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【有為転変】第129回 政治家の汚職とメディア

オーストラリアという国を眺めていて感じるのは、この国の政治家は海外で思われているより遙かに汚職面で緩く、それを報じるメディアも追求が甘い、ということだ。コーマン金融相やホッキー駐米大使が最近やり玉に挙げられた利益供与のスキャンダルは、例えば日本なら、連日連夜のメディアによる激しい追求を受け、更迭か辞任になるかもしれない。だがオーストラリアでは大抵2、3日もすれば嵐はやみ、風化することになる。日本とは政治やメディア文化の違いはあるのだろうが、その一方で背後に「別の側面」があることにも気付いている。

コーマン金融相が追及されたのは、昨年1月に同相がシンガポールに家族で旅行した際、自由党本部の元財務部長、アンドリュー・バーンズ氏が経営する旅行会社ハローワールドが、その航空券費用を肩代わりしていたスキャンダルである。ハローワールドはその後、金融省から総額10億豪ドル(約790億円)の巨額契約を受注していたというから、疑いは濃厚だ。

同金融相は、航空券がハローワールドから払われていたことに気付かなかったと弁明。バーンズ氏もまた「事務のミスだ」と居直った。

疑いはまだある。かつて保守連合政権で財務相を務め、現在は駐米大使であるジョー・ホッキー氏が100万豪ドル相当のハローワールド株を保有していることも判明している。バーンズ社長はさらにモリソン首相とも親しい友人関係にあり、モリソン首相がオーストラリア観光局長だった際の役員も務めた経験がある。

政権首脳との癒着の疑いが持たれたバーンズ氏は、「ホッキー氏には貸しがある」などと発言していたとする元社員の証言も明らかになったほか、ホッキー氏が2017年4月にハローワールド子会社の幹部と面会するよう大使館の職員に依頼していたことも報道された。

さらには、ダットン内務相が昨年に米ラスベガスを訪れた際にハローワールドから便宜を図られていた疑惑も出ている。ハローワールドは、呆れるほど保守政権内にずぶずぶに入り込んでいたわけだ。

■スキャンダルに甘い?豪州

さて、一国の政権首脳が、民間企業と一蓮托生で便宜を供与したと聞くと、日本の安倍首相や同夫人が絡む森友問題を想起させる。国会の野党の追及では、安倍首相は論点をはぐらかした保身的答弁を繰り返し、長期間にわたり野党やメディアから猛烈な攻撃を受けたのはご存じの通り。一体いつまでこの話題が新聞の一面を賑わすのか、といささか辟易するほどの追求だった。

一方でオーストラリアでは、今回と似たようなスキャンダルが暴露された政治家は、与野党問わず、ここ数年だけでも数多い。最近では、ポーター司法長官が選挙キャンペーンで使用したバスの提供者が、現在西オーストラリア州政府の要職に就いていることも判明している。

さらに驚かされるケースだと、豪中自由貿易協定(FTA)をとりまとめたアンドリュー・ロブ元貿易相が貿易相在任中に中国企業の玉湖集団から政治献金を受け取り、政界退任後は、同じく中国の嵐橋集団(ランドブリッジ)から200万豪ドルものコンサル契約を手にしていたことだ。完全に中国マネーに取り込まれていたわけだが、現政権がさすがに外国投資規制を強化すると、ロブ氏は頬被りして辞任している(これについては別の機会に詳述しよう)。

しかし、これらについてなぜかメディアによる続報があまりなく、うやむやになって話題がしぼんでしまうのが通例だ。

この国のスキャンダル報道を見る限り、政治家の倫理面では、日本より緩いように見える。国際NGOが政治家や公務員などの腐敗度をスコア化して発表する腐敗認識指数(2018年)では、オーストラリアは13位と、18位の日本より清廉だとされているのに、である。

■「葉をかいて根を断つ」

しかしながら、二の矢、三の矢を放たないオーストラリアのメディアを擁護するつもりは毛頭ないが、「別の側面」もあることには言及しておきたい。

オーストラリアも御多分に漏れず、エネルギー問題や外交、移民、景気対策など、国難と言える問題は常に山ほど抱えている。スキャンダルがあると、メディアは最初に政治家の不始末を国民に向けて伝える責務は果たす。後はその愚かな政治家たちを選挙で落とすかどうかは国民の判断だとして、ニュースの重点を別の議題に移す――。こうした解釈もできないわけではない。

一方で、日本も同じように国難を数多く抱える国だが、首相が特定の民間人に国有地を安く払い下げる便宜を図った疑惑だけで、実に1年以上にわたり毎日、国会審議や新聞政治面の大半を占有してきた。そのため、議論する時間がなくお蔵入りした極めて重要な議題は数多い。そうしたことが結果的に、日本の国会や選挙が政策論争にならない要因につながっているとも言える。

「葉をかいて根を断つ」のことわざではないが、メディアが1枚の葉を刈り取ることばかりに腐心して、結果的に国家の成熟を阻んでいるとしたら、何と言うべきだろうか。【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: メディア・娯楽政治社会・事件

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