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【農業通信】日本とNZのタッグで世界の農業へ ロボティクス・プラスとヤマハ発傘下YMVSVインタビュー

ニュージーランド(NZ)のアグリテック(農業テクノロジー)業界は、農業大国の名に恥じず非常に盛んだ。政府の支援も厚く、外国投資を積極的に誘致している。今回は、その中で最も成功している企業の1つである、青果・林業向け農業ロボット製造企業ロボティクス・プラスの創業者であるスティーブ・ソーンダース最高経営責任者(CEO)と、同社に出資するヤマハ発動機傘下のヤマハ・モーター・ベンチャーズ・アンド・ラボラトリー・シリコンバレー(YMVSV)の青田元(はじめ)社長を迎え、世界を見据えた両社のパートナーシップについて話を聞いた。【オセアニア農業専門誌ウェルス編集部・石渡由香利】

YMVSVの青田元社長(左)とロボティクス・プラスのスティーブ・ソーンダースCEO

YMVSVの青田元社長(左)とロボティクス・プラスのスティーブ・ソーンダースCEO

――お二人の経歴と出資までの流れを教えて下さい

【ソーンダース】私はキウイフルーツとリンゴの果樹園を保有しており、果物業界においては35年の経歴があります。10年ほど前、テクノロジーがサプライチェーン(調達・供給網)において果たす役割について、真剣に考え始めました。自分が生産者としてどうサステナブル(持続可能)でいられるかだけでなく、労働力不足や環境への影響、サプライチェーンの効率化など、予想され得る課題をどう解決できるかということも含めてです。ロボティクス・プラスは、そんな私個人の知的好奇心を基に立ち上げました。

ただすぐに、これは私だけの問題ではなく世界中の課題であることを理解しました。例えば日本の農業従事者は高齢化が進んでおり、NZは深刻な労働者不足に見舞われています。それに加えて、2050年までに世界の人口が急増するといわれていますので、サプライチェーンにおける品質、生産性、サステナビリティーを向上させる自動化テクノロジーをいかに設計するか、そしていかに世界的なソリューションとして考えていくかが重要でした。

また、NZのような小さな国や、日本でさえも、米国などと比べると市場規模が小さく伸びしろがないことが事実としてあります。ですので事業を拡大するためには、世界市場を見つめ、世界の課題を解決する必要があったのです。

その流れにおいて、ヤマハ発動機から17年と18年に出資を受けました。それ以降は、従業員80人以上の組織に成長し、複数の国に商品を販売しています。

【青田】私はYMVSVだけでなく、日本側のヤマハ発動機にも関与しており、両社において役割を担っています。

ヤマハ発動機の事業の60~65%は、二輪車やレクリエーショナル・ビークル、自転車などを含むランドモビリティー事業で、これが主軸です。また20~25%はマリン事業となっており、例えば主力製品は船外機です。

残りは「ライジングスター」とも呼ぶべきロボティクス事業です。自社生産向けを中心にロボットを製造しています。

YMVSVは、将来のための事業機会を特定しイン・オーガニックグロース(買収・合併など外部資源による成長)を目指すため、15~16年に事業を開始しました。その頃、ロボティクスとモビリティー技術を組み合わせて何ができるか検討しており、工場の外に可能性があるのではないかと考えていました。先ほどスティーブも話していましたが、労働力不足や人口増加、食品廃棄など多くの傾向がある中、屋外でロボティクスを活用できると考えたのです。

ロボティクス・プラスについてはロボットの部品を供給するだけでなく、投資家として新規事業の開発などでも協力しており、共に社会の課題を解決するため多くの領域にまたがって協業しています。

――どんなロボットを製造していますか

【ソーンダース】ロボットの種類は3つの分野に分けられます。1つ目はリンゴの梱包(こんぽう)ロボットであるアップルパッカーで、商用化されている主力製品でもあります。スマートビジョンシステムとマシンラーニング(機械学習)により、見栄えが良くなるよう赤い方を上にしてトレーに配置するなど、人の手で行われていた作業を置き換えることに焦点を当てたものです。NZだけでなく欧州や米国、オーストラリアで稼働しており、今はリンゴに注力していますが、今後ストーンフルーツ(核果)に対応したロボットをリリースする予定で、アボカドについても検討を開始しました。また、対応する作物を増やすだけでなく不良品の検知など機能の追加も行っていきます。

ほかにも、卸売業者が梱包の形式を変えるよう生産者に求めることは世界中で日常茶飯事ですので、ロボットはさまざまな梱包様式に対応できるような機能を備えています。

2つ目はポートサイド・オートメーションと呼ばれる港における自動化技術で、林業向けの丸太検量ロボットです。現在NZ国内の港に導入されています。NZは丸太の輸出大国で、日本や中国などに輸出しており、材積の検量方法としてJAS規格(日本農林規格)を使用しています。ただ検量は非常に危険な作業で、港に止められたトラックに人がよじ登って、スキャン機器とバーコードを利用して、20~40分もかけて行っているのです。

私たちのロボットは高速道路の料金徴収所のような形をしており、丸太を載せたトラックは中に停車するだけで、検量からシステムへのデータの転送まで完了することができます。またこれにより、丸太の写真記録が取れるようになり、業界ではほぼ初めて視覚的なトレーサビリティー(生産流通履歴)を確立することができました。検量の正確性については、要件である75%を大幅に上回る約99%です。

今後はロボットを可動式にする計画で、例えば貨物列車などに積まれた丸太も計測できるようにしたいと考えています。

最後に、農業における無人地上車両(UGV)の開発です。ブロードエーカー(広大な農地を利用する農業)についてはジョン・ディアなど大手が独占していますので、私たちは青果など園芸作物に焦点を当てています。

UGVには、収穫機能や薬剤散布機能など、さまざまな付属機能を取り付けることができますし、作物の生育状況などのデータを収集することも可能でしょう。

ロボティクス・プラスのテクノロジーに共通するのは、データ主導型であるという点です。データを収集し、インサイト(洞察)を活用することで、ロボットを利用する生産者に対しより意味のある結果を生み出すことができるというわけです。

──ヤマハが投資を決めた理由はどこにあったのでしょうか

【青田】まずはやはり、ヤマハとしてNZの農業においてBtoB(企業間取引)の実績があり、知見があることが背景として挙げられます。また、ロボティクス・プラスも我々も共通して、日本やNZに焦点を置くのではなく、事業拡大のためには世界のどの市場がベストなのかを模索する、という点を重要視していたこともあります。つまり重要なのは、NZの製品を日本市場で展開するということでも、日本の技術をNZの企業に導入するということでもないのです。

農業技術の開発においては、試作品を実地で試したい場合、作物の生育によって年に1度しか試験のチャンスがありません。何か変更してまた試そうと思っても、翌年まで待たなければならないのです。YMVSVの拠点は米国ですが、南半球にポートフォリオを増やすことは試験が2回できるということにつながりますので、NZ企業への出資は主な戦略的側面の一つでもありました。

さらに言えば、NZは人口が約500万人と少ないにもかかわらず、農産物の輸出能力はおそらく世界で4,500万人を支えられるほどの規模です。つまり、国自体が農業を非常に重要な輸出事業として考えているという点も、投資の背景にあります。

【ソーンダース】補足すると、ヤマハと共に海外市場で事業規模を拡大するという点においては、最終的にビジネスが大きくなれば柔軟性が生まれ、日本やNZなど、我々自身の国内の問題を解決することにつながるでしょう。

あとは、YMVSVは投資環境やテクノロジー領域で今何が起こっているのかということについてインサイトがあり、私たちに明確性や人脈をもたらしてくれますので、非常に価値のあるパートナーシップだと思っています。

――世界市場で競争力を持つ鍵は何でしょう

【ソーンダース】まずはロボティクス・プラスの専門分野が青果など園芸作物だということがあるでしょう。園芸作物部門におけるロボティクスや自動化技術はまだまだ初期段階で、大きく成長したテクノロジー企業は世界中を探してもほぼありません。一方私たちは、既に市場に商品を投入しており、ソリューションを構築できる能力があることやビジネスモデル、ソリューションの導入方法などを証明しています。

また、私は農産物の生産から消費者市場まで、サプライチェーン全体にわたり関与してきた経験がありますが、サプライチェーン全体の仕組みを把握していることは非常に重要です。例えば、1つの問題を解決するロボットを開発するとしますよね。その場合、ロボットがバリューチェーンの上流と下流にどのような影響を及ぼすか、考えなければなりません。なぜなら、その1つの技術が、全体の工程の中ではボトルネック(制約)になりかねないからです。

そして、サプライチェーン上で悩みの種がどこにあるか理解する必要があります。生産者が採用するのに理にかなったテクノロジーでなければ、100万ドルのソリューションを開発しても意味がありませんよね。つまりは、開発したテクノロジーについては、バリュープロポジション(顧客に提供する価値)と、サプライチェーンにおける適応性を考慮する必要があるのです。これは、価格決定モデルを考える際にも重要な要素です。

そういった意味で、ロボティクス・プラスは現状、園芸作物のロボット・自動化技術において世界有数のリーディング企業だと考えています。

【青田】バリュープロポジションの話がありましたが、別の言葉で言えば、ローンチカスタマー(初期顧客)を特定し、彼らのフィードバックに目をやることはとても重要です。ロボティクス・プラスは、ロボットの導入によりコスト削減になるのか、それとも労働力の助けになるのか、そして顧客が対価としていくら払えるのか、そういった点を実際の利用者との会話を基に見極めています。

またスティーブが言及していたことの補足ですが、ある単一のソリューションがバリューチェーン全体の問題を解決できるわけではありません。生産ラインへの影響を把握しなければ、テクノロジーを開発してもバリューチェーン上での主要技術とはなり得ないのです。

【ソーンダース】1つ付け加えると、私たちは標準化され組み合わせが可能な「モジュラー型の技術」を開発し、問題の分野に合わせファインチューニングしていくやり方をとっています。例えば、アップルパッカーと丸太検量ロボットには、同じ視覚的技術が採用されている、ということがあります。これはほかのスタートアップと比べると、独自のアプローチと言えるでしょう。

なぜこのような方法をとっているかというと、農業ロボットの開発は驚くほど複雑だからです。制御された環境の中、同じ場所で同じ作業を繰り返す産業ロボットとは異なり、農業ロボットの場合は雨風や周りの人間などあらゆる環境の変化に対応しなければなりません。これに加え、作物はそれぞれ異なっており、収穫方法も同一ではありませんので、1つのロボットだけでは全ての作物に対応することができません。さらには、同じ作物でも育て方が違ったりするわけです。

そのためロボティクス・プラスでは、あらゆる分野に適用できる、核となる技術の開発に焦点を当てているのです。

――協業の次のステップを教えて下さい

【青田】1点目として、ヤマハには製造のしやすさを考慮した設計手法「製造容易性設計(DFM)」における知見があるので、今後は新製品の開発計画などをサポートしていけると考えています。試作品の製造は一発ものなので簡単ですが、100体製造するとなればそれはまた別の話です。私たちはこういった製造過程に慣れていますので、ロボティクス・プラスをすぐに支援できるでしょう。

2点目は、協業分野の拡大です。ロボティクス・プラスの強みはロボットですので、私たちはモビリティー分野でさらに助けになれるかもしれません。また、資金支援や顧客関係においても何かできることがあるでしょう。私自身としては、ヤマハの資産をロボティクス・プラスの将来にどう生かしていけるかということを常に考え、橋渡しのような役割を担っていると思っています。

【ソーンダース】特に無人走行車両について、顧客への展開を進めていき、ヤマハとの協業を通じて成長していきたいと考えています。また、日本やNZ独自の問題を解決するようなテクノロジーの開発にも強い思いを持っています。

私たちが解決しようとしているのは非常に複雑な問題ですから、決して1社では対処できません。多くのパートナーシップにより、互いに支援しながら事業を進めていくことが非常に重要ですね。

【青田】あとは、農業をクールな産業にしていかないとだめですよね。日本では、農業従事者の平均年齢が約63~65歳と高齢化しており、有望で才能ある若者世代をいかに取り込むかは重要課題です。

私は、日本やNZだけでなく世界の農業にインパクトを与えることで、能力ある粋な若者の農業参加を増やし、より優れた農業ソリューションを見いだしたいと思っているのです。ロボティクス・プラスへの支援を通じ、より大きなエコシステムとしてこういった部分にも貢献していきたいですね。(了)


関連国・地域: ニュージーランド日本米国
関連業種: 自動車・二輪車電機農林・水産その他製造IT・通信

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