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《NNAアジアカンファレンス2016》メガFTAの活用とリスク対策

株式会社エヌ・エヌ・エー(NNA)は11月17日、東京・千代田区のJA共済ビル カンファレンスホールで年末恒例の「NNAアジアカンファレンス2016」を開催した。4回目の今回は「アジア大貿易時代の幕開け、メガFTAの活用とリスク対策」をテーマに4人の専門家が登壇。アジア経済を巡る最新トレンドを取り上げた。

■アジアは底堅い成長続く

基調講演「世界低温経済とアジア」

加藤隆俊氏

公益財団法人国際金融情報センター理事長/元財務官

世界経済は、全体ではあまりパッとしない状況が来年も続きそうだ。米国の経済成長率は今年が1.6%、来年は2.2%が見込まれる。日本は今年0.5%、来年0.6%、ユーロ圏は今年1.7%、来年1.5%だ。欧州はイタリアで今年12月に憲法改正の国民投票、来年春にはフランス大統領選、秋にはドイツの総選挙が控えるなど政治リスクが高く、来年は1.5%までいけばいい方だとみている。中国は今年が6.6%、来年が6.2%。来年秋に5年に一度の共産党大会が開かれることもあり、金融緩和と公共投資で多少は無理をしてでも達成するだろう。

アジアは底堅く安定している。中でもベトナムは今年、来年とも6%台が期待できる。韓国のサムスン電子とLG電子の工場が輸出に貢献し、経常収支も以前ほど脆弱ではなくなった。次にいいのはフィリピンで来年は6.7%を見込む。ドゥテルテ大統領の過激な発言が物議を醸しているが、経済運営面は安定感がある。インドネシアは外資を呼び込もうと優遇策を打ち出し、来年は今年より少し上向いて5.3%を見込む。タイは安定しているが、今後は急速な高齢化が懸念材料だ。インドは6%台の成長を維持するだろう。IMFの試算では、昨年の世界の経済成長の67%はアジア経済が寄与した。アジア経済の先行きが、今後も世界全体に大きな影響を与えるだろう。

「トランプ政権誕生でアジア新興国の輸出機会が増えるプラス面も予想される」と加藤氏=17日、東京(NNA撮影)

「トランプ政権誕生でアジア新興国の輸出機会が増えるプラス面も予想される」と加藤氏=17日、東京(NNA撮影)

米国の“トランプショック”により、新興国通貨が対米ドルで下がっている。トランプ次期大統領が減税とインフラ投資を政策に掲げているため、30年もの米国債の金利は3%を超える水準まで上昇。ここまでくると、アジア新興国から資金が米国に流出し、通貨安とインフレが懸念される。外貨借入の返済コスト上昇も気がかりだ。トランプ次期大統領は4%成長を目指すと言っているが、アジア新興国にとって輸出機会が増えることにもなりプラス面もあると言えそうだ。

■FTAやEPA活用は不可欠

「メガFTAを活用したビジネス革新に向けて」

野元伸一郎氏

株式会社 日本能率協会コンサルティング グローバル開発革新センター長

日本はこれまで20カ国と16の経済連携協定(EPA)を発効、もしくは署名している。EPA相手国との貿易が、貿易総額に占める割合は39.5%。米国は47.4%、欧州連合=EUは29.8%、韓国は67.4%に及ぶ。安倍政権は、この割合を2018年までに70%に引き上げようとしている。環太平洋連携協定(TPP)は、米国のトランプ次期大統領が脱退を表明し、発効が難しくなってきた。ただ日本は、アセアン10カ国に日本、中国、韓国、インド、ニュージーランド、オーストラリアを加えた「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」や、EUとの「日欧EPA」などの自由貿易協定(FTA)、いわゆるメガFTAも交渉中だ。

FTAやEPAには関税の削減や撤廃以外にも、新たなマーケットの創出や国際分業体制の促進、外圧を利用した国内産業の規制緩和など多くのメリットがある。一方で、安い外国製品の流入もあり、産業によっては企業や業界の弱体化も懸念される。だからこそ、価格競争力の強化や、業界を挙げての生き残り戦略といったリスク対策を中期計画に盛り込む必要がある。

FTAやEPAを有効活用するには以下の4点が重要だ。(1)関税やロジスティクス費用をミニマムにする設計(どこに拠点を設けて、どんな機能を持たせ、原材料の手配や輸送をどう合理化するか)、(2)他社のスキルやリソースも活用、(3)進出先国の得意な調達品や資材を考慮、(4)関税の段階的な撤廃スケジュールを見据えたビジネス計画と人材育成――。

いまや自社の成長戦略を描く上でFTAやEPAの活用は必要不可欠。グローバルな中期計画にFTAやEPAを織り込み、人材育成も含めた積極的な取り組みが求められている。

■保護主義と米中関係悪化を懸念

「取材から見えてきた『アジアにとってのTPP』」

小堀栄之

株式会社エヌ・エヌ・エー The Daily NNA ベトナム版編集長

“トランプショック”に対してアジア各国は、米国の保護主義化と、米中関係の悪化の2つを懸念している。対米・対中貿易の割合が大きいためだ。韓国は貿易立国のため対米貿易が先細ると、レームダック化した政治と経済のダブルパンチになってしまう。インドは、ビザの発給に影響が及ぶのではないか、と危機感を抱いている。IT大国のインドは大勢のエンジニアを米国に派遣しており、米国が発給する専門職ビザ「H1B」の7割はインド人のエンジニア向けといわれ、影響が甚大なのだ。トランプ次期大統領は、中国からの輸入品に45%の高関税をかけると言うが、中国の地元紙は「両国関係は今後、経済的な利益を中心に回っていくだろう」と分析。香港紙は「米国はTPP不参加の理由を、米企業の利益を守るためと言うが、実際には中国の利益になるだけ」とやゆした。

取材での発見は、新興国ほどメガFTAの発効を望んでいるということ。例えばTPPの発効から10~15年の間に、ベトナムではGDPの押し上げ効果が10%、マレーシアは8%が見込まれている。対照的に不参加のタイは1.5%減、インドネシアは1%減を予測。ベトナムと繊維産業で競合するインドは、TPPの発効が難しくなったことで「ベトナムとの差が開かないで済む」と喜んでいる節もある。台湾はメガFTAへの参加を最も望んでいるかもしれない。輸出の40%が中国向けで、FTAを結んでいるのは7カ国しかない。2国・地域間のFTAを結ぼうとすると、中国からけん制が入るためだ。

たとえTPPの発効ができなくとも、アジア各国はRCEPなり他のメガFTAの締結に今後とも進んでいくだろう。外圧を利用して国内の規制改革をスムーズに進めたい、産業を高度化したいという意図もあるからだ。

■注意喚起とロールプレーが重要

「いま求められる日本企業のリスク対策~拡大するビジネス圏を前に」

小島俊郎氏

株式会社共同通信デジタル 執行役員 リスク対策総合研究所長

http://risk.kyodo-d.jp/

海外進出先でオフィスや宿舎を選ぶ際、便利さやコストだけでなく、安全に配慮することはもはや常識だ。深刻な大気汚染や感染症の流行地もあり、帯同する家族も含めて健康面へ対策も欠かせない。

危機管理で最も大切なことは情報収集だ。私は外務省をはじめ警察庁、在外公館、マスメディア、調査会社、同業他社、保険会社などから情報を集めて判断材料にする。とくに現地の生の情報を重視している。例えば今年7月に日本人7人が犠牲になった、バングラデシュ・ダッカで起きたレストラン襲撃事件。現地では去年の秋から過激派組織「イスラム国」(IS)の犯行声明が6件あり、過激派の逮捕事案も8件あった。また、共同通信の現地記者からは、テロの脅威を伝えるレポートも2回出されていた。こうした情報を勘案すれば、7月のテロはある程度の想定できたのではないだろうか。

次に重要なのは、駐在員に繰り返し注意喚起することだ。人の意識はなかなか変わらない。だからこそ繰り返し伝え続けなければならない。さらに、有事の際のマニュアルはあった方がいいが、残念ながら読まれないことが多い。有効なのはロールプレー訓練だ。さまざまなリスクを想定して、対応策を実際に訓練する。手間はかかるが、確実に成果が出る。有事の際は即断即決、機動力が問われるからだ。 

いま一番の脅威はサイバー攻撃だ。攻撃を受けた企業の9割が自社では気付かず、外部からの指摘で発覚。しかも発覚まで平均150日、長いと1年以上もかかるという。ネットワークを遮断するなど即座の対応が重要だが、怪しいメールを開いた社員がいたら、すぐに報告できる社内の雰囲気づくりも大切だ。

講演に聞き入る聴衆=17日、東京(NNA撮影)

講演に聞き入る聴衆=17日、東京(NNA撮影)


関連国・地域: オーストラリアニュージーランドインド日本東アジアASEAN米国欧州
関連業種: マクロ・統計・その他経済政治

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