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【プロの眼】映画に漫画にグッズも IP展開とタイアップ

ゲームビジネスのプロ 佐藤翔(6)

日本ではゲーム音楽のサウンドトラックはもちろん、ゲームを元にアニメ、漫画、グッズを制作するといったIP(※)の展開、あるいは逆に人気の映画やアニメなど他のコンテンツの素材をゲーム化することは極めて一般的です。今回は、台湾や東南アジアのケースを中心に、IPのマルチ展開、IP同士のタイアップ戦略などについてお話しします。

(※知的財産。ここでは著作物としてのゲーム作品に含まれるキャラクター、音楽、名称などの要素を指す)

台湾で人気がある布袋劇のグッズショップ(筆者提供)

台湾で人気がある布袋劇のグッズショップ(筆者提供)

今年7月23日の東京五輪開会式では、選手入場の際に日本のゲーム音楽が使用されました。国内外で著名な作品のゲームミュージックが重要なイベントの場で活用されたことは、国内のみならず海外でも話題になり、日本のゲームとゲームミュージックというコンテンツの世界的な影響力が再確認される結果となりました。

これはゲームのIP展開の一つの形でしたが、では日本国外においてIPの他分野へのマルチメディア展開はどのような状況になっているのでしょうか?

■ゲーム発の台湾映画、19年興行収入1位に

ゲーム『返校』、台湾版のプロモーションムービー(NNA撮影)

ゲーム『返校』、台湾版のプロモーションムービー(NNA撮影)

2019年、台湾の『返校』という映画が同年の台湾映画で興行収入1位になったことが話題になりました。

戒厳令下の台湾を舞台にしたこのホラー作品は、Red Candle Gamesというインディーゲームスタジオ(※)が17年に制作したゲーム『返校 Detention』が原作となっています。台湾では、ゲームが原作の映画が作られたのは初めてのことでした。

(※大手資本や大企業ではなく、ごく小規模な組織、個人などによる開発母体)

膨大な数のゲームが日々発売される現在、インディーゲームスタジオは自分のゲームを目立たせるため、さまざまな努力や工夫をしています。そうした中、社会問題や歴史的事件を扱うことでゲームファンだけではなくさまざまな層の注目を集める、という手法は各地で成功例が見られます。

台湾の「白色テロ」の時代(※)を背景とする『返校』も台湾内外でさまざまな議論を生み出し、ゲーム産業以外のメディアにも取り上げられたことで映画化に至りました。

(※1947~87年、戒厳令下の時期)

こうした成功事例は、他のアジアの国々のクリエイターも当然ウオッチしています。今まで東南アジアなどで社会問題を扱うゲームが全く無かったわけではないのですが、これからは各国で「社会派」のゲームが登場してくるのではないか、と思っています。

台湾発と言えば、IPのマルチ展開を行い、息の長いコンテンツとなっているのが霹靂布袋劇(へきれきほていげき)です。伝統的な人形劇に現代的な演出を加えたもので、全ての登場人物の声を1人が演じるという伝統的なルールを守りつつ(声は台湾語、字幕は中国語)、派手なビジュアルエフェクトやアクションシーンをうまく導入しています。

1970年代に登場したコンテンツで今の若者にはちょっと古いという人もいるようですが、台湾にいくつかあるファンショップでは、若者が霹靂布袋劇の漫画、写真集、タオル、マグカップなどのグッズを手に取る姿を目にしました。もちろんゲーム化もされています。

霹靂布袋劇の海外展開はあまり広がってこなかったのですが、日本では2000年に『聖石伝説』という布袋劇映画の日本語吹き替え版DVDが発売されました。さらに16年からは、日本のニトロプラスと台湾の霹靂社の共同制作による『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』が日本でも放映されました。シリーズ第3期はTOKYO MXなどで今年テレビ放送され、日本のフィギュアメーカーのグッドスマイルカンパニーが製品を展開しています。

『霹靂布袋劇』のテレビ放送(筆者提供)

『霹靂布袋劇』のテレビ放送(筆者提供)

■東南アジアのIP展開、ゲームを収益の主軸に

東南アジアでは00年代、IPのマルチメディア展開は一部を除き散発的なものにとどまっていました。コンテンツ市場が十分に発展しておらず、流通の仕組みが不十分で、コンテンツごとの収益とユーザー拡大の見込みが立てにくかったためです。

しかし、10年代にスマートフォンが爆発的に普及したことでゲームや動画コンテンツのユーザーが一気に広がるとともに、IPのマルチメディア展開に現実味が出てきました。

当連載でも紹介してきたことですが、映画やアニメは海賊版や違法ダウンロードが出回りやすく、東南アジアでは収益を見込みにくい状況があります。有料売り切り型のマンガアプリを展開したが、さっぱり売れずに大失敗したというケースもあります。

一方、ゲームは「通信・販促・決済」というインフラ面の課題を抱えてはいるものの、課金型のモバイルゲームでは作品内でのアイテム購入などを通じた収益化が可能です。

従って、東南アジアでIPのマルチ展開を考える場合はゲームを収益の柱とした上で、アニメ(ショートアニメ含む)、ウェブトゥーン(※)などのコンテンツをゲームにユーザーを誘導するための集客ツールとして割り切って展開するケースが多いようです。

(※ウェブコミック、デジタルコミックとも。ウェブで読める電子漫画)

日本でも高い人気を博している中国発のゲーム『原神』では、リリース前からゲームの世界観やキャラクターをユーザーに伝えるためにウェブトゥーンを各国で展開していました。ショートフィルムを東南アジアで放映し、販促として活用しているゲームもあります。

最近は、東南アジアの現地企業のアニメがモバイルゲーム化する例も出てきています。例えば、『BoBoiBoy』というマレーシアを代表するアニメ作品があるのですが、同作のIPは18年に『BoBoiBoy Galaxy Run』というモバイルゲームになっています。

■ボリウッドの人気俳優、インド製ゲームを監修

ナイジェリアで見つけた『Supa Strikas』のコミック版表紙。(筆者提供)

ナイジェリアで見つけた『Supa Strikas』のコミック版表紙。(筆者提供)

ちなみに、新興国の中ではマレーシアはアーティストやアニメ制作を得意とする企業が多くあります。アフリカ発の人気サッカーコミック『Supa Strikas』をマレーシアのアニメ会社が作品化して、東南アジアやアフリカで放映しました。

そのコミックのIPも『Supa Strikas Dash - Dribbler Runner Game』というゲームになっています。ダウンロード件数100万件以上、評価サイトでも4つ星以上で2作目も出ており、アフリカ発のIPとしてはうまくいっている方ではないかと思います。

ゲームが映画化したケースは小さいながら西アジアにもあります。ヨルダンのRababa Gamesという小規模なスタジオが作ったレースゲーム『Al Hajwala(アラビア語で「ドリフト」の意味)』は高いカスタマイズ性が人気を博しました。アラブ圏を中心に世界各地でファンを獲得し、日本にもファンがいます。このスタジオの製作者本人から聞いた話ですが、アラブの映画監督によってこのゲームのショートフィルム版が作られたとのことです。

インドの人気コンテンツと言えばボリウッド映画ですが、00年代前半に人気だったソニーのゲーム機「プレイステーション2」の時代からモバイルゲームの時代に至るまで、ボリウッド映画のゲーム化がいくつか試みられてきました。しかし残念ながら、どれも試みは成功したとは言えませんでした。

現在はボリウッド映画自体をゲームに持ち込むのではなく、アクションの得意なボリウッドスターがインド製ゲームのアクション監修をするような、人気俳優を制作に関与させることでマーケティングに活用する事例が出てきています。

ボリウッド映画原作のゲーム(筆者提供)

ボリウッド映画原作のゲーム(筆者提供)

■人気『呪術廻戦』も提携、アジアのタイアップ戦略

ゲームと人気俳優のタイアップの話をしましたが、これに限らずアジアで人気のモバイルオンラインゲームは、ユーザーの幅を広げるためさまざまな企業のサービスやアーティストとのタイアップ企画を実施しています。

東南アジアで人気の高いバトルロワイヤル系ゲーム(※)『Garena Free Fire』は、積極的なタイアップ戦略を行っています。インドネシアでは現地で有名な俳優ジョー・タスリムと提携し、彼に似せたキャラクターをゲーム内で出しました。

※多人数の戦い、競技の中で生き残りを目指すジャンルの作品

韓国はK―POPなどのコンテンツを国策で海外に輸出していますが、同国のコンテンツ企業は韓国発のコンテンツ同士のタイアップをよく行っています。例えば、韓国のゲーム会社であるGravityのモバイルゲーム『Ragnarok M:Eternal Love』はK―POPアイドルとのタイアップを行っています。

『PUBG MOBILE』と『呪術廻戦』のタイアップ告知(公式ツイッターより)

『PUBG MOBILE』と『呪術廻戦』のタイアップ告知(公式ツイッターより)

連載に何度か登場したモバイルゲーム『PUBG MOBILE』も興味深いタイアップ戦略を見せています。例えば中国の騰訊控股(テンセント)は、同作品において日本の人気漫画『呪術廻戦』との提携を8月31日に発表しました(日本・中国を除く)。『呪術廻戦』はアジアを含むグローバルで人気が高まっているコンテンツですので、このタイアップを入り口に双方のコンテンツのユーザーが広がることは十分考えられそうです。

ゲームコンテンツやIPは新興アジアのユーザーにも広がり、今や生活の一部になっています。皆さんの会社の製品やサービスも、これらの地域で人気があるゲームなどとタイアップすれば、思わぬユーザーの広がりやビジネスの展開が望めるかも知れません。

<筆者紹介>

佐藤翔(さとう・しょう)

京都大学総合人間学部卒、米国サンダーバード国際経営大学院で国際経営修士号取得。ルーディムス代表取締役。新興国コンテンツ市場調査に10年近い経験を持つ。日本初のゲーム産業インキュベーションプログラム、iGiの共同創設者。インドのNASSCOM GDC(インドのIT業界団体「NASSCOM」が主催するゲーム開発者会議)の国際ボードメンバーなどを歴任。日本、中国、サウジアラビアなど世界10カ国以上で講演。『ゲームの今 ゲーム業界を見通す18のキーワード』(SBクリエイティブ)で東南アジアの章を執筆。ウェブマガジン『PLANETS』で「インフォーマルマーケットから見る世界」を連載中。

※特集「プロの眼」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2021年10月号<https://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: 中国台湾インド日本
関連業種: メディア・娯楽社会・事件

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