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【アジアで会う】稲田史子さん BEEインフォマティカCEO 第349回 小口融資で女性起業家支援(マレーシア)

いなだ・ふみこ 1979年東京生まれ。慶応大商学部卒。2003年日本銀行に入行。12年から2年間、英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)に留学し、ソーシャルビジネスとマイクロファイナンス(小口融資)を学ぶ。その後、バングラデシュの日系財団および日系IT企業で携わったフィンテック(ITを活用した金融サービス)に可能性を見いだし、19年、女性起業家向けのマイクロファイナンスを手掛ける「BEEインフォマティカ」をマレーシアで設立。今年5月にパイロット事業として地場6社への融資を開始した。

「複雑なキャリアでしょ」と笑うが、大きなくくりでは舞台が「金融」で一貫している。留学も転職も「理由があって選択し、いま全ての経験と知識が1つにつながった」と自信に満ちた表情を見せる。

19年にマレーシアで設立したBEEインフォマティカは、現地の女性起業家を対象に少額の融資を提供し、事業の滑り出しや運営を支援する。今年5月、初めて6社に対し試験的に小口融資を開始した。1社につき1万~1万5,000リンギ(約27万~40万円)を貸し付け、金利は年14.4%に設定。返済期間は9カ月~2年となる。

当初、国民の平均年齢が28歳と若く、インターネットへの理解が高いとみて、「融資手続きをオンラインで完結できるマイクロファイナンス事業の適地としてマレーシアを選んだ」。しかし、実際は思っていたのとは勝手が違った。申請には財務資料や個人保証など5種類の書類を求めているが、「1回でそろった試しがなく、直接会ったほうが早い」と苦笑する。

オンラインの利便性を生かして、BEEの強みとするはずだった「審査期間は1営業日」は理想に終わり、1社当たり5営業日はかかる現実を目の当たりにした。ただ、課題が浮かび上がったことで「ITサポート要員を雇って会計資料作成のアドバイスを行ったり、ロジックをシステム化したりするなど、事業を徹底的に見直していくきっかけにもなった」と前を向く。

オンラインによる迅速な審査を目指す一方で、資金調達のハードルを少しでも低くするため、審査に「サイコメトリック(心理統計学)テスト」を採用しているのもBEEの特長だ。これは、返済に関する借り手の行動様式を把握するもので、「資金を返す姿勢や金融リテラシーを持ち合わせているかどうかを判断するのに役立つ」。

将来的には、数千リンギほどの少額融資であれば、財務資料などがなくてもサイコメトリックテストのみで審査を済ませ、緊急に資金が必要な借り手に便宜を図るツールとして確立させる狙いもある。

■「マネー革命」に稲妻走る

「金融」に情熱を抱いたのは高校時代にさかのぼる。当時、NHKが放送していた4回シリーズのドキュメンタリー番組「マネー革命」(1998年)を見て、「全身に稲妻が走った」。

投機のプロたちが金融ネットワークを駆使して巨額の利益を手にする一方、世界の金融市場が混乱した時代。「金融は使い方を間違えると刃(やいば)にもなり、正しく使えば家計や企業、引いては国に活力を与え、『血流』にもなることを知った」。健全に循環する血流を経済にもたらしたい、との思いから金融の世界に飛び込んだ。

マレーシアでBEEを立ち上げるまでに「3つの舞台があった」という。一つは金融の基礎を学んだ「日銀」、もう一つはソーシャルビジネスとマイクロファイナンスの体系を理解した「英LSE」。最後はフィンテックや現在の共同経営者に出会った「バングラデシュ」だ。これら3つの舞台を経て導き出されたのが、マイクロファイナンスとフィンテックの融合。「金融の血流をより廉価に早く遠くまで届けられる」答えだとして、マレーシアでこれを実践に移した。

■働く意義を支えた「途上国」

異色の経歴かもしれないが、順風満帆にも映る社会人生活の中で一度だけ立ち止まったことがある。「日本」時代だ。「働く意義を見失い、仕事をすること自体が目的のようになった」と振り返る。「どこに向かって走ってるの?」と自問自答し続け、湧き上がってきたのは「途上国の金融業の分野で働きたい」との思いだった。

「金融」の稲妻が全身を駆け抜けた高校時代。それに続く大学時代には、非政府組織(NGO)「国境なき医師団」の下、ベトナムとカンボジアで国際協力の学生ボランティアを体験し、途上国への扉も開いていた。日本での挫折ともいえる迷いを断ち切り、3つの舞台を経てマレーシアにたどり着いたのは、若き日の情熱があったからこそだ。(マレーシア版編集・久保亮子)


関連国・地域: ベトナムカンボジアマレーシア日本バングラデシュ
関連業種: 金融マクロ・統計・その他経済雇用・労務

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