガポールインドネシア米国
関連業種: 金融マクロ・統計・その他経済

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