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【アジアで会う】住川武禧さん ミンダナオ日本人商工会議所副会頭 第256回 ソバでミ島の和平を支える(フィリピン)

すみかわ・たけよし 1943年奈良県生まれ。東京大学を卒業後、空調設備大手に就職する。45歳で大手ゼネコンに転職。定年後にベンチャー企業の支援に乗り出し、フィリピンに移住した。翌年から、日系の調理麺製造会社の依頼でソバの試験栽培に着手。日本に出荷するための衣料品などの原料となるバナナ繊維づくりも手掛けた。5年前からミンダナオ日本人商工会議所の副会頭を務める。

「ミンダナオには、縁もゆかりもありませんでした」。穏やかな語り口調の住川氏は、現在76歳。商工会副会頭のほか、日系企業の進出を支援するダトゥ・パグラス・ジャパンの会長を務めている。5月に亡くなったミンダナオ開発庁(MINDA)の故アロント長官のシニアアドバイザーも担うなど、日本とミンダナオをつなぐ架け橋として、両国政府から信頼を置かれている存在だ。

■雇用創出が和平の鍵

大学時代の日本は、高度成長真っただ中。船用機械工学科で電力産業を支えるガスタービンの研究に励んだ。入社した空調設備大手の高砂熱学工業(東京都新宿区)で、液体を瞬時に粉末化する乾燥装置(スプレードライヤー)の技術を学ぶため米国に派遣される。その後、スウェーデンとの合弁会社に出向し、米国、インド、ドイツ、メキシコなど世界を飛び回った。大林組に転職し、半導体やシリコンウエハーなどの研究製造工場の設計建設に携わった。

フィリピンを初めて訪れたのは63歳のとき。支援していた筑波大学発のベンチャー企業で、バイオディーゼルの原料となるヒマワリを栽培するためだった。中ルソン州立大学と連携し、台風の被害が少ないミンダナオで農地と搾油工場を確保するまで至るも、事業は頓挫。途方に暮れる中、「ここで会社を立ち上げよう」と提案してくれたのが、当時のミンダナオ商工会副会頭で、同世代の天野洋一氏だった。

コンビニ向け調理麺製造会社のニッセーデリカ(東京都千代田区)から依頼を受け、07年に天野氏と二人三脚でソバの栽培に着手した。約4年間、水はけの悪い土壌や虫害などに悩まされ、悪戦苦闘の日々が続いた。

そんな中、先に手掛けていたバナナ繊維の事業を通じ、地元の有力者からバンサモロ・ミンダナオ・イスラム自治区(BARMM)の南ラナオ州アマイ・マナビラン(旧ブンバラン)を紹介された。同地域は海抜1,200メートルで年間を通して涼しく、昼夜の寒暖差もある。「ソバの栽培に適しているかもしれない」と、事業の再開を決意した。試験栽培の結果は良好だった。17年までに作付面積は最大150ヘクタール、生産量は年間100トンにまで拡大。製粉工場のある博多港へ出荷され、初のフィリピン産ソバとして日本のコンビニに並んだ。

「ソバは三期作が可能で、収入が安定する」と住川氏は指摘する。農地の近くには、自治権を求めて政府と40年以上戦いを繰り広げていたモロ・イスラム解放戦線(MILF)の基地があった。貧困から兵士になるとの考えから、ソバ作りには元兵士を中心に採用してきた。ミンダナオ紛争地域の和平構築を長年支援している国際協力機構(JICA)も、政府開発援助(ODA)で周辺の道路を整備し、市場へのアクセス向上で側面支援してくれた。

だが、農園経営を手掛ける地場企業らと合弁を設立していたニッセーデリカはこれを解消。その後、生産手法を変えたが継続困難となり、今年1月に撤退したという。

■マラウイにソバ畑を

大学の合気道部の後輩に、元国連大使の大島賢三氏がいる。「国家間には、外交ではないインフォーマルなパイプも必要で、住川氏の役割は非常に意義がある」。引退後も相談に乗ってくれていた彼のひと言が、今も支えとなっている。

2度の失敗を味わったソバ事業。だが、住川氏は諦めない。このほど、貿易産業省の投資委員会(BOI)から南ラナオ州マラウイ市でソバを植えないかとの提案を受け、周辺の調査に乗り出した。17年に政府軍と過激派組織が半年間交戦し、復興が進んでいる都市だ。「ロレンザーナ国防相と協議し、軍の管理する土地で実験栽培に着手できる可能性が出てきました」と意欲を見せる。

3年前、公私ともに親しかったMILFのジャーファー副議長と同地域を視察したことがある。ラナオ湖周辺はなだらかな高原地帯だが、農地はトウモロコシや陸稲ぐらい。治安も不安定だったため「雇用創出が和平につながる」と、ジャーファー氏は支援に期待を込めていた。だが同氏は今年3月にこの世を去った。新自治政府を樹立するバンサモロ基本法(BOL)案の起草を主導し、政府との和平交渉に尽力した人物だった。「今後は、BOL成立で武装解除した兵士を支えていく必要がある」と、バトンを受け取った。

共に奔走してきた天野氏は、がんを患い14年に亡くなった。住川氏も10年前にくも膜下出血で倒れ、死を覚悟したことがある。「神様がまだ、生きろと言っていたのかもしれない」。平和の種をまき続けるため、住川氏の挑戦は続く。(フィリピン版編集・大堀真貴子)


関連国・地域: フィリピン
関連業種: 社会・事件

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