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【ASEAN】ベトナム医療は魅力的な投資機会か?(14)

2018年2月23日付NNA記事「アベジャ、国立大と人工知能分野で連携」(https://www.nna.jp/news/result/1729327)によると、ディープラーニング(深層学習)技術を活用した情報解析サービスを提供するアベジャ(東京都港区、ABEJA)のシンガポール法人アベジャ・シンガポールは、シンガポール国立大学(NUS)ビジネス・アナリティクス・センター(BAC)と人工知能(AI)分野での共同研究、人材育成で覚書を締結したという。

アベジャは昨年3月にシンガポールに進出し、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域で事業を展開。同9月には、NUSのビジネス・アナリティクス科学修士課程(MSBA)でディープラーニング技術のビジネス適用に関する講義を実施するなど、同大との協力関係を築いてきた。

同記事によれば、今回締結した覚書では、(1)シンガポールと日本でヘルスケア業界のビッグデータ解析について共同で研究開発(R&D)する、(2)MSBAの学生をアベジャでインターンとして受け入れる、(3)アベジャがディープラーニングに関する講座をMSBAに提供する――ことが取り決められた。

また、別の2018年2月23日付NNA記事「AIで眼科診療支援、慶大など後発地域視野」(https://www.nna.jp/news/result/1726235)によれば、慶應大医学部眼科教室と診エテック(東京都)、Q&Aサイト運営オウケイウェイヴ(同)の3者が、AIを使って目の病気を診断するスクリーニングプログラムの開発を始めたと発表している。

眼底写真約9,400枚や、医師の診断結果などを基に、病気を自動判定できるAIプログラムを開発しており、既に眼底が健康かどうかの判別ができる段階にあるという。ミャンマーなど医療体制が不十分な地域での活用も視野に入れ、日本国内の検診センターと連携し、病気の早期発見につなげることを目的としており、海外の医療への貢献を目指すという。ミャンマーでは医師不足が深刻で、医療設備も古いため、既存の眼科医の負担を減らし、眼科医がいない地域でも病気を早期発見できるようにする目的がある。

シンガポールとミャンマーという所得水準も全く異なる二つの国で、偶然にも医療関係のAI関連の記事が同時期にリリースされたが、これは単なる偶然ではない。なぜならASEAN地域の医療現場において抱えている「医師の慢性的な不足」という共通の問題がその根底にあるからだ。

医師の教育には時間とお金がかかり、急に供給を増やすことができない。その一方で、現地の医療需要は高い。加えて、前回記事でも見た通り、現地の医療水準は着実に上がりつつあり、新たな治療方法も増えるため、医師の作業量は増加する一方だ。

疲弊する医療現場の救世主として、AIの活用が求められている。また、AIを活用することにより、現地の医師の技術水準のムラをなくし、より高水準の医療を均一に提供することも狙っている。

■今回のテーマは「現地での医療人材の確保」

このシリーズのまとめとして、下記の10の医療サービスの進出の際に考慮すべき主要な点について、前回に引き続いて確認していきたい。

(1)現地で十分な患者数、また今後の患者数の拡大は見込めるか

(2)日本医療が現地での医療ニーズに対して十分効果的か

(3)(日本から医師を派遣する場合)現地で日系の医師が市民に対して医療行為を行うことが法規上可能か

(4)現地で日系の病院が提供するサービスに対して支払える「購買力」があるか(現地の所得水準が、日系医療サービスに対して支払えるレベルにあるか)

(5)日本企業に準じる、または上回る医療技術やサービスを提供している現地の医療機関はどの程度あるか(日系病院の強みが競合と比較してどの程度発揮できるか)

(6)現地で医療人材の確保が可能か

(7)集客面で好ましい立地の確保が経済的見合う形で可能か

(8)医薬品や医療機器など、現地において経済的に見合う水準での調達は可能か

(9)(日本から医師を派遣する場合)日本から安定して医師を派遣できる環境か

(10)現地で医療機関の設立が可能か(資本比率や許認可関連)

今回は、「(6)現地で医療人材の確保が可能か」について、今までこのシリーズで見てきた内容から、現地の状況を確認した上で、特にどのような診療領域が医師の確保が困難かについて見ていきたい。

■過去の本シリーズの記事から見るベトナムにおける医療人材確保状況

現地で医療機関を展開するためには、優秀な医師の確保が重要だ。優秀な医師の存在が、その病院の評判につながり、結果として高い収益性につながる。それにより、医師への給与を高めることができ、さらに優秀な医師の囲い込みが可能になる。こうした病院成功のためのポジティブサイクルの重要性は、このシリーズの第9回(https://www.nna.jp/news/show/1705956 )の、「バンコク病院がなぜ成功することができたかのか?」のセクションで紹介した。バンコク病院では、病院立ち上げ時に有名な医師の確保に成功したことが、今の繁栄につながる重要なステップだったことも重要なポイントだ。

ベトナムでは、タイとは若干状況が異なる。なぜならば、公立病院の医師の地位は、私立病院のそれと比較してより高く、多少の給料の高さでは、簡単に私立病院に優秀な医師が流れないからだ。このシリーズの第5回(https://www.nna.jp/news/show/1675638)では、公立病院ならではのステータスの意味と、それに伴う公立病院の医師に対する患者からの信頼性の高さを紹介した。

従って、ベトナム現地の私立病院も新設する際には、その地域の有力な公立病院から、公立病院の給与よりも高い金額を提示して、医師の引き抜きを図っている。私立病院からの引き抜きの厳しさについては、このシリーズ6回(https://www.nna.jp/news/show/1684709)に記載した。ダナンにおける有力私立病院であるビンメック病院開設による熾烈な医師引き抜き合戦においては、現地の公立病院の給料の3倍程度で引き抜きが行われたとの実例もある。

■ベトナム現地での医療現場では、どの程度医師が不足しているのか

公立病院から優秀な医師の引き抜きが難しい状況である中でも、その難しさは診療科目によっても異なってくる。下記は、ベトナム中部のダナン市にある、市の中心的な病院であるダナン総合病院での医師数及び入院患者数の診療科目別のデータだ。

ここから医師1人当たりの患者数を算出している。またその比較のために、日本における類似規模の病院における医師1人あたり患者数を一般社団法人 全国公私病院連盟の「平成28年病院運営実態分析調査」の概要を基に作成している。その二つを比較したのが、一番右側の列の「日本との差(倍)」になる。

これから見ると、総じてベトナムの医師が、日本以上に多くの患者を診ていることが分かる。特に上記の表において青地で記載した「神経内科・筋骨関節・血液検査」は日本の3倍、「消化器内科」は日本の2.8倍、「循環器内科」は3.3倍の患者数を1人の医師が対応している。

病院ごとの差はあるものの、こうした診療科はベトナムの中でも特に医師が不足している領域とは言えそうだ。従って、このような診療領域を対象とした進出を行う際には、現地での医師の採用は、他の分野以上に困難になることが予想される。

次回は、「(6)現地で医療人材の確保が可能か」を考察していきたい。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。

12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: タイベトナムミャンマーシンガポール日本
関連業種: 医療・医薬品電力・ガス・水道マクロ・統計・その他経済

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