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【食とインバウンド】 日本の食はもっと高く売れる

第17回

先日、首相官邸で開催された第40回観光戦略実行推進会議に、フードダイバーシティ株式会社の代表取締役である守護彰浩が出席しました。「食の多様性で地方創生」というテーマで、これからの食の売り方について提言しました。私は随行者として出席し、菅首相はじめ出席した閣僚の様子を間近で観察することができました。そこで今月は、当社の提言の中で菅首相が反応した3つのエピソードについてご紹介します。

■これはハンバーグではなく椎茸です

観光戦略実行推進会議は、前身の観光戦略実行推進タスクフォースを廃止して引き継がれた会議体で、内閣官房長官ら9人の閣僚が出席しています。これまでインバウンド業界からさまざまな有識者が提言を行ってきましたが、食がメインテーマになったのは今回が初めて。安倍前首相は在任中に数度出席しただけだったのですが、菅首相は毎回出席するほどの熱の入れようです。

助安農場 (北海道鷹栖町)の「MAXじゃんぼしいたけ」(フードダイバーシティ株式会社撮影)

助安農場 (北海道鷹栖町)の「MAXじゃんぼしいたけ」(フードダイバーシティ株式会社撮影)

プレゼンテーションでまず披露したのがこの写真です。守護は冒頭の挨拶の後、「これは何だと思いますか」と問いかけ、「実はシイタケです」と述べると、会場がざわつきました。菅総理は意外だという表情になった後、ぐっと写真に見入りました。守護が「こうした食材は地方にある道の駅などで買えますが、訪日観光客にはほとんど知られていません」と続けると、首相は発表している守護と手元にある資料を交互に見入りながら熱心に聞き入っていました。打ち出し方を工夫すれば、もっと高く売れるかもしれない――。政府は農産物の輸出を今後10年で今の5倍にすることを目指しています。首相は改めて日本の食の可能性を感じたのかもしれません。

■エルドアン大統領は低単価の食事を選ばざるを得なかった

2つ目のエピソードは、トルコのエルドアン大統領の訪日した時のもです。昨年大阪で開催されたG20(20カ国地域・首脳会合)で来日した大統領は、ビジネスホテルでの食事を余儀なくされたのでした。理由はハラール(イスラム教徒も消費できるもの)です。ハラール対応しているレストランを探した結果、ビジネスホテルのレストランに行き着いたのでした。わが国がお迎えした大統領がビジネスホテルで食事をされていたのかと思ってくれたのか、菅首相は資料をじっと見入っていました。

ハラール対応を始めた飲食店は確実に増えています。これまで本連載で取り上げたように、今では地方都市でも地元の食材を使ったハラール対応食が提供されていますし、毎年発表されている世界ランキングでも日本は順位を上げてきています。しかしながら、高級レストランの対応はまだ少ないのが現状です。

これについては、前連載「ハラール戦略~データで読み解く訪日ムスリムの動向」の第19回(2017年8月)でも取り上げたのですが、当時は夕食に使う金額が、東京は約85米ドル(約8,800円)で首位のストックホルム(約171米ドル)の半額といった状況でした。日本の食はブランド化できていなかったのです。あれから3年が経過しましたが、大統領や富裕層を満足させるようなレストランは、コロナ禍によって以前にもまして不足しているのかもしれません。

■人気世界一のレストランは東京にある

3つ目のエピソードはベジタリアン(菜食主義者)やヴィーガン(動物性を食べない人)に世界一人気のレストラン、「菜道」(東京・自由が丘)です。本連載で何度も取り上げていますが、同店は私たちが普段食べているメニューを、食のルールを持つ人たちにも提供しています。ベジタリアン、ヴィーガン、ハラールだけではなく、アレルギーにも対応していますので、みんなで一つのテーブルを囲めるのです。そうした世界観が国内外の富裕層にも人気だと説明すると、菅首相は今度は腕組みをして、さらにぐっと資料に見入っていました。

会議では以上のようなエピソードを紹介しながら、日本の食の可能性や見せ方、売り方について提言しました。日本の食はアップデートが必要だと申し上げたのです。食べきれない上に選べない旅館での食事、何が入っているかわからないメニュー、対応できると言われても食べたくないミスマッチ。おもてなしが押し付けになり、食材を可視化できていないことで、大きな取りこぼしが生じていることを伝えました。

会議終了後に、出席されていた日本在住の経営者で、日本の観光・文化財活用・経済政策の専門家でもあるデービット・アトキンソン氏と立ち話になりました。同氏の著書には国民1人当たりのGDP(国内総生産)に関する記述があり、「日本の順位は下落傾向にある」という話になりました。調べてみたのが上の図で、日本の国民1人当たりGDPの推移と2019年の世界ランキングを示しています。同氏は「地方の特産物を食べてもらいたいという気持ちは分かる。しかし、外国人には食べられないものも多い」と話し、おもてなしが押し付けになっている可能性を指摘しました。

GDPは付加価値の総和です。価値という点では他人による評価にも通じます。日本が生む価値は、このチャートにも表れているのかもしれません。逆に考えると、日本の食はまだまだ高く売れるとも言えるのです。なぜなら3つのエピソードのように価値を提供できている例も現実にあるのですから。

<プロフィル>

横山 真也

フードダイバーシティ株式会社 共同創業者

キャリアダイバーシティ株式会社 共同創業者

ヨコヤマ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役

2010年日本で独立開業後、12年シンガポールで法人を設立。国内外の企業買収、再生、立ち上げ、撤退プロジェクトを運営管理するかたわら、14年ハラールメディアジャパン株式会社(現フードダイバーシティ株式会社)を共同創業。16年シンガポールマレー商工会議所から起業家賞を受賞(日本人初)、米トムソン・ロイター系メディアSalaam Gatewayから”日本ハラールのパイオニア”と称される。20年外国人財・日本人財をグローバルジョブ市場へ送り出すキャリアダイバーシティ株式会社を共同創業。ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科修了(MBA)、同大学非常勤講師


関連国・地域: 日本
関連業種: 食品・飲料サービス観光

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