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【食とインバウンド】政治と一般消費者の温暖化対策

第26回

国連が地球温暖化に関する報告書を8年振りに公表しました。近年世界のあちこちで多発している熱波や豪雨を「極度の現象」と称して、「今後頻発する可能性が高い。それを防ぐためにも温室効果ガスの排出を削減する必要がある」と警鐘を鳴らしたのです。果たしてそれを実現するために、食はどのように貢献できるのか。今月は温暖化対策について考察します。

■人間の活動が地球を温暖化させている

報告書を公表したのは国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)です。1990年に最初の報告書を発表してから人間活動が温暖化に及ぼす影響を指摘してきました。前回は8年前で、第5次の報告書では「人間活動による影響が地球温暖化の主要因である可能性が極めて高い」としていましたが、今回の報告書はさらに踏み込み「人間活動が影響していることは疑う余地がない」と断定した表現になっています。

報告書は最新のデータによる研究に基づいています。それによると、産業革命(18世紀後半)以降の気温の上昇は過去2000年以上の期間で例がないほど高い。そしてそれは、過去10万年で地球が最も温暖だったと考えられる時期よりも高いと推定されるとのこと。つまり、経済活動が活発化した過去250年の間に地球は温暖化し今後はさらに悪化する。そしてそれは人間が引き起こしているのだと断じたわけです。

この報告書の発表を受け、各国首脳が相次いで発言しています。米国ブリンケン国務長官は「温暖化対策をこれ以上遅らせるわけにはいかない。できることは全て行わなければならない」と述べ、英国ジョンソン首相は「世界が今行動を起こすため、この報告書が警鐘になることを願っている」と述べました。仏国のマクロン大統領は「この報告書に議論の余地はなく、もはや憤慨しているだけではすまされない」と述べ、パリ協定の履行を世界へ呼びかけました。

■それでも対応できない消費者の言い分

世界の政治家は口々に危機感をあらわにしていますが、一般消費者はどうなのでしょうか。報告書の公表直後に発表された、ある調査結果をご紹介しましょう。『OCBC Climate Index(気候指数)はシンガポールに本拠を置く金融グループOCBCが、今年5月から6月に調査した結果をまとめたものです。調査対象は18歳から65歳のシンガポール人2,000人で、オンラインで106問に回答しました。

図は調査の柱となっている交通手段、家庭、食品、グッズの4分野における意識と、なぜ適応できていないのかの理由を示しています。

◆交通手段: 95%の回答者は「車は列車よりも12倍のCO2(二酸化炭素)を排出している」ことに気づいています。その回答者の78%の人たちは平均して1日30分以上運転しているにもかかわらずです。

◆家庭: 87%の回答者は「エアコンが家庭内で最もCO2を排出している」ことを知っています。その回答者の34%の人たちは平均して1日7時間以上エアコンを使っているにもかかわらずです。

◆食品: 76%の回答者は「食品は環境に大きな影響を及ぼしている」ことに気づいています。その半分の人たちは平均して1週間に2回以上赤肉を食べているにもかかわらずです。もっとも、赤肉を食べている人たちのうち77%の人たちは肉食を減らしたいと考えています。

◆グッズ: 81%の回答者は「プラスティックバックは分解するまで500年かかる」ことを知っています。その回答者の78%の人たちは自分で買い物バックを持ち歩いていないにもかかわらずです。

本連載23回と24回でご紹介したように、シンガポールは国全体でサステナブルな国づくりを目指しています。2030年までに食品自給率を30%まで引き上げようという野心的な試みに対して国民に理解と協力を呼びかけています。そのシンガポールでさえ、現実は調査結果の通り、消費者の多くはまだ具体的な行動には至っていません。しかし一方で、この調査から直近で解決すべき点はコストと利便性であることが明らかになりました。こうした点について、戦略国家シンガポールは国が主導して対策に乗り出しています。

■そして動き出した国家ファンド

テマセク・ホールディングスは世界有数(資産規模世界第7位)の政府系投資会社です。金融、通信、資源、テクノロジーをはじめ幅広い産業に投資しています。近年はアグリテック、フードテックへの投資を積極化させており、代替肉メーカーであるインポッシブルフーズや培養肉メーカーであるメンフィスミーツ(共に米国)へも出資しています。これはシンガポールの国家政策「シンガポール30―30」に基づくもので、先行する海外企業への投資を通じて自国での産業を振興し、先述のとおり30年までに食料自給率を30%へ引き上げようとしているのです。

そのテマセクほかシンガポールの政府主要機関による食の一大イベントが22年に開催を予定しています。「シンガポール国際アグリフードウィーク』と名付けられたイベントは各国の主要企業、政府行政機関、ポリシーメーカー、スタートアップ企業が参加し、食の新たなエコシステムを構築することを目指しています。当然投資家と起業家を結びつける機会でもあり、シンガポールが目指す「アジアのフードテック・ハブ」への試金石になると期待されています。

世界ではこうした政治主導による様々な温暖化対策が講じられています。私たち消費者の多くはその重要性は理解しているものの、具体的な行動に移せていません。国連が断じた人間活動による温暖化をいかに食い止めることができるのか。食はどうやって貢献できるのか。「やりたいけどできない」という大きな商機を取り込むサービスや事業者の登場が待たれます。

<プロフィル>

横山 真也

フードダイバーシティ株式会社 共同創業者

プラントベースジャパン株式会社 共同創業者

キャリアダイバーシティ株式会社 共同創業者

ヨコヤマ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役

2010年日本で独立開業後、12年シンガポール法人を設立。14年ハラールメディアジャパン株式会社(現フードダイバーシティ株式会社)、19年フリーフロム株式会社(現プラントベースジャパン株式会社)、20年キャリアダイバーシティ株式会社を共同創業。
日本と海外での500社以上のプロジェクトマネージメントが評価され、16年シンガポールマレー商工会議所から起業家賞を受賞(日本人初)。著書に「おいしいダイバーシティ~美食ニッポンを開国せよ~」(ころから株式会社)。ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科修了(MBA)、同大学および東洋大学非常勤講師。


関連国・地域: マレーシアシンガポールインドネシア日本
関連業種: 食品・飲料サービス観光社会・事件

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