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新幹線、サービスの改善必要 鉄道工学の曽根悟教授(下)

鉄道工学の第一人者、東京大学名誉教授・工学院大学特任教授の曽根悟氏のインタビューの最終回。新幹線を海外展開する場合、鉄道事業単独で採算が取れるのは米国だけでアジアでは厳しいと指摘する。日本の新幹線が提供するサービスについても、外国に比べると低水準にとどまり、「外国人を新幹線嫌いにしている」と述べ、改善の必要性を訴える。

――日本の民間企業(鉄道会社やメーカー)が、新幹線の海外展開をして採算が取れる国はどこか。

米国しか考えられない。

米国の鉄道はいまや完全に貨物輸送がメインで、その線路を間借りして旅客列車が細々と走っている。だから新幹線のように専用軌道を別に敷設するしかない。加えて、米国は断トツで人命の価値が高い国。だから安全性の代償として、若干コストが上がるのも許容できる。

インドを含めアジアの国はいずれ自国で高速鉄道の技術を育てたいという野心がある。米国はそれを放棄しているので、車両輸出もしやすいし、政治的リスクも低い。

JR東海の葛西敬之名誉会長も、ビジネスライクに割り切ると米国でしかビジネスは成功しない、と考えているようだ。

――ベトナムは日本に新幹線事業の支援を要請したものの、2010年のベトナム国会で否決された。それでもまだ、検討を続けている。

ベトナムの高速鉄道はもともと無理だった。中国とタイ、シンガポールを結ぶ基幹ルートにも入っていない。ベトナムの南北1,700キロメートルは途中に(数百万人規模の)大都市はなく、高速鉄道を敷設する必要性は全くない。それよりも日本が支援して建設中のハノイやホーチミン市の都市鉄道は、日本の民鉄方式の導入(急行サービスなど)が必要だと思う。

サービスを競い合う日本の民鉄。京浜急行の快特(左)は特別料金不要で2人掛けのクロスシート。小田急ロマンスカーはワゴンサービスや展望席も。

サービスを競い合う日本の民鉄。京浜急行の快特(左)は特別料金不要で2人掛けのクロスシート。小田急ロマンスカーはワゴンサービスや展望席も。

――アジアの高速鉄道計画で、最も採算を取りやすいのがクアラルンプール―シンガポールだと関係者の間では言われ、本命視されたが、今年5月に計画の中止が決まった。

事業採算性をどう捉えるかだ。鉄道事業者の採算だけではなく、社会全体のコスト負担を考えるべきだ。

格安航空(LCC)に乗れば安いかもしれない。しかし、飛行機は化石燃料でなければ飛べない。鉄道は再生可能エネルギーでも動かせ、乗客1人当たりの温暖化ガス排出が少ないなど、環境負荷も少ない。バス・トラックから鉄道への輸送シフトが進めば、交通渋滞や交通事故は減り、救急車や警察の出動件数減、(事故による)医療費削減など政府の財政支出や社会全体のコストも抑えられる。鉄道では採算が合わない、と考えるのではなく、エネルギー、環境、安全性のほか、鉄道による経済押し上げ効果も加味して、鉄道事業の「費用対効果」を考えるべきだ。

■新幹線サービス、海外目線では「非常識」も

――日本の新幹線のサービスはどうか。

技術だけではなく、サービスも世界から見れば非常識で、利用者本位になっていないことが多い。

訪日外国人が利用するJR乗り放題の「ジャパン・レール・パス」では最速・高頻度の新幹線「のぞみ」に乗れない。乗車可能な「ひかり」は1時間に2本しか走っていないし、東京から岡山以遠に行くには乗り換えが必要で不便。「新幹線の乗車が目的」で訪日する外国人を「新幹線嫌い」にしてしまっている。

新幹線車内に荷物置き場がないのも外国人には非常識だ。京都駅の東京行き「ひかり」ではスーツケースを持った外国人団体で乗車に時間がかかり、シーズンになると発車が数分遅れることもある。

無料Wi―Fi(ワイファイ)もようやく今年6月、全新幹線への導入が決まったが、遅すぎた。

そもそもジャパン・レール・パスのチケット引き替えで、成田空港駅ではいつも行列だし、最終到着便を待たずに引き替え所の営業は終了する。チケット引き替え前のバウチャー(引換券)では列車予約もできない、というのも自国にいながら海外旅行先の鉄道が予約できる今の時代では、遅れている。民鉄も乗り放題にするとか、少なくとも成田空港で京成に、関西空港で南海には乗れるようにするなど、利用者の立場に立った改善が望まれる。

■都市鉄道に商機

――海外で日本の鉄道技術やノウハウをどう生かすべきか。

新幹線よりも有望なのは都市鉄道だ。日本が協力したタイ・バンコクの「パープルライン」の車両は混雑時でも、つかまる手すりなどがあり不安が少ない。しかしパープルラインは平均駅間距離が1.4キロと中途半端で、京浜急行の品川―横浜間、小田急の新宿―向ヶ丘遊園間の平均駅間距離1キロ未満に比べて駅数が少ない。沿線の駅から徒歩だけで用が足せない場合が多い。駅数が多く急行運転をする日本流に比べて明らかにサービスレベルが低い。

円借款資金が投じられたタイ・バンコクのパープルラインは日本製車両。郊外の終点バンヤイ地区に近づくと車内は閑散としている=NNA

円借款資金が投じられたタイ・バンコクのパープルラインは日本製車両。郊外の終点バンヤイ地区に近づくと車内は閑散としている=NNA

京浜急行の「快特」に代表される民鉄の速達サービスは日本以外の国では見当たらない強みだ。北京や上海など中国の都市鉄道(地下鉄)は、駅間距離は長く最高時速が80キロ程度と、低速の各駅停車ばかりで利用者本位ではない。駅からのバス利用や、自動車通勤を必要とする人も多く、都市内旅客輸送における鉄道のシェアは低い。

日本の民鉄のノウハウを生かせば、東アジアの高人口密度の都市や沿線では自動車への依存を減らして渋滞を緩和し、都市機能の向上にも大きく貢献できるはずだ。しかし残念ながら、JRは保守的な体質だし、民鉄は沿線の地域から出て事業をする意欲を持つ鉄道会社はほとんどない。(聞き手=遠藤堂太)

※インタビューは、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」7月号にも掲載しています。


関連国・地域: 中国タイベトナムマレーシアシンガポール日本米国欧州
関連業種: 運輸マクロ・統計・その他経済

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