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【特別インタビュー】「日本とNZ、よって立つ考え方は同じ」 伊藤康一駐NZ日本大使

新型コロナウイルス禍に世界で最も厳格に対処して評価を高めたニュージーランド(NZ)。日本とは地理的には遠いが、同じ島国として実は共通点は数多い。着任して半年が過ぎた在NZ日本国大使館の伊藤康一大使に、日本とNZの経済・政治上の課題などについて聞いた。【NNA豪州編集部】

――NZのコロナ対応についてどう評価しますか

世界的にも、例外的にうまくやっている国だと思います。理由は島国ということと、人口規模が小さいことでしょうか。

最近の例では、シドニーからウェリントンに来た人の感染がオーストラリアから伝えられるや、担当閣僚が記者会見を行い、翌日から警戒レベルをすぐに引き上げるなど、全人口500万人だからこそできるのかもしれませんが、文字通りの緊急対応を行いました。これに対し文句を言う人もいますが、翌日から皆がきちんと従います。自由と民主主義を大事にする国ですが、うまいバランスができている点に感心します。

――NZに来てからどういった要人と会いましたか? アーダン首相とは話しましたか

NZ議会の議長のほか、結構な大物議員らと会いました。前副首相のウィンストン・ピーターズ氏は、非常に話の上手な魅力的な人でした。また、オコナー貿易・輸出振興担当相は面会の機会に、日本はビジネス・パートナーとして重要なだけでなく、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)でも日本との協力が重要だと力説していました。アーダン首相とは、何回か行事の時に会って言葉を交わす機会がありました。若々しい国の指導者といった印象です。

「NZにとって日本は、困った時に一緒に問題を解決するパートナー」と語る伊藤康一駐NZ大使

「NZにとって日本は、困った時に一緒に問題を解決するパートナー」と語る伊藤康一駐NZ大使

最初に話した機会は、10年前に起きたクライストチャーチ大地震の追悼行事でした。この地震では、日本人も若い人たちを含め多くの方々が犠牲になりました。アーダン首相と行事の後に話す機会があり、「日本の家族の皆さんに、NZの人々は皆様と共にあると伝えてください」と改めてお願いをされました。

――一般のNZ人の間での日本に対するイメージはどのようなものですか

他の多くの国と同じように、NZでも日本に対する良い印象をよく聞きます。

一般の人たちの感覚で言うと、日本車の高品質なイメージでしょう。または、NZの国民的スポーツであるラグビーで、選手がたくさん行っている国です。日本からも、何人かのラグビー選手がNZで活躍しています。

加えて、若い人たちの間では何と言っても、ポップカルチャーやアニメ、さらに日本食で日本のイメージができているというところでしょうか。

また、NZの地方自治体が持つ海外姉妹都市関係では、一番多いのが日本です。44自治体が、日本と姉妹都市関係を持っています。ウェリントン市は大阪の堺市と、ウェリントンの隣のローワー・ハット(Lower Hutt)市は、同じ大阪府の箕面市と姉妹都市です。コロナの影響で姉妹都市間の往来は途絶えていますが、オンラインなどのイベントをやっています。

また、ウェリントンでは2年に1回、地元の有志や日本人が協力してジャパン・フェスティバルを開催しており、2万人ぐらいの人が集まります。

――日本とNZの両国にとって重要課題は?

これまで、総理や閣僚レベルを含め日・NZ間の会談や訪問の中で議論の積み重ねがあり、多くの課題や問題について意見の一致があり、共にパートナーとして努力しています。

まず、地域の持続的な発展に向けてのストラクチャー、アーキテクチャーについての努力を共にやっていくということです。CPTPPの発効や、APECの成功に向けた協力、先に妥結した東アジア地域における地域的な包括的経済連携(RCEP)協定で、日本とNZはメンバーとして共に協力しました。

CPTPPでは、米国が離脱して駄目かと思った時に、日本とNZ、その他の国が一緒になって発効までこぎつけました。英国がCPTPPへの参加を表明しましたが、日本やNZなどが英国の加盟問題を緊密に話し合っていくことになります。

――今年で言えば、NZが議長国としてAPECをバーチャルで開催しています

1994年にインドネシアで開催されたAPECで、経済自由化に向けた努力目標「ボゴール目標」が作られ、その翌年に開かれた大阪APECでは日本が議長国として実行プラン「大阪アクション・アジェンダ」をまとめました。NZは、この当時の経緯も参考にしているようです。

NZや日本を含むこの地域全体のビジネスや貿易、投資の大きな枠組みを作っていく中で、日本はNZにとって必ず一緒にやらなければいけない、困った時に一緒になって問題を解決するパートナーとなっているようです。

伊藤大使(左)とNZのアーダン首相(在NZ日本大使館提供)

伊藤大使(左)とNZのアーダン首相(在NZ日本大使館提供)

また、世界貿易機関(WTO)をどのように維持・強化していくかについて、個別分野の貿易交渉では厳しい交渉が必要ですが、目指すところは同じです。

NZと日本は、自由と民主主義と法の支配やビジネスの慣行など基本的な部分で共通しており「ライク・マインド・カントリー」としてやっていけるところが多くあると思います。

――NZの経済・ビジネスの特徴で興味深い点は?

NZ経済の主要部分が農業・畜産酪農業等の一次産業であることは間違いありません。

人口500万人の国で輸出市場として小さいですが、面白い点は英語圏のグローバル企業が、新しい事業を行う際、NZでテストをする例が少なからずある点です。一次産品の経済を超えた、デジタルエコノミーが結構進んでいます。

――デジタルエコノミーで興味深い企業はどうですか

30年ぐらい前から、例えば米国のプロ野球メジャーリーグやプロゴルフのテレビ中継などで行われるプレー直後の打球の解析システムを、南島にあるダニーデンという小さな街の企業が開発しています。

ウェリントンには、映画「ロード・オブ・ザ・リング」のイメージの造形で一躍有名になった、ウェタ・ワークショップという映画の特殊撮影を専門にする会社があります。オーナーは日本のサブカルが大好きで、ぜひ日本企業と組んでやりたいということも言っていました。

――映画産業が注目されているようです

新型コロナが始まってから、世界中で映画撮影ができる場所がNZぐらいとなり、ネットフリックスやアマゾンプライムなどに向けて、海外映画会社が撮影していました。デジタル・エンタメ産業があるので、もう少し日本の関連企業から注目していただければ面白いでしょう。

NZ政府は、映画の製作費の3~4割を条件が整えば補助するとしており、残りをNZ企業と海外企業が折半する形です。そうすると海外企業は3割負担で済みます。

――日本とNZのビジネス関係で新しい動きはありますか

南島のダニーデンのスタートアップ企業が、NZのパラリンピックの世界でヒロインとなっている女性選手をキャラクターにして、日本のビデオゲーム会社と組み、東京パラリンピックの公式ビデオゲームを作っています。新しい動きは、小規模ながらじわじわと始まっています。

ビジネスオペレーション的には、中小企業の海外ベンチャーと組むというところでは、NZは面白いところです。

また、将来の大きなビジネスとなる可能性があり、ひときわ注目される動きがあります。気候変動対策の大きな柱の1つは再生可能エネルギー分野ですが、さまざまな新たな取り組みが本格化する中で、NZでは水素燃料の実用化に向けた事業プロジェクトが日本とNZの民間ベースで進んでおり、両国政府の支援も受けています。

NZは日本と同じように地震火山地帯にあるので、地熱発電が盛んです。地熱で発電した電力を使い、豊かな自然環境の中で水を分解して100%グリーンな水素を製造し供給するという試みが始まっています。

――農業はどうでしょう

日本から幾つかの農業の起業家の人たちが来て、ブドウやイチゴなどを日本の栽培ノウハウで生産する事業を開始しており、ブドウはNZ市場に出始めています。

季節の逆転を利用して、日本のオフシーズンに北半球向けに輸出する計画があり、将来的に東南アジアや日本へ輸出しようという動きもあります。NZでできることに着目すると、幾つか面白いことができるかもしれません。

ビジネスで付け加えるなら、(先住民)マオリの人たちはこの国の経済や社会を形作る大切な構成要素です。農林水産業に必要な土地や湖、森林といった資産は多くの場合、マオリのトラストが所有しています。

外資も含めてそれらを利用するには、その使用権を契約で設定する必要があり、マオリの人たちからの信頼を勝ち取ることが大事なようです。

――マオリの人たちは日本についてどう思っていますか

マオリのビジネスリーダーの方々は、日本人はどこかの国のように「もうからないからすぐ撤退」というのではなく、非常に長期的なビジネスを考えてくれると言っていました。最初の契約に至るまで時間がかかる時もあるけれど、関係ができれば10~30年単位で続けてくれるので、彼らのスタイルに合うそうです。

――日本とNZの経済・貿易関係はどうでしょう

オコナー貿易相と会い、日本との貿易関係について話しました。日本はNZにとって4番目の貿易パートナーですが、日本への貿易での期待を強く感じました。

新型コロナ中の大変良い面白い試みは、NZ政府が海外に貿易促進ミッションを出せない中、同相が率いて、NZにとって初のバーチャル貿易促進ミッションを、東京とウェリントンを結んで行ったことです。日本とNZからそれぞれ30社前後の企業が参加し、今後のビジネスパートナーシップについて話し合いました。

――大使館として、ビジネスサポートはどのようなものがありますか

今NZは新型コロナ対策のため、外国からの来訪者は原則入国禁止になっていますが、専門技術を持つ人などビジネス関係でNZの経済になくてはならない人材は、特例的に入国が認められています。NZ政府が審査しますが、大使館も必要に応じて「この企業はこういう意味で大事です」といった口添えをする形などで側面からサポートしています。

大使館として他にビジネス関係で日常的に行っているのは、日本企業から相談を受けてNZ側の窓口を紹介したり、状況を説明するというようなことです。

日本貿易振興機構(ジェトロ)の事務所が昨年オークランドからなくなり、オーストラリアのシドニー事務所がNZを管轄し、NZ国内の業務は民間事業者に委託する形態になっています。

要望があれば大使館の方でも館内の経済班を窓口として、一般的な経済状況や投資環境について説明など対応しております。

また、日本とNZの企業の間では、年に1回ぐらいの頻度で日本NZ経済人会議が開催され、ビジネス促進の弾みになるような役割を果たしています。日本からは農林水産業とか、商社その他の企業を中心にたくさん参加しています。NZも主な企業を中心に、これからのビジネスの大きな分野として、再生可能なエネルギーやデジタル分野などいろいろな議論をしています。

ビジネス界の間の対話の場で、大使館もそこに呼んでもらって参加しています。次回は今年の11月にバーチャルで、オークランドと東京を結んで開催されます。

――ビジネス以外で日本とNZの間で大事な分野は何でしょうか

南太平洋の島しょ国への協力支援を、日本とNZで連携してさらに進めていくことでしょう。

島しょ国にとってNZとの関係は、非常に大事なようです。日本にも、太平洋の島々は大切です。島国は国土は小さくても、経済水域が200カイリあります。例えば、日本に入ってくるマグロの4割は太平洋産です。

また、新しいビジネスで言えば、大陸間や世界を結ぶ通信網が一層大事になる中で、太平洋は主要な海底ケーブル敷設の場です。

島しょ国の多くが今、コロナウイルスのために苦しんでいます。日本は、コロナ対策に限らず、島しょ国の経済社会発展をNZと連携しながら進めていく必要があります。

日本は島しょ国とは大変良い関係を築き信頼も勝ち得ています。日本とNZは基本的なよって立つ考え方が同じで、良いパートナーです。

現在の国際環境において、日本外交の最優先課題は「自由で開かれたインド太平洋」の推進です。日本とNZは国際法に基づく自由で開かれた環境の下で、この地域が平和と繁栄を続けるよう共に努力していこうという点で一致しています。

――最後になりますが、NZ大使としての使命はどのように考えられていますか?

大使の役割は、日本と駐在国の関係を幅広い信頼関係とパートナーシップに基づいた確固なものとするために、日本のことを積極的に紹介していくことにあります。来年は日本とNZの外交関係樹立70周年になります。新型コロナが明けたら、更にいろいろとやっていきたいと考えています。

二国間関係は、相手の国に日本に対する良い感情や印象をどれだけ持ってもらえるかというところにも大きくかかっています。姉妹都市関係の推進もとても大切です。

最後に、日本のことをNZに積極的に紹介するという大使の仕事ではないかもしれませんが、新型コロナウイルスがいずれ収束した後には、日本の皆様にはぜひまたNZを訪れていただければと思います。大自然に恵まれた太平洋の南端のこの島国は、大変に素晴らしいところです。(聞き手=小坂恵敬)


関連国・地域: オーストラリアニュージーランドその他大洋州日本
関連業種: 農林・水産IT・通信観光メディア・娯楽マクロ・統計・その他経済政治社会・事件

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