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【食とインバウンド】ポストコロナ時代の衛生管理

第11回

止まっていた世界が再び動き始めました。世界各地で新型コロナウイルス感染症(COVID19)の感染拡大による移動制限が緩和または解除され始めました。これから経済が感染拡大前のレベルに戻るにはどれくらい時間がかかるのか。日本のインバウンド事業者も不安な中で動き始めています。

■脱三密の試みが始まった

今回のコロナ禍で大きく注目されたのが「三密」です。三密とは密閉、密集、密接という意味で、人が集まり感染リスクが高くなる状態を指します。人類はこれまで都市化を進め、密になることで生産性を上げてきましたが、コロナの出現によってその考えを改めなければならないかもしれません。日常生活の中で人を避け、会話を避け、交流することすら憚られるようになり、街のいたるところで自粛が叫ばれ、あらゆる面で密を避けることが求められているからです。

とはいえ、全ての人が三密を回避できるわけではありません。「家で自動車はつくれない」「離れて患者を治療できない」「建設現場は自宅に持ってこられない」とはまさにその通りで、業種や職種によっては限界があります。飲食業もその一つで、特に来店型の店舗はお客さんが来てくれなければお手上げです。デリバリーやテークアウトでカバーできる部分もありますが、それも限定的なもの。お客さんにくつろいでもらうための座席やスペースは、今や稼働休止資産となって経営を圧迫していています。

そうした中でも店舗は「脱三密」のカタチを目指して動き始めています。密閉に対しては十分な換気をおこない、密集に対しては客席の間隔を空け、密接に対しては仕切り板を設けるなど懸命に対応しています。実際私も何軒かこうした店舗を見てきましたが、正直なところ落ち着いて食事をするという気持ちになれませんでした。しかしながらお店の涙ぐましい努力に触れ、以前のように通っています。お店の努力にお客も理解を示す。脱三密はお互いの理解から始まるのかもしれません。

■HACCP

海外はどうしているのでしょうか。不安感を低減させている具体例を見てみましょう。例えば英国ではFood Hygiene Rating(食品衛生格付け)なる0から5まで6段階で店舗の衛生管理状況を開示しています。この制度は英国食品基準庁が管轄しており、そのチェックリストには「どんな店舗でも最高格付けを得られる」と記されています。食材の扱い方、保管方法、調理方法、衛生状態など店舗内の様々な要素をチェックされるのですが、これらに対応すれば自ずと格付けが上げる仕組みになっています。事業者を動機づけて安全性を上げようとしているのです。

格付けまでいかずとも、食品の衛生管理手法としてはHACCP(ハサップ)が広く世界で知られています。HACCPは「危害分析に基づく重要管理点」と訳されますが、要は食品の安全管理規格です。衛生をどう管理するのかを計画し、その結果を記録するというものです。元は米国で宇宙食の安全性の確保のために開発された手法で、今では原材料の仕入れから消費者の手に届くまで安全性を確保するための対応方法が示されています。ある調査(※1)によると、2017年時点で日本の製造業者の33.6%はHACCPを導入済みですが、100%達成している諸外国と比べると日本は遅れていると言わざるを得ません。欧米は法律でHACCPを義務化していますが、日本に罰則はありません。残念ながら、特に中小企業の未対応が目立っています。

そうした中、2021年6月からは飲食店舗でもHACCPの導入が義務化されます(1年の猶予期間あり)。インバウンドの観点からすると、世界で認知されているHACCPの「未対応店舗」が多いというのは不安になります。英国のように利用時に格付けを確認するような訪日客であれば、同じように日本でも確認したくなるでしょう。私たちも慣れない土地へ行くと衛生面が気になるのと同じです。何をもって衛生的かは議論の余地がありますが、どういう衛生管理をしているくらいは知りたいものです。

■今すぐできる情報発信

そこで、今すぐできることといえば情報発信です。それも脱三密を意識した具体的な内容を発信すると効果的です。今の主流であるコンタクトレス(非接触)、ソーシャルディスタンス(社会距離)、それに衛生面に配慮した対応について発信するとよいでしょう。

上のスライドは弊社で起案して全国の店舗で掲出されている衛生管理ポリシーです。利用されるお客様が具体的に知りたい情報をまとめています。これで万全というわけではありませんが、不安なまま入店するお客様は減るはずです。ここまでやっているなら大丈夫と思っていただくことが、まずやれるべきこと。新たなおもてなしの第一歩ではないでしょうか。

その他としては、お店の混雑状況を事前にお知らせするサービスも今後は増えるでしょう。行こうとしているお店が混んでいるのかどうか。空いているといっても、隣のテーブルとどれくらい距離を空けてくれるのか。センサーやカメラからリアルタイムで情報発信できるサービスはすでにありますが、まだ普及していません。こうしたサービスを積極的に活用し、「前年比99.9%減」のインバウンドの早期回復に寄与したいものです。

※1:「平成29年度 食品製造業におけるHACCPの導入状況実態調査結果」農林水産省

<プロフィル>

横山真也

フードダイバーシティ株式会社 共同創業者

フリーフロム株式会社 共同創業者

ヨコヤマ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役

1968年兵庫県生まれ。2010年日本で独立開業後、12年シンガポールで法人を設立。国内外の企業買収、再生、立ち上げ、撤退プロジェクトを運営管理するかたわら、14年ハラールメディアジャパン株式会社(現フードダイバーシティ株式会社)を共同創業。16年シンガポールマレー商工会議所から起業家賞を受賞(日本人初)、米トムソン・ロイター系メディアSalaam Gatewayから”日本ハラールのパイオニア”と称される。19年フリーフロム株式会社を共同創業し、サステナブルフードへの投資運営事業をスタート。ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科修了(MBA)、同大学非常勤講師。


関連国・地域: マレーシアシンガポールインドネシア日本
関連業種: 食品・飲料サービス観光社会・事件

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