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【プロの眼】新型コロナの影響(下) 業界への脅威と可能性

スマホのプロ 田村和輝(最終回)

世界で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(COVID―19)。アジアの携帯電話業界でも広範に影響が生じています。前回はスマートフォン(スマホ)の製造や販売に与えた影響を中心に紹介しましたが、携帯電話業界への打撃はそれだけにとどまりません。

展示会に出展して5Gなどを披露した中国聯合網絡通信=19年6月、中国・上海(筆者提供、以下同)

展示会に出展して5Gなどを披露した中国聯合網絡通信=19年6月、中国・上海(筆者提供、以下同)

毎年、携帯電話業界の展示会が各地で開催されますが、今年は中止が相次ぎました。主要なものでは今年2月、世界的な業界団体GSMAが主催する業界最大の展示会である「MWCバルセロナ2020」(スペイン・バルセロナ)が最初に中止となりました。

当時、スペインでは感染が拡大していない状況でしたが、韓国・LG電子を皮切りに日本企業はNTTドコモやソニー、他にも多くの企業が相次いで辞退し、最終的には開催を見合わせました。

同じく、アジア最大級の携帯電話業界の展示会でGSMAが主催する「MWC上海2020 」(中国・上海市)は、感染が収束傾向にあった中国で6月末から開催予定でしたが、上海市当局の助言を受けて中止を決定しました。

従来、主要企業は展示会に合わせて発表会を開催することも多く、展示会の中止を受けて発表会も中止や延期が相次ぎました。ただ、オンライン展示会で代替する事例が増加しており、GSMAはMWC上海2020の予定期間に「GSMAスリーブ中国」としてオンラインでカンファレンスを開催しました。

外国まで移動せずに参加できる点や、聞き逃した部分を再確認できる点はメリットですが、製品の実物を視察したり、関係者から秘話を直接聞いたりするといった展示会ならではのメリットは、オフラインで開催しない限り得られません。

アジアの一部の国や地域では感染が収束に向かっており、小規模な展示会や発表会はオフラインでの開催を再開しています。第二波も警戒されるところですが、ある程度収束すればオフラインのイベントも順次再開していくことでしょう。

■通信が増えても

収入にならない

マレーシアのデジ・ドットコムがいち早く2020年第2四半期(4~6月)の業績を発表し、同社の主要な子会社で携帯電話キャリアのデジ・テレコミュニケーションズが受けた影響が判明しました。

通常時は多くの顧客が訪問するデジの店舗=17年4月、マレーシア・クアラルンプール

通常時は多くの顧客が訪問するデジの店舗=17年4月、マレーシア・クアラルンプール

テレワークや情報収集などでデータ通信の需要が増大した結果、1回線当たりの月間平均データ通信量は前年同期比58%増の大幅な増加を記録しました。一方、データ通信収入は同8%増にとどまりました。テレワークや情報収集を支援する目的で一定のデータ通信を無料提供する措置を講じた結果、収入にならないデータ通信が大量に発生したためです。

データ通信収入を含めた携帯通信サービス収入は同6%の減収でした。背景として店舗閉鎖や国際ローミング収入の減少を挙げています。店舗閉鎖に伴い顧客獲得の機会が多く失われ、加入件数も同7%減となりました。

また、国際的な旅行制限を受けて国際ローミングの需要が大幅に減少しました。従来であればデータ通信の増大に支えられて携帯通信サービス全体の業績も堅調に成長するはずですが、新型コロナウイルスは業績に負の影響を与えました。

国内市場が小規模なシンガポールでは外国人観光客も重要な顧客です。空港の両替所などで前払い式のSIMカードを積極的に販売しています。外国人観光客が入国制限されたことで、携帯電話キャリアのスターハブ・モバイルは影響が生じたことを認めました。

チャンギ空港内でスターハブのSIMカードを取り扱う両替所=17年4月、シンガポール

チャンギ空港内でスターハブのSIMカードを取り扱う両替所=17年4月、シンガポール

内容に違いはあっても、各国の多くの携帯電話キャリアがデジと同様に何らかの支援措置を実施しています。行動制限に伴う店舗閉鎖や国際ローミングの減少なども多くの携帯電話キャリアが影響を受けました。程度の差こそあれ、業績悪化につながった携帯電話キャリアは少なくないと推定できます。

■基地局の設置遅れ

免許剥奪の危機も

インフラが貧弱な新興国ほど固定通信網の普及率が低く、携帯電話網に利用が集中する傾向が見られますが、その携帯電話網をデータ通信の増大に耐えられるよう整備する必要があります。そのため、前出のマレーシアのデジはデータ通信が増大するエリアで強化に取り組んでいることを明らかにしました。

クリスマスに合わせて装飾された携帯電話用基地局= 15年12月、東ティモール・ディリ

クリスマスに合わせて装飾された携帯電話用基地局= 15年12月、東ティモール・ディリ

また、高速な通信を維持するためには十分な帯域幅の周波数が必要となります。アジア域外の事例となりますが、政府が携帯電話キャリアに臨時で周波数を割り当て、政府として携帯電話網の増強を推進する取り組みも見られます。

ただ、市民に対する行動制限の影響で携帯電話網の整備に支障が発生している事例もあります。フィリピンで携帯電話キャリアとして新規参入する予定のディト・テレコミュニティは、携帯電話用基地局の設置が大幅に遅れています。19年に策定した計画では、20年7月時点で1,300局を設置している必要がありましたが、実際はわずか300局。計画の23%にとどまる状況です。本来なら免許の剥奪もあり得る事態ですが、フィリピン当局は状況的に仕方ないと判断して約半年の猶予を与えました。

第5世代(5G)移動通信システムの整備も影響を受けています。携帯電話キャリアとして新規参入した日本の楽天モバイルは、今年6月に予定していた5Gの導入を3カ月ほど延期する見通しを明らかにしました。同社は日印に5Gの実験施設を開設しているものの、インドの行動制限の影響で実験施設にアクセスできず、延期を余儀なくされたと説明しています。

韓国では外出や支出を控える動きから5Gスマホの販売が想定を下回っています。それに伴い、5Gの加入件数も携帯電話キャリアが20年初めに設定した年間目標からの下方修正を余儀なくされました。5Gの加入件数が伸び悩めば、将来の投資計画に影響を及ぼす可能性も否定できません。

■コロナ下で生かす

5G技術の可能性

コロナ禍でデータ通信が増大する中、高速大容量で低遅延な通信を実現できる5Gの特徴を生かせるかもしれません。将来的に5Gの導入や高度化が進めば、テレビ会議などでも高精細な映像をわずかなタイムラグで利用できるようになる可能性を秘めています。

5Gのエリアが拡大している中国では、携帯電話キャリアの中国聯合網絡通信(チャイナ・ユニコム)が4K/8Kの高精細映像と立体視映像配信のプラットフォームを開発し、スポーツ中継などで活用を検討しています。

一部の国や地域では、無観客または入場制限した上でスポーツの試合を再開しています。現地での観戦が困難でも、5Gを経由して臨場感がある高精細な多視点映像や立体視映像などを視聴できるようになれば、これからの時代の新たな楽しみ方となるかもしれません。

<プロフィル>

田村和輝(たむら・かずてる)

滋賀県出身。通信業界ウオッチャー。フリーランスで活動。携帯電話関連のウェブサイトを運営し、アジアを中心とした世界の携帯電話事情を発信。東アジアと東南アジアの全ての国で携帯電話回線を契約した。近年はアジア以外にも足を伸ばす。日本人渡航者が少ない国や地域の事情にも明るく、中東ではいち早く5Gを体験。国内外の発表会や展示会も参加。

※特集「プロの眼」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2020年8月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: 中国マレーシアシンガポール日本
関連業種: IT・通信

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