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【アジア取材ノート】オンライン配信に懸ける タイ音楽業界の起死回生

新型コロナウイルスの感染症対策を受け、タイのエンターテインメント企業がインターネットで配信するオンラインコンサートの開催を増やしている。国内の著名なミュージシャンが出演し、配信では中国や韓国企業との連携も進める。将来的には、タイ人アーティストと海外の視聴者との交流なども視野に入れている。(取材=NNAタイ ワライポン・チャルームラープボラブーン)

BECテロが7月に開催した初のオンラインコンサート「Virtual Live From The Moon」(同社提供)

BECテロが7月に開催した初のオンラインコンサート「Virtual Live From The Moon」(同社提供)

「月面からライブを届ける」。青白く幻想的に輝く満月と、宇宙船を思わせるメカニカルで近未来的な空間にメッセージが灯った。そこはライブステージ。躍動的なリズムとともにスタイリッシュな男性陣が登場し、熱のある歌声を乗せ始める。

日本の野外音楽イベント「フジロックフェスティバル」にも出演し、タイで国民的な人気を誇るロックバンド「スロット・マシーン」の初のオンラインコンサートだ。

「チャンネル3」のテレビ放送などメディア事業を手掛けるBECワールドの子会社で、音楽イベントを運営するBECテロ・エンターテインメントが7月18日に開催した。

タイでは3月から新型コロナウイルス感染症が拡大。同月に発令された非常事態宣言によりコンサート会場などは閉鎖された。6月中旬になって市中感染が収束してきたことを受け、ようやくコンサートやライブイベントなどの開催が認められるようになった。

タイの音楽業界も事業規制による収益へのダメージは甚大で、親会社のBECワールドでは2020年第1四半期(1~3月)のコンサートやショーによる収入が前年同期比92.6%減の610万バーツ(約2,062万円)と壊滅的に落ち込んだ。

そこで、BECテロはオンラインに活路を見いだした。ニール・トンプソン副社長は、コロナ禍で多くの人がフェイスブックのライブ配信機能やビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」を使っていたことを例に挙げ、「われわれもアーティストと一緒にオンラインに対応し、アーティストが収入を得る流れを作り出す必要があった」と話す。

同社は、ライブコンサート専門のプロジェクト「サウンドボックス・オンライン」を設立。8月末までにライブを3回配信した。

オンラインライブに出演するアーティストは、音響・映像機器のレンタルやスタジオ運営を手掛ける地場PMセンターのスタジオに入り、演奏を実施。人数限定だが、観客がスタジオに入場できるサービスも行う。映像は中国のインターネットサービス大手である騰訊控股(テンセント)が持つ音楽配信プラットフォーム「JOOX」で配信する。

タイの人気バンド、スロット・マシーンによるオンライン演奏(同)

タイの人気バンド、スロット・マシーンによるオンライン演奏(同)

スロット・マシーンのオンラインコンサートのチケット販売サイト。運営はチケット販売大手のタイ・チケットメジャー。BECテロ・エンターテインメントと、シネコン大手のメジャー・シネプレックス・グループが共同出資する(画像は同サイトより)

スロット・マシーンのオンラインコンサートのチケット販売サイト。運営はチケット販売大手のタイ・チケットメジャー。BECテロ・エンターテインメントと、シネコン大手のメジャー・シネプレックス・グループが共同出資する(画像は同サイトより)

タイ人アーティスト「マックス・ジェンマナ」のライブの場合、7月24日に行われたライブのチケット価格はスタジオ鑑賞が1,500バーツ(約5,000円)、JOOXの配信視聴が499バーツに設定されていた。

■「実物を見たい」、ファンのジレンマ

タイの音楽・芸能大手GMMグラミーも、7月4~5日にオンライン音楽イベント「GMMオンライン・フェスティバル」を開催。韓国のIT大手、ネイバーが運営するライブ動画配信サービス「V LIVE(ブイ・ライブ)」と提携して配信した。

他にも、タイの独立系音楽レーベル「ワット・ザ・ダック」が、オンラインコンサートを実施している。5月、6月に開催し、それぞれ1,000人、3,000人が視聴した。同レーベルの担当者は、「新型コロナで多くの人が影響を受けるのを見てきた。コンサートの主催者やサウンドエンジニアら無収入になった人たちを助けたかった」と語った。

タイの独立系音楽レーベル、ワット・ザ・ダックが5月に開催したオンラインコンサート「Live Interactive Studio」の様子(同社提供)

タイの独立系音楽レーベル、ワット・ザ・ダックが5月に開催したオンラインコンサート「Live Interactive Studio」の様子(同社提供)

オンラインコンサートを視聴したことがあるタイ人女性のパラニーさん(23)によると、通常のコンサートは6,000バーツほどかかるが、オンラインでは900バーツだったという。

「チケットの価格が安いことは魅力だが、実際の演奏を聴くのと同じ感覚は味わえない」と、パラニーさん。オンライン環境の音響や映像効果の質は向上しているが、それでも「自分の好きなアーティストは実物を見たい」との本音も漏れる。音楽ファンとしては戸惑いを感じながらも、コロナ後の新常態への適応を模索しているようだ。

■国外のファンと交流、新たな成長機会に

ドイツの調査会社スタティスタが5月に発表した最新の市場予測によると、タイの20年の音楽イベント市場は、前年比59%減の2,791万米ドル(約29億5,300万円)規模に落ち込む見通しだ(グラフ)。しかし、新型コロナの影響がなければ元々は拡大傾向にあり、21年以降には再び伸長すると予測。市場は高い成長ポテンシャルを持っているといえる。

BECテロは米国の人気ロックバンド「グリーン・デイ」のライブを今年3月に行う計画を立てていたが、新型コロナの影響で来年3月に延期した。依然として、来タイして演奏できるのかどうか先行きは見通せないが、オンラインという選択肢が増えたことは明るい材料だろう。

同社のトンプソン副社長は、オンラインコンサートが新型コロナ後の音楽産業に成長機会をもたらすとみる。「例えば、われわれのアーティストが、東京やジャカルタにいる音楽ファンと交流することもできる」といい、これまでになかった新たな可能性にも期待を見せる。オンラインコンサートを長期的な事業として今後も手掛けていく意向だ。

※特集「アジア取材ノート」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2020年9月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: タイ日本
関連業種: IT・通信メディア・娯楽社会・事件

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