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【有為転変】第165回 オーストラリアの危機感(下)

生産年齢人口の割合が下降し、経済成長にマイナスに作用することを「人口オーナス」と言うが、人口が大きく減少することで日本の国内総生産(GDP)を押し下げる効果は疑いようがない。だが日本国内のエコノミストらの中には、日本は少子・高齢化社会になっても問題ないという主張がある。それらの主張は主に「少子・高齢化が進む国で成長している国もある」「人口の増減と、一人当たりGDPに相関はない」「世界は人口が増加しているのだから、国内市場に頼れない企業は海外需要に目を向けよ」などというものだ。

実際、経済協力開発機構(OECD)加盟国で、リトアニアやラトビア、ハンガリー、ポーランドなどは人口成長は停滞しているのに、GDPは確かに伸びている。だが、開発途上国や中進国は一人当たりのGDPは日本の半分以下で、直接投資が集まっている状況に過ぎない。

また日本企業の間では既に、国内市場の成長が望めないため、海外進出や多国籍化はかなり進んでいる。それでも、小売り、サービス、製造業などで、国内市場に依存した業界や企業は日系には特に多い。

例えば卑近な例では、日本人個人を対象とした日本語の新聞社や出版社の場合、総務省の予測通りに40年後に日本の人口が26%減れば、売り上げもそれに比例して減るのは自明の理だ。それでも、世界では人口が増えているからといって、売り先を外国人に振り向けるわけにはいかないだろう。これまでは、日本国内の1億2,400万人という安定感ある単一市場、そして岩盤規制に依存するだけで十分だったからである。

■少子化を克服したフランス

また「一人当たりのGDPが維持できればいい」とされるものの、それは「女性や高齢者の積極的な登用」や「人工知能(AI)で生産性を向上させる」のが必須条件である。

それも「人口の減少ペースは予測でき、事前対応もできる」とは言うが、それは20年前の時点でも予想できたことで、当時から日本は何も手を打たず、女性の社会進出を促し、安心して子供を産める社会を促す政策など実施されなかった。それどころか、保育所に入所できない待機児童の問題さえ長年放置した。若者の晩婚化に拍車がかかり、その間GDPは全く成長しなかった。

フランスや一部の北欧諸国など、早めに手を打って少子化問題を克服し、女性の合計特殊出生率の上昇を実現してきた国もあるというのにだ。

これについて今から約20年前に、フランスの専門家に取材したことがある。その際彼は日本についても言及し「日本政府はなぜ今から手を打たないのか、全く理解できない」とあきれていたのを思い出す。

■移民に対するネガティブな印象

生産年齢人口が急減している日本にとって、移民政策は必須だと思われるが、日本はこれも及び腰だ。OECDの統計では、日本は18年時点で50万人以上の移民を受け入れており、主要国では4位とされる。

だがこれは「外国人技能実習生」を含めているからだ。その場しのぎ的に、足りなくなった生産年齢人口を補う短期労働力として受け入れているだけで、国籍どころか永住権も与えない。

前回述べた、オーストラリアの「戦略的な」移民政策は、日本にとって非常に参考になるが、どうも日本の政策担当者の間では、移民に対するネガティブな印象が拭いきれないようだ。だからこそ日本政府は、技能実習生などという「巧妙な形」でお茶を濁そうとしているように見える。

その背景にあるのは、欧州諸国で湧き起こっているような、外国人移民に職を奪われるとか賃金水準が下がるといった一般庶民の意識よりも、「治安の悪化の恐れがあるし、日本の医療や生活保護の受給対象にもしたくない」という意識だと思われる。これがオーストラリアや北欧諸国と、日本との違いだろう。オーストラリアで現在強まっている「移民が減少すれば、国家が衰退する」という危機感は、日本には全くないかのようだ。

■「移民減少でダイナミズムを失う」

オーストラリアでは確かに、コロナ禍で国境間の移民が途絶えたことで、人材不足が顕著になり、賃金水準を引き上げた。賃金が上がったのだから歓迎されがちだが、7月10日付オーストラリアン・ファイナンシャル・レビューは社説で「それは大きな間違いだ」と指摘する。

農場のように、非熟練労働者の移民も必要とされるのは事実だとしながら、「熟練した技術を持つ移民を受け入れることが生産性の向上を促し、生産性の向上が賃金水準を引き上げる」と主張。「移民を受け入れないということは、投資が減少し、景気信頼感が下がり、生産が停滞し、国内資本が減少していく。要するに、経済がダイナミズムを失うということである」――。

近年、日本企業がますます海外に進出する一方で、日本に進出する外国企業の話はあまり聞かない。相変わらずの重厚な岩盤規制が要因だ。その上さらに、今後40年間で人口が26%減り、長期移民も受け入れず、ダイナミズムが失われていくとしたら、果たしてその時、日本に魅力はあるのだろうか。(了)【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリア日本
関連業種: 社会・事件

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