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【ASEAN】激震が走るスリランカのファイナンス業界

中央銀行による持分上限規制とは?

2月27日付のNNA記事「小口金融LOLCが社債発行 3月末にも、800億リエル起債」(https://www.nna.jp/news/result/1873857)によると、スリランカ系マイクロファイナンス(小口金融)機関、ランカ・オリックス・リーシング・カンパニー(LOLC)カンボジアが、3月下旬~4月上旬にカンボジアで社債を発行するという。起債額は800億リエル(約22億円)で、国内2件目。株式の上場よりも手続きが容易であることが受け、事業拡大へ企業の新たな資金調達方法として定着しそうだという。

同記事によれば、カンボジア中央銀行は16年、金融機関の資本規制の強化を通達し、小口金融業者の最低資本金を大幅に引き上げている。翌17年には、金融機関による融資の金利上限も年18%に定めた。事業環境が厳しくなる中、小口金融業者は社債発行で体力を維持し、事業を拡大したい考えがあるようだ。

さて、冒頭の記事で出てきたランカ・オリックス・リーシング・カンパニーは、記事でも記載されている通り、スリランカを本拠とするファイナンス会社だ。同社は1980年に、オリックスと現地金融機関などとの共同出資により設立され、同国におけるリースをはじめとしたノンバンク業界の草分けとして事業を開始した。

1982年2月には、コロンボ証券取引所に株式上場し、その後リース業に加えてファクタリング、中小企業向け融資、マイクロファイナンス、イスラム金融など幅広い分野に事業を拡大。今では農業、リゾートホテル、再生可能エネルギーまでも手掛けるスリランカの有力企業グループに成長している。

ちなみに、オリックスは2018年3月に、当時保有していた30%株式持ち分を完全に売却している。現在の主要株主は、Nanayakkara一族で、その過半数の株式を保有している。オーナー一族の管理のもと、果敢に事業の拡大を行ってきた。

順調に拡大を続けてきたLOLC社だが、現在スリランカのファイナンス業界セクターを震撼させる事態に直面し、オーナー持ち分についても一部売却を余儀なくされる可能性が出てきている。

■大きなインパクトをもたらしかねない株式持ち分規制

スリランカの中央銀行は5月15日、スリランカのファイナンス会社向けに、株式持ち分規制導入に関する諮問書を発行した。スリランカにおいては、ファイナンス会社の監督省庁は中央銀行が担っている。

同諮問書によると、同国におけるファイナンス会社におけるガバナンス体制強化のために、ファイナンス会社の株式持ち分比率について、25年までに単一株主による保有上限を25%までに定める規定の導入を検討しているという。

ちなみに、現在のスリランカのファイナンス会社における株主持ち分形態は、下記の図表1にあるように、そのほとんどと言ってよい43社中の40社が1社(名)もしくは2社(名)の株主によって過半数の株式を保有されている。

つまり、もしこの規定が本当に導入された場合、25%以上を保有しているファイナンス会社株主は、その超過持分を何らかの形で売却することを余儀なくされる。

そうなると、その多くが上場会社であるスリランカのファイナンス会社において、多くの株式が市場で売却されることになる。そう考える株式資本市場では、今後大量のファイナンス会社株式が売却されることを見越して、この業界に投資している一般投資家による当該ファイナンス会社株式の売却が進む。その結果、この業界における各社の株式価値は縮小することになり、今以上にファイナンス会社の資金調達力が弱まり、むしろ事業基盤が弱体化することが予想される。

■預金を取ることが可能なスリランカのファイナンス会社

そもそも、なぜスリランカの中央銀行は、このようなドラスティックな影響を及ぼす規制の導入に乗り出すことになったのだろうか。

それは、スリランカのファイナンス会社の特徴と、業界における問題の2つが影響している。

まずは、スリランカのファイナンス会社業界の特徴から見ていこう。スリランカのファイナンス会社は、その資金調達の方法の一つとして、銀行の様に預金を受けることができる。実際、同国の基本的にほとんどのファイナンス会社が、預金を使って資金調達を行っている。

このように、ファイナンス会社が預金を引き受けることができるのは、必ずしも一般的ではない。むしろ銀行との線引きから、銀行は預金を預かることができるのに対して、ファイナンス会社はそうしたことができない法体系になっているケースが、例えばインドネシアやマレーシアなどを含めて、どちらといえば多い。

預金を預かるのであれば、預金者保護のため、ファイナンス会社に対しても銀行並みに厳しい規制をかける必要性が発生し、実際そうすべきとの意見がスリランカの中央銀行など規制当局の中では出ていた。

そんな中で、スリランカのファイナンス会社の中には、オーナーが預金を自社のグループ会社に不当に貸付け、それが回収不能になるなどの問題が散発していた。こうした預金者にとって不当に損害を被るケースが起こることで、中央銀行側もファイナンス会社のガバナンス強化に本腰を入れて取り組む必要に迫られていたのだ。

業界関係者によると、今から4~5年ほど前にも、単独過半数を有する株主へ規制をかけようとする動きがあったという。ただ前回の動きの際には、正式な中央銀行からの発表どころか、業界に対して今回の諮問書のようにコメントを求めることもなかった。結果、株主持ち分規制案は実行に移されることなく消えて行った。ところが、その後も継続して金融会社による違反行為や経営危機が起こったため、今回中央銀行がその防止に動き出した。

■そもそも株式持ち分比率は企業の業績に影響を与えるのか

とはいえ、今回の動きにはいくつかの疑問がある。そもそも、なぜ中央銀行は多くの株式を保有されていることが、不正行為や企業業績に関連があると考えているのだろうか。優れたコーポレートガバナンスの下に健全な経営をしている企業もあれば、株式持ち分が分散していても、経営が立ちいかなくなる金融会社もある。実際、冒頭の記事でも取り上げたLOLC社などスリランカで最も成功している金融会社は単独株主(オーナー一族)が過半数を保有している。

ただ、中央銀行としては、前述の経営不振に陥った現地ファイナンス会社において、過半以上株主が保有しており、オーナー一族がコンプライアンスに反する経営を行っていたにもかかわらず、それに対する自浄機能が働いていなかったことを問題視している。

因みに、中央銀行はファイナンス会社に対して、積極的に上場を奨励しており、これも事業基盤の拡大に加えて、コンプライアンスがより効果的になることをその主な理由としている。

また、今回の規制案にはいくつかの例外ケースが設けられていて、例えばファイナンス会社の親会社が銀行の場合、今回の規制には抵触しないとなっている。これは、銀行自体において、既に持ち分規制が施行されており、コンプライアンス的に問題がないと見られているからだ。

■反対が相次ぐ業界側の反応

疑問の2つ目は、業界側の動きだ。今まで事業拡大に勤めてきて、いきなり中央銀行から株式を一部手放せと言われる現地のファイナンス会社の大口株主たちはどう考えているのか。

実際、既に多くのファイナンス会社の主要株主たちは明確に反対の意見書を中央銀行に提出している。彼らは、ファイナンス会社の事業展開において、過半数株式の保有自体が問題の原因ではなく、あくまで問題は別のところにあると主張している。事業に対する継続性が担保されないのであれば、加えて保有上限の規制が存在すれば、しっかりファイナンス会社の事業を行おうとする株主も減ることになると主張している。

こうしたことから、仮に施行されたとしても、もともとの案よりはより規制の度合いが緩いものになるとの予想も存在する。

いずれにしても、こうしたことが起こると、国内の既存株主のみならず、これからこの業界に投資しようとする動きに対しても大きく影響を及ぼすことになる。例えば、外資企業外資企業がスリランカのファイナンス会社に投資しようとしても、25%までしか取得できないのであれば、そうした意欲は大きくそがれることになるだろう。

現段階においては、この諮問書に規定されている内容が実際に施行されるのか、またその場合いつになるのかについては、明確な情報は出ていない。ただ確実に言えるのは、こうした情報が出ることで、スリランカのファイナンス業界への投資に対する不確実性が深く認識され、投資の検討自体が大きく低減することだ。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: カンボジア日本スリランカ
関連業種: 金融マクロ・統計・その他経済

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