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【有為転変】第156回 NZの日本人捕虜殺傷事件

第二次世界大戦時にオーストラリアのニューサウスウェールズ州カウラで起きた日本兵捕虜脱走事件は、映画やテレビドラマになるなど日本でも有名だが、実はこの事件に先立ち、ニュージーランド(NZ)のフェザーストン捕虜収容所でも、多くの日本人捕虜の死傷者を出した同様の事件があったことは、なぜかあまり知られていない。事件が起きたのは1943年2月25日。ちょうど今日から78年前のことである。

フェザーストンは、ニュージーランドの首都ウェリントン北東部にある田舎町である。第二次世界大戦当時、この地にあった捕虜収容所に、ガダルカナルの戦いなどで捕らえられた日本人捕虜が収容された。

土井全二郎氏の回顧録「ガダルカナルを生き抜いた兵士たち」や、中野不二男氏の著書「カウラの突撃ラッパ」などに記されているこの事件の概要はこうだ。

■親日的だった収容所長の交代

同収容所内には、NZ兵から武器を奪って脱走する計画を持つ強硬派グループが数十人存在していたが、大半の捕虜はそうした強硬派とは一線を画していた。

ある時、強硬派グループが穏健派のいる居住区に移送されたのを機に、状況は一変した。強硬派は穏健派の一部を説得し始めたため、砲台長だった安達敏夫少尉率いる穏健派グループと、強硬派グループが分裂し、収容所内を二分した。

一時は一斉蜂起する計画もあったが、その直前に穏健派が身体を張って阻止した。その後安達少尉が、強硬派グループを1時間にわたり説得し、暴動計画を諦めさせたという。

翌43年に、ソロモン海戦やガダルカナル島の戦いで捕虜になった陸軍将兵が入所し、収容所の人数は約550人に増えた。その頃、2月中旬に「親日的」だった捕虜収容所所長が交代した。

すると新所長は、NZ軍の運動場造成工事に、捕虜から50人を作業要員として動員するよう要求。穏健派だった安達少尉もこの要求には憤慨し、収容所側と交渉したものの、交渉は決裂した。その翌25日、安達少尉を中心に、捕虜280人が広場に集まって抗議で座り込んだ。この時、安達少尉は「いかなる場合も軽挙妄動することなく、一糸乱れぬ行動をとれ」と命令した。

この経過について、英語の各文献では「日本人捕虜は当初から作業拒否やサボタージュを行っていた」などと、日本人捕虜の反抗的態度を記しているものが多い。

当時は「生きて虜囚の辱めを受けず」という戦陣訓の意識が強く、NZ軍の運動場を作るという作業は「利敵行為」に当たるという意識があったのは確かだ。だが実際にはそのほかにも、捕虜たちは栄養失調や感染症から完全に回復しておらず、作業に出せる人数は30人が限度という事情もあったという。

■「撃つなら俺を撃て!」

収容所側は急きょ50人の武装監視兵を呼んだが、安達少尉はそれでも断固として要求を拒否したため、NZ軍は安達少尉の連行を命じた。捕虜たちは体を張って安達少尉の連行を阻止したため、捕虜たちと小ぜり合いとなった。

この時、NZ軍指揮官が、わざと銃で威嚇する構えを見せた。それが捕虜たちを刺激し、安達少尉は自分の胸を叩きながら「撃つなら俺を撃て!」と叫んだ。直後、捕虜たちはNZ兵に向かって投石しながら突進。それを機に、NZ兵は捕虜たちに向かって約20秒間、軽機関銃を一斉乱射した――。

この惨劇で、48人もの日本人捕虜が死亡(うち31人は即死)、91人が負傷した。安達少尉も頭や脇腹などを撃たれ、一時は意識不明の重体に陥った。

このフェザーストン事件は、連合国軍捕虜に対する日本側による報復を恐れ、日本にはしばらく伏せられた。軍事法廷では、全く丸腰だった日本人捕虜たちに向け乱射した武装監視兵は無罪となり、両国の文化的相違が根本原因とされた。日本政府は、この判決を受け入れなかった。そしてこの1年半後、オーストラリアではカウラ事件が起きることになる。

戦後の1974年に記念碑が建てられ、それ以来、毎年慰霊祭が行われている。86年には先の安達少尉も慰霊祭に訪れたという。今月25日にも、当地で78回忌の慰霊祭が行われた。

地元主催の慰霊祭が毎年行われている(フェザーストン・カウンシル提供)

地元主催の慰霊祭が毎年行われている(フェザーストン・カウンシル提供)

余談になるが、日本人捕虜の行動への賛否は別にして、こうした海外での事件を知ってあらためて痛感するのは、安達少尉ら、捕虜たちの中にあった「日本人としての強い矜持」である。

銃を持つ相手を前に、部下を守って最前線で自分の胸を撃てと迫るどころか、自分の不始末に頬かむりし、部下に詰め腹を切らせる首相や、わざわざ日本にやってきて「尖閣諸島は中国領だ」と主張され、笑みさえ浮かべて何も言い返せないふがいない外相を、最近の日本は頂いてきた。

日本の政治家や外交幹部の精神性が、当時とはかけ離れているように常に感じてしまうのは誤解だろうか。【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: 社会・事件

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