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【有為転変】第144回 日本のリーダーはどこに

弊社が4月上旬に在オーストラリア・ニュージーランド(NZ)の日系企業を対象に実施した、新型コロナウイルスの影響調査で、豪NZ両国政府の対応を「評価する」とした企業が8割に上っていた。両国政府が素早く十分に対応したことを賞賛する声が多かったことにも注目させられた。またモリソン豪首相の支持率は53%と過去10年で最も高い数値を記録。NZアーダン政権のコロナ対策も、88%と圧倒的な国民の支持を集めていた。そこでどうしても鼻白んでしまうのは、日本の対応とは対照的だからだろう。

パンデミックという最大級の危機に際して、国のトップが国民に向かって直接説明する姿は世界で頻繁に見られる。

オーストラリアの場合、新型コロナウイルスの感染者が初めて伝えられたのは1月21日。それから約3カ月、嵐のような日々の中、モリソン首相やフライデンバーグ財務相は、毎日のようにメディアに露出し続け、対策やメッセージを発信し続けた。

対応も早かった。2月1日の時点で既に、中国を離れてから14日間以内の外国人の入国を禁止。同27日には、モリソン首相は国民に「パンデミックに備えよ」と声高に警告している。

それでも感染者の数が増え続けると、モリソン首相は全国民の海外渡航を禁止したり、集会も禁止するなどの社会規制を次々に打ち出し、特定業界に対するしがらみもなく、断固とした態度でリーダーシップを発揮した。

ところで2月1日というと、日本では6人の感染者が出ていた。この時、オーストラリアでは7人とほぼ同数である。しかし、この時点でのトップの危機感は異なる。

この時に安倍首相は、首相官邸で「新型コロナウイルス感染症対策本部」を開いている。だが、首相は国内へのウイルスまん延ではなく、訪日中国人客の減少による景気低迷を主に懸念し、「既に観光を含め、我が国の経済社会全般にわたって大きな影響をもたらしている」などと話していたのみだ。その後の大混乱は言及するまでもない。

■「国民の生活は政府が守る」

オーストラリアと日本の経済支援策を見ると、その違いはため息が漏れるほどだ。

オーストラリアがわずか1カ月程度の間に矢継ぎ早に打ち出した政策の数々には目を見張る。小企業や消費者への低利融資や、退職年金口座からの早期引き出しを認めたり、テナント救済のための家賃軽減措置もあれば、中小企業や不動産所有者に対する税控除も拡大した。

またチャイルドケアサービスの無償化は全世帯に対して提供する。何よりも、1,300億豪ドル(約8兆8,000億円)もの巨額を投じ、今後6カ月間にわたり従業員1人当たり隔週で1,500豪ドルを支給するという緊急支援策には驚いた。こうした、財政赤字を度外視した数々の支援の背景にあるのは、「国民の生活は、政府が必ず守る」という本気度だろう。

■げたを履かせた支援額

一方、日本を見てみると、安倍首相が緊急経済対策を正式表明したのは実に4月6日になってから。首相がようやく会見に現れたと思ったものだが、案の定、官僚が用意した原稿の棒読みに過ぎず、官邸記者クラブの記者も、ご丁寧に質問を事前提出してあるので、回答も当然用意されている。欧米ではあり得ない、お手盛りで予定調和の“記者会見”だ。

そこで発表された緊急経済対策の内容だが、減収世帯への30万円の現金給付などを盛り込み、“事業規模”が108兆円と、GDP(国内総生産)の2割に相当する過去最大規模だと喧伝(けんでん)していた。

確かに欧米ではGDPの1割程度で、NZは4%、オーストラリアでさえ16.4%だ。だがこの108兆円というのは、他国政府の支援総額とは比べられない。コロナ関連の新たな財政支出、つまり純粋な真水は16.8兆円の補正予算であり、実際のGDP比ではわずか3%程度になってしまう。

要するに108兆円は、民間金融機関の無利子融資などを当て込んだ“事業規模”という、他国では使わない表現でげたを履かせたものだ。しかもわずか1回限りの30万円さえ受給が困難で、非常に分かりにくい仕組みになっている。それさえ、一律10万円案も出て二転三転している有様だ。

■霞ヶ関大国の日本

また、安倍首相が出した緊急事態宣言では、都市封鎖は行わず、国民に外出自粛への協力を求めたに過ぎなかった。日本ではいまだにパチンコ店が野放しになっているところもあり、行列さえできているという。日本政府がパチンコ店の休業に及び腰なのは、業界団体に自民党を中心とした国会議員が名を連ねている上に、警察官僚の天下り先というしがらみがあるためとの見方さえある。

もしもモリソン首相が、マスク2枚配布措置や、歌手とのんきなコラボ動画を発表していたら、どんな反応が起きるだろうか。

ちなみに日本の報道によると、緊急事態宣言の後、大手百貨店4社が当面の休業を決めると、4社のトップが経済産業省に呼ばれて、休業を決めたことを非難されたのだそうだ。

従順で大人しい日本人の国民性や、真面目な日本企業の足下を見て、霞ヶ関の役人が鉛筆をなめて政策を決めているかのようだ。そこには、「国民を守る」という本気度はない。日本はつくづく、リーダー不在の霞ヶ関大国なのだろう。

冒頭のアンケートでは、「日本政府にはもっと危機感とスピード感を持ってもらいたい」という意見が多かった。全く同感だ。(NNA豪州・西原哲也)


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: 社会・事件

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