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【爆走、アジアの高速鉄道】ASEAN 高速鉄道の現在地

ラオスの山間部をトンネルと橋りょうで結ぶ中国ラオス鉄道の建設現場=2017年8月、ルアンプラバン県(澤木範久撮影)

ラオスの山間部をトンネルと橋りょうで結ぶ中国ラオス鉄道の建設現場=2017年8月、ルアンプラバン県(澤木範久撮影)

■「一帯一路」のつち音高く

ラオス

ラオスで中国の現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を象徴するプロジェクト「中国ラオス鉄道(中老鉄路)」事業のつち音が響いている。2016年に本格着工し、21年の開通後は一部区間で最高時速200キロメートルで運行する。総工費約60億米ドル(約6,700億円)は、ラオスの国内総生産(GDP)の半分に相当する。

ゴム園を中心とする農業、鉱山、電源開発を除き、めぼしい産業がない人口675万人のラオスでは、高速鉄道を運行するメリットや経済合理性は乏しい。それでも建設するのは、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国で唯一の内陸国である同国にとって、中国の雲南省・昆明からラオスを経てタイ・バンコクに至る同高速鉄道をASEANへのゲートウエーとみているからだ。

中国ラオス鉄道は、全線電化単線の標準軌(1,435ミリ)で、起点の中国側磨ハン(モーハン/ハンは敢の下に心)・ラオス側ボーテンからラオスの首都ビエンチャンまでの全長約430キロ。このうち半分以上の260キロはトンネルと橋りょうという難工事だ。旅客列車の最高時速は160キロ、貨物は120キロを予定しているが、一部区間では最高時速200キロを想定している。

建設・運営は中国とラオスの合弁会社が行うが、「建設費の一部が将来、ラオスの債務となる」と分かっている同国の国民は少ないようだ。日本貿易振興機構(ジェトロ)ビエンチャン事務所の山田健一郎氏によると、それでも、中国や高速鉄道事業に対する批判は耳にしないという。市民も「中国まで高速鉄道で遊びに行ける」といった好反応で、中国の習近平国家主席が17年11月にラオスを訪問した際は、歓迎ムード一色だった。一方、物流業者には「タイと中国が結ばれると、ラオスは素通りされ、商機が見えてこない」といった懸念があるという。

ラオスと結ぶ中国側も工事が進む。昆明─玉渓の約88キロは開通済みで約30分で結ばれている。玉渓——磨ハンの504キロは16年に着工、ラオス区間とほぼ同時の完工を見込む。電化・単線で時速160キロで走行する。投資額は516億人民元(約8,844億円)だ。

■市民には懸念と期待が交差

インドネシア

インドネシアの首都ジャカルタと西ジャワ州バンドンを結ぶ高速鉄道計画は、日本と中国が激しく受注を争った末、2015年に中国が進めることが決まった。延長142.3キロメートルの区間にハリム(ジャカルタ)とカラワン、ワリニ、テガルウラル(バンドン)の4駅を設置する。最高時速350キロで走行し、ジャカルタ——バンドンを40分で結ぶ計画だ。

16年1月に着工式が行われ、当初は19年の完工が予定されていたが、土地収用が進まないことと、それを理由とした中国側の融資が滞ったことで、スケジュールは大幅に遅延している。総事業費は、当初見積もりの59億9,000万米ドル(約6,517億円)から60億7,000万米ドルに上方修正された。

フタマさん

フタマさん

市民は、中国による高速鉄道計画をどのように見ているのだろうか。「中国が進めることに決まったと聞いた時は心底がっかりした」と話すのは、日系人材企業に務めるムハンマド・フタマさん(23歳)だ。ジャカルタ在住だが、年に数回は出身地のバンドンに移動する機会があるという。心配の原因は、ジャカルタ市内を走る公共バス「トランスジャカルタ」向けに中国企業から調達した車両が、4——5年前にたびたび出火事故を起こしたこと。フタマさんは「中国製には怖くて乗れない。中国国内での列車事故も伝えられているにも関わらず、中国側を採用したのは驚きだ。政府高官の癒着を疑わざるを得ない」と語気を強める。

シレガルさん

シレガルさん

一方、同じく仕事でジャカルタとバンドンをたびたび行き来するという会社員のマランディ・シレガルさん(34歳)は、「ジャカルタ——バンドン間の高速鉄道は当初の計画通りには進んでいないようだが、効率性とコストを考えれば最も適切な移動手段になりうる」と期待を示す。「政府には、中低所得者が利用しやすいよう、料金に配慮してほしい」と希望を話した。

地場メディア、コンパスのプトラ・プリマ記者は、市民が気軽に利用できるようにするため、「運賃は12万ルピア(約940円)ぐらいが望ましい」と語った。

■政権交代で計画中止

マレーシア——シンガポール

5月の総選挙で勝利し、政権の座に返り咲いたマレーシアのマハティール首相が、同国の首都クアラルンプールと隣国シンガポールを結ぶ高速鉄道計画を中止することを明らかにした。「総工費1,110億リンギ(約3兆円)に上る莫大な費用に見合った国益が得られないと判断した」と説明している。

約350キロメートルを90分で結ぶ同計画は、ナジブ前政権が推進していた。車両の提供や線路の建設、交通システムの設計などを担う「鉄道資産会社(アセット・コー)」の国際入札が今年末に締め切られる予定だったが、新幹線方式での受注を目指してきた日本にとって痛手となった。

■実現の時期は不透明

タイ

タイの高速鉄道計画にも不透明感が漂う。昨年12月、先行区間として首都バンコク——ナコンラチャシマ間(約260キロ)の高速鉄道の起工式をプラユット首相が出席して行ったが、セレモニーだけで、本格的な着工時期は未定だ。クーデターによって樹立された暫定政権の同国。政府が本腰を入れて高速鉄道事業に取り組む姿勢は今のところ見られない。

タイ工業連盟(FTI)の幹部は「中国と結ばれるなら高速道路の方が良い」「産業界の関心はタイの経済開発構想『東部経済回廊(EEC)』に集まっている」と話し、産業界も高速鉄道計画に冷ややかだ。

※特集「爆走、アジアの高速鉄道」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2018年7月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: ラオスインドネシア日本
関連業種: その他製造マクロ・統計・その他経済

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