【有為転変】第107回 日豪と韓豪の貿易協定

先週末の14日に安倍首相がオーストラリアを訪れ、ターンブル首相と首脳会談を行って多方面の連携をまとめた。この会談で、経済面では両国が環太平洋連携協定(TPP)の早期発効を目指すといったことばかりが前面に出て、ほとんど新聞の話題に上らなかった重要なことがある。ちょうどその翌日が、日豪経済連携協定(EPA)発効2周年だったということである。実はオーストラリアにとってはもう一つ、同じく2周年を迎えた重要な協定がある。

「KAFTA」という言葉を聞いたことがあるだろうか。韓国オーストラリア自由貿易協定の略称だ。オーストラリアは2年前の同時期に、日本と韓国の間で、別々に2つの自由貿易協定をまとめていた。

さて、オーストラリア外務貿易省が昨年12月中旬に、このKAFTAの発効2周年を機にリリースを発表していた。それによると、韓国向けのチェリー輸出は発効以来50倍に膨れ上がるなど、オーストラリア産農産物の輸出が急増しているほか、液化天然ガス(LNG)の輸出も3倍になるなど、KAFTAの目覚ましい効果を喧伝している。

また同省は14日に、2周年の日豪EPAの成果についてもリリースを出した。それによると、今年1~9月までの日本向け豪州産ワイン輸出額は、2014年同期比で12%高となり、牛肉も14年比で30%伸びたと指摘している。ブドウにいたっては、60万豪ドル(約5,100万円)に過ぎなかった対日輸出額が、同期間に3,000万豪ドルと大幅に増えたとしている。農業大国であるオーストラリアにとっては、明らかに2つの貿易協定で恩恵を受けていることが分かる。

■韓国の自動車輸出が急増

では、日本と韓国がこの2年間で得た恩恵はどうなっているのだろうか。

両国の対オーストラリアの貿易収支を見ると、日本と韓国の輸出品目は似ている。「自動車」と「石油製品」「トラック」などである。

外務貿易省の統計で調べてみると、興味深いことが分かる。日本のオーストラリア向け自動車輸出は、15/16年度は前年度比で8.6%増えている。だが、韓国はそれをはるかに上回る29.1%も増えた。石油製品は、日本は逆に15.6%減少したが、韓国は0.6%増えた。トラックは、日本は11.9%増えたが、韓国は実に51.9%も増えている。為替相場の影響があることを考慮しながらも、韓国が日本以上にKAFTAの恩恵を受けているように見える。

韓国はKAFTAで8年以内に92.4%、オーストラリアはほぼ100%の関税を撤廃することになっている。この1月からは、韓国製品に対する第4ラウンドの関税引き下げが実施されたばかりだ。

■技術者の相互認定も

技術立国としての生き残りを図る韓国の思い切りの良さは、オーストラリア市場でも目を見張る。韓国の対豪投資総額は230億豪ドルに達しており、韓国製鉄最大手ポスコのクォン・オジュン会長が韓豪ビジネス協会の会長を務めるなど、最近は政府関係者や産業界の視察が相次ぐ。

KAFTAが、日豪EPAと明らかに異なるのは、両国がファイナンスなどのサービス業界にも門戸を広げていることである。

昨年7月には、韓国の新韓銀行がシドニーに支店を開設し、韓国企業や地場企業への融資業務に参入している。韓国の外資のファイナンス市場はこれまで日本や米国資本が占有してきたが、投資銀大手のマッコーリーは、韓国でのさまざまなプロジェクトに参画し始めたほか、ウエストパック銀行やオーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)なども続々と韓国での中小銀買収を進めている。

また変わったところでは、両国がKAFTAに基づき、技術者の相互認定を結んでいることも注目される。

アジア太平洋経済協力(APEC)エンジニア登録制度で登録された互いの技術者を、自国の技術者として承認する制度で、約2,000人の韓国人技術者が、エンジニア不足のオーストラリア市場に進出する足掛かりができた。

これは韓国人の雇用対策だけではない。韓国人技術者が企業と共にオーストラリアに進出したり、両国企業がコンソーシアムを組み第三国に進出したりと、海外進出の相乗効果も期待されているのだ。

■日豪EPA成果の検証を

韓国は最近、オーストラリアだけでなく、世界15カ国・地域とFTAを締結しており、これは自国の経済市場が国内総生産(GDP)換算で世界の80%に広がったことになる。

最も恩恵を受けるのは、韓国の自動車業界だろう。韓国関税庁によると、オーストラリアでの韓国製品シェアはFTA直前の4.3%から、15年10月時点で5.7%に上昇したという。オーストラリアと韓国が、経済関係を徐々に詰め、実利を得ているわけだ。

その一方で日本は、日豪EPAによる2年間の成果を検証することさえしていない。優先順位が低いはずの捕鯨にこだわり、過去の日豪友好関係にしがみつき、既得権益や規制ばかりを重視しているうちに、オーストラリアではいつのまにか韓国産ブランドが席巻していた、という事態は見たくないものだ。<NNA豪州編集長・西原哲也>


関連国・地域: 韓国オーストラリア日本
関連業種: 経済一般・統計社会・事件

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