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脱炭素と食料自給への選択肢 ソーラーシェアリング実践(上)

日本が開発をリードしてきた農地の上に太陽光パネルを設置し発電と農業を両立させる「ソーラーシェアリング」が、アジアにも広がり始めている。気候変動や新型コロナウイルス禍、ロシアのウクライナ侵攻といった世界的な危機が続く中、太陽光発電の導入と持続可能な農業を促すソーラーシェアリングは、脱炭素化や食料・エネルギー安全保障の観点からも注目されている。本連載ではソーラーシェアリングの理念、日本やアジアの取り組みを3回に分けて報告する。

4月に特許を取得した太陽光発電システムを設置したソーラーシェアリング実証試験場を案内する長島氏=4月20日、千葉県市原市(NNA撮影)

4月に特許を取得した太陽光発電システムを設置したソーラーシェアリング実証試験場を案内する長島氏=4月20日、千葉県市原市(NNA撮影)

東京都心から約60キロメートル離れた千葉県市原市に広がる里山。その一角に、2010年に開設された日本初のソーラーシェアリング実証試験場がある。短冊状の幅の狭い太陽光パネルを架台に設置し、隙間から注ぐ光の量や角度、気象条件などに応じた植物の生育を研究している。これまでに国内のほか韓国や中国、ドイツ、アフリカ諸国などから計約3,000人が視察に訪れた。

「正面から見ると架台しかないみたいでしょう。細いパネルを使っているから威圧感もなく景観と調和できる。設計上は瞬間最大風速70メートルにも耐えられる。これが新たに特許を取得した太陽光発電システムです」

案内してくれたのは、元大手農機具メーカーの設計開発者で、ソーラーシェアリングを研究するCHO技術研究所代表の長島彬氏。ソーラーシェアリングとは、03年に長島氏が発案した造語だ。営農と発電を両立させる概念自体は、1981年にドイツのフラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所(ISE)が提唱し、欧米では「アグリボルタイック」と呼ばれる。

一方ソーラーシェアリングは、農地での営農型太陽光発電に加えて、養殖場や牧場、庭園、屋上、砂漠などあらゆる場所で、太陽光を植物の栽培などの用途と発電用とで分け合うという広い意味を持つ言葉として使うことが意図されている。長島氏が研究成果をまとめた書籍は韓国語や英語にも翻訳され、韓国や台湾などでもソーラーシェアリングの呼称が使われている。

長島氏の書籍『ソーラーシェアリングのすすめ』の韓国語版(NNA撮影)

長島氏の書籍『ソーラーシェアリングのすすめ』の韓国語版(NNA撮影)

■世界で増える営農型太陽光発電

日本では13年から、条件付きで農地での太陽光発電が認められ、営農型太陽光発電設備の設置が可能となった。農林水産省によると、設置許可件数は19年度時点で2,653件。パネル下部の農地面積は741.6ヘクタールで、日本の農地全体(468万1,000ヘクタール)の0.02%となる。

千葉大学発のベンチャー企業で、ソーラーシェアリングを含む再生可能エネルギーのコンサルティングなどを手がける千葉エコ・エネルギー(千葉市)の馬上丈司代表取締役は、同年度時点の累計の営農型太陽光発電設備容量を70万~80万キロワットと推計する。国際エネルギー機関(IEA)によると、19年時点の日本全体の太陽光発電容量は6,300万キロワットであるため、営農型が占める割合は1%程度とみられる。

一方、フラウンホーファーISEの推計では、21年における世界の営農型太陽光発電の導入量は1,400万キロワットで、18年の290万キロワットから4.8倍となった。最大の導入国は大規模な設備を開発している中国とみられる。アジアでは東アジアのほか、インドやマレーシアで導入事例があり、ベトナムでも設置に向けた動きがある。

欧州ではイタリアがこれまでに、欧州連合(EU)の気候変動対策「欧州グリーンディール」の一環として、新型コロナ禍からの経済復興策も兼ねて11億ユーロ(約1,500億円)を投じて、104万キロワット分の営農型太陽光発電設備を26年6月までに整備すると発表した。

EUの19年の総発電容量は9億4,730万キロワット(うち太陽光は1億2,040万キロワット)だが、政策提言などを行う業界団体「ソーラー・パワー・ヨーロッパ」はEUの農地の1%に営農型太陽光発電を導入するだけで、理論上の容量は7億キロワットを超えるため「ポテンシャルは巨大だ」としている。

■条件付きで農地転用認める日本

ソーラーシェアリングの導入プロセスは、各国・地域の農地に関する法律や電力買い取り制度により異なる。日本の場合、農地は耕作以外の用途で使うには転用手続きが必要だが、生産性の高い優良農地などでは発電用地への転用が認められない。そのため、ソーラーシェアリングの架台の支柱部分だけ一時的に農地以外の土地に転用することを認める特殊な制度を設け、農地での発電を可能とした。

ただ、売電収入は農業収入よりも大きくなりやすいため農作物の生産がおろそかにならないよう、農水省は営農型太陽光発電のガイドブックを作成。農業機械が通れるように架台の高さは最低2メートルとし、栽培作物の10アール当たり収量が地域の平均と比較して8割以上となること(荒廃農地を使う場合は適用除外)などの基準を設け、許可制で運用している。

パネル下での作物の栽培に関しては、長島氏のこれまでの実証実験の結果、農地が日陰になる割合を示す「遮光率」が30~40%であれば、コメや野菜、果樹などの生育に支障はない。茶やシイタケ、サカキなどは遮光率がさらに高くても品質に影響はないという。

植物は光の強さに比例して光合成量(二酸化炭素の吸収量)が増えるが、光の強さが一定水準を超えると植物の二酸化炭素の吸収量がほぼ一定になる「光飽和点」の理論がある。同理論を応用し植物が吸収しきれない余剰分の光を発電に回すという発想により最適な遮光率を推測できるが、天候不順も考慮し低めの設定が大切だという。

■大型台風に耐える設計で特許

耐風性を高めた新たな太陽光発電システム。農地上のパネルは夏場の農作業の負担を軽減する働きもある=4月20日、千葉県市原市(NNA撮影)

耐風性を高めた新たな太陽光発電システム。農地上のパネルは夏場の農作業の負担を軽減する働きもある=4月20日、千葉県市原市(NNA撮影)

一方、ソーラーシェアリングの本格導入に向けた課題の一つに、台風の暴風などで太陽光パネルが壊れるリスクがある。この問題を解決するため、長島氏は瞬間最大風速70メートルの風に耐えられるよう設計した発電システムを発明し、今年4月に特許を取得した。

風の抵抗を抑えるため一般的な製品よりも細身のパネルを使い、緩い斜度(傾斜角6度)で架台の梁(はり)に取り付ける構造だ。

この技術を使った製品は、ロボットシステム開発などを手がけるロビーム(川崎市)が委託生産する。同社の石原良太郎社長によると、現在は量産試作品として容量5キロワットの設備を約200万円で販売している。

長島氏はソーラーシェアリングの普及により、食料とエネルギー問題が引き起こす飢餓や貧困、略奪をなくしたいと話す=4月20日、千葉県市原市(NNA撮影)

長島氏はソーラーシェアリングの普及により、食料とエネルギー問題が引き起こす飢餓や貧困、略奪をなくしたいと話す=4月20日、千葉県市原市(NNA撮影)

まずは農業・工業高校など教育機関向けに、ソーラーシェアリングを使って学べる教育プログラムをセットにして提供し販路を広げる。同製品の市場規模は約200億円と見込む。既に神奈川県の県立高校が導入したほか、東京都の都立高校など3校でも試験的に設置した。今後、私立大の研究者とともに、光飽和点の学術的研究や耐久性の実証実験の蓄積も行う計画だという。

■飢餓と貧困撲滅願う

長島氏は04年にもソーラーシェアリング発電システムで特許を出願し、翌年には誰もがこの技術を使用できるよう審査請求を行わず公知の技術とした。日本の原子力発電所で起きた故障や死亡事故を見て、原発の代案となる公知の技術が必要だと考えてきたためだという。

現在ソーラーシェアリングの導入に積極的なドイツやイタリア、台湾は11年の東京電力福島第1原発事故後に原発の段階的廃止や新設中止を決め、韓国も文在寅(ムン・ジェイン)前政権時代は脱原発を推進していた。

長島氏は大型台風に耐える設計の特許取得も技術の普及が目的だといい、「海外では特許を申請しない。ソーラーシェアリングの理念は食料とエネルギー問題の解決に寄与し、飢餓や貧困、略奪を生まないこと。アジアでもこの技術を使ってもらいたい」と話す。


関連国・地域: 中国香港台湾韓国タイベトナムミャンマーカンボジアラオスマレーシアシンガポールインドネシアフィリピンインド日本ASEAN欧州
関連業種: 電機食品・飲料農林・水産天然資源電力・ガス・水道マクロ・統計・その他経済

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