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【食とインバウンド】代替食品は主流になるか

第13回

世界で代替食品が売れています。環境意識の高まりとともに近年市場は拡大してきましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の感染拡大の影響で、その勢いはさらに増しています。代替乳、肉、魚、卵を生産する食品メーカーを「未来をつくるハイテク企業」と見なす投資マネーの流入が続いています。中でも代替肉は食感も味も本物の肉にますます近づいていると評判になっており、このまま代替ではなく主流になっていくのかが注目されています。

■「食肉=感染元」のイメージが市場拡大の追い風に

「これまで牛肉料理には3つのオプションがあった。ウェルダン、ミディアム、レアだ。そして今4つ目が出現した。代替肉である」今年5月米国の経済誌ウォール・ストリート・ジャーナル誌は代替肉市場の急拡大をそう報じました(※1)。 2019年から25年までの世界の代替肉市場のCAGR(年平均成長率)は18%、米国においては25%以上もの成長が見込まれているからです。

市場拡大の原因は複数あります。本コラムで以前から指摘してきたように、それらは環境問題、動物愛護、健康志向、そして宗教や信仰といった価値観が複雑に絡み合っています。そこにコロナ禍で現実に起こってしまった食肉加工施設での感染拡大が、消費者心理に大きく影響しています。米国の食肉処理施設での感染者数は4月27日時点で1万7,000人あまり、そして死者は5月末までに91人に至りました(※2)。 死者が少ない日本から見ればおよそ想像できない事態ですが、これにより米国では「食肉=感染元」といったイメージが広がり、肉食を減らしたり止めることは確実に感染防止につながるといった意見が頻出するようになりました。

「アニマルベースド(動物性由来)からではなくプラントベースド(植物性由来)食品からタンパク質を摂ろう」「食肉加工施設の閉鎖はプラントベースドへ切り替える良い機会だ」といった声も挙がっています。日本に関連したところでは「豆腐、アーモンド、フムス(ヒヨコマメのすりつぶし)は高タンパクだ」といった栄養士のコメントにも注目が集まっています。日本では今でも「ベジタリアン(菜食主義者)・ヴィーガンの人(動物性を食べない)はサラダしか食べない」といったイメージが支配的ですが、米国の様相は全く異なっているのです。

■購入者は高所得者から中所得者へ

プラントベースド食品はベジタリアンやヴィーガンだけが食べているのかというと、そうではありません。チャート左では米国の消費者の消費頻度を示しています。ベジタリアンやヴィーガン、つまり毎食プラントベースド食品を消費しているのは、購入者全体の3%しかありません。その他97%の大多数は毎食ではない頻度でプラントベースド食品を食べているフレキシタリアン(肉食を減らしているベジタリアン予備軍)です。

チャート右はプラントベースド食品購入者の世帯年収別の内訳です。ベジタリアン・ヴィーガンは高所得者のイメージがありますが、チャートを見る限りそれは外れていません。世帯年収の中央値以上の消費者が全体の過半数を占めているからです。しかも年収10万米ドル(約1,000万円以上)以上の人が全体の37%に上ることから、高所得者の関心の高さが伺えます。

従って、今後プラントベースド市場がさらに拡大していくためには、フレキシタリアンへの普及が鍵となります。それには生産量と流通量の増加による価格低下と、「肉以下の味」というイメージの払拭が必要でしょう。米国ではハンバーガー、ソーセージ、ミートボール、フライドチキンといった

ファストフード店でもプラントベースド食品が導入されていますが、価格は概ねアニマルベースドよりも高額となっています。プラントベースドの物珍しさは一巡しましたので、これからがまさに正念場、品質と価格の勝負になるでしょう。

■日本のプラントベースド購入者は推定7300万人

一方日本はどういう状況でしょうか。ヴィーガンやベジタリアンといった言葉は今では珍しいものではなくなりました。しかしそれは各国のような環境意識や食肉に対する敬遠というよりも、健康面で注目されているようです。というのも、コロナによる巣ごもりで起こった偏食による野菜不足やコロナ太りを解消したいというニーズが顕在化しているからです。

ある調査(※3)によると、回答者の57%は偏食により「コロナ太りした」と回答しています。専門家はそれに対し生活習慣病のリスクが高まっていると指摘し、適度な運動と食生活の改善を勧めています。それには野菜を多く摂りバランスの良い食事が求められます。そうしたニーズに対して、近頃は野菜不足解消、お野菜たっぷりメニューといった文字を多く目にするようになりました。仮に国民全体の57%が野菜不足であると仮定すると、その数は約6,800万人になります。

別の調査(※4)によると、日本のベジタリアン・ヴィーガン人口は全体の5.7%とのこと。前者の6,800万人を潜在的ベジタリアン、後者を顕在的ベジタリアンだとすると、合計は7,300万人に上ります。もちろん、前者はフレキシタリアンの予備軍といった位置づけになりますが、彼らはプラントベースド食品のターゲット顧客になり得ます。世界も日本もこうしたアーリーマジョリティ(前期追随層)をいかに取り込めるかが市場拡大の鍵になっており、代替品が主流になるか否かの分岐点になっているのです。

※1:Wall Street Journal 2020/5/13

※2:REUTERS 2020/7/8

※3:NHKニュース「おはよう日本」 2020/6/2

※4:「第2回日本のベジタリアン・ヴィーガン・フレキシタリアン人口調査」Vegewel

<プロフィル>

横山 真也

フードダイバーシティ株式会社 共同創業者

キャリアダイバーシティ株式会社 共同創業者

ヨコヤマ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役

2010年日本で独立開業後、12年シンガポールで法人を設立。国内外の企業買収、再生、立ち上げ、撤退プロジェクトを運営管理するかたわら、14年ハラールメディアジャパン株式会社(現フードダイバーシティ株式会社)を共同創業。16年シンガポールマレー商工会議所から起業家賞を受賞(日本人初)、米トムソン・ロイター系メディアSalaam Gatewayから”日本ハラールのパイオニア”と称される。20年外国人財・日本人財をグローバルジョブ市場へ送り出すキャリアダイバーシティ株式会社を共同創業。ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科修了(MBA)、同大学非常勤講師


関連国・地域: マレーシアインドネシア日本
関連業種: 食品・飲料サービス観光

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