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【有為転変】第167回 原子力潜水艦を導入せよ(その1)

オーストラリアが米国、英国と組んで新しい安全保障の枠組み協定「AUKUS(オーカス)」を発足し、原子力潜水艦を導入すると発表したことが世界的な注目を集めている。国内では総じて好意的な反応が多いが、日本にとっては青天のへきれきだったに違いない。だが原潜の導入は、水面下で進められていた「既定路線」だった。また、安全保障面でオーストラリア以上の危機に直面している日本が、オーストラリアのように戦略的に動けないことをあらためて印象付けた形になったと思っている。その背景を説明したい。【NNA豪州・西原哲也】

モリソン首相が、フランスとの新型潜水艦の共同開発契約を破棄し、米国と英国の支援で原子力潜水艦を導入する、と電撃的に発表したのは9月16日朝だった。

同首相は「(オーストラリアとニュージーランド、米国との間で)1951年に結んだ太平洋安全保障条約(ANZUS=アンザス条約)以来の意義がある歴史的協定だ」と誇示した。

オーストラリアの地元各紙が大々的に報じた

オーストラリアの地元各紙が大々的に報じた

フランスとの共同開発計画を破棄することによる追加出費は莫大(ばくだい)なものだ。また、当初予定していた完成がさらにずれ込むことになる。現在までにコストは既に26億豪ドル以上支出済みで、今後40億豪ドルがフランス側に支払われることになっている。ここからさらに、当初コストである900億豪ドルをはるかに上回る費用がかかる。それでもモリソン首相は「無駄な出費ではない。我が国の能力を高める重要な投資だ」と胸を張ってみせた。

オーカスの主な骨子は下記の通りだ。

◆オーストラリアが原潜8隻を導入。アデレードで建造し、初号艦進水までに約10年を見込む

◆今後18カ月間協議し、米バージニア級か英アスチュート級のどちらかを導入

◆現在のコリンズ級潜水艦6隻は運用期限を延長

◆パースに大型艦のメンテナンス施設を建設

◆3カ国の軍事同盟、生産・技術協力を強化

◆中長距離巡航ミサイル「トマホーク」の搭載協力

◆現在のコリンズ級からのつなぎとして、米ロサンゼルス級をリースする計画

フランスとの共同開発契約が2016年に締結して以来、紆余(うよ)曲折があったものの、まさかオーストラリアが原潜カードを切ってくるとは、という驚きが日本にはあっただろう。だが、その一報に対する個人的な感想は「やはり来たな」というものだった。いずれ原潜を導入せざるを得ないと見ていたからだ。

ではここで、オーストラリアが新型潜水艦を導入することになった経緯を振り返っておきたい。

■労働党政権からの原潜要望

まず、当時のラッド労働党政権が2009年に発表した防衛白書の中で、6隻あるコリンズ級潜水艦を大型潜水艦12隻に増やす必要に言及した。

これに基づき、労働党政権は12年2月には既に、米バージニア級原潜のリースか購入を検討していた。この時は、在豪米国大使館のジェフ・ブライヒ大使が仲介し、「米国は喜んで協力する」と述べていた。

だがこの計画は頓挫することになる。原潜の導入には国内の原子力産業などのインフラ施設の存在が不可欠で、オーストラリアには事実上不可能だったからである。

そのため、次のギラード労働党政権は、スペインのナバンティア、フランスDCNS(当時)、ドイツHDWの欧州造船3社のほか、日本の海上自衛隊が保有する「そうりゅう型潜水艦」を候補の一つとして検討し始めた。

■アボット首相と日本の深い関係

その後、14年にアボット保守連合政権が誕生する。アボット首相はそこで、原潜導入の選択肢をあらためて考慮し、米バージニア級か英アスチュート級の原潜を導入する適正評価に関する報告書をまとめた。

アボット首相だけではない。当時のジョンストン国防相も過去6カ月にわたり、次期潜水艦には原潜を導入するよう訴えていた。先の報告書は公開されていないが、オーストラリアにとって原潜導入は現実的ではないと結論付けたようだ。

そこで親日的なアボット首相は、排水量4,200トンのそうりゅう型潜水艦の導入に向け、官民連合の日本が設計と建造を請け負う方向で日豪政府間の協議を水面下で重ねた。

だがそれは、アボット首相の政治的采配と共に、独断的な「日本との密約」として党内外から批判を呼ぶ。そのためアボット政権は、日本とフランス、ドイツの3カ国に絞り、潜水艦事業を公開入札とした。入札で提示した潜水艦の性能条件はあくまで「ディーゼルエンジン」であり、政治的にも技術的にも日本が有利だったため、入札は形式的なものとさえ思われた。

だがその直後、政権内の争いでアボット首相が退陣を迫られ、16年にターンブル政権が誕生すると、同政権は入札でフランスのネイバル(旧DCNS)社のバラクーダ潜水艦開発(12隻)を選び、日本をあぜんとさせた。

米国のミサイルなどを搭載する以上、確固とした日米豪の安全保障協力が期待できる日本が断然有利だったはずだが、その日本を無情にも袖にした形になったのだ。(続く)

【続きは来週月曜日の27日に掲載します】


関連国・地域: オーストラリア日本米国欧州
関連業種: 政治社会・事件

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