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【アジアで会う】織戸直彦さん クラウドバトラー社長 第350回 コロナ禍で引っ越し業に事業転換(タイ)

おりと・なおひこ 1989年生まれ。神奈川県川崎市出身。慶応大学総合政策学部を卒業後、学生時代の友人と東京で飲食店を経営。IT企業を経て2016年、ヘリコプター送迎業立ち上げのため来タイ。19年に日本人旅行者向けのリムジンサービスを手掛けるクラウドバトラーをバンコクに設立し、20年にタイ国内引っ越しサービスを開始した。日本人の妻と3歳の息子と暮らす。

約6万人の日本人が暮らすバンコク。タイ人スタッフとともに住居から手際良く荷物を運び出し、新居へと運ぶ。問い合わせには自ら日本語で対応し、できる限り引っ越し作業にも同行し、顧客の要望に応じて梱包(こんぽう)から開梱まで手掛ける。

「引っ越しは運送業ではなく、サービス業だと思っています」。「サービスマン」と自負し、顧客の喜ぶ顔を見ることにやりがいを感じる。

タイに来たのは5年前。地場ヘリコプター会社を買収した日本人経営者の下、ヘリコプター送迎業を立ち上げ、営業スタッフとしてバックオフィス業務や商品開発などを担当した。

仕事が板につき、人脈も広がってきたころ、転機が訪れた。3年間勤めてきた同社が撤退することになったのだ。タイに残りたい――。日本で自営業の経験があったことから独立を決意。19年11月、タイを訪れる日本人旅行者向けのリムジンサービスやカーリース事業を手掛ける会社を立ち上げた。

■会社設立4カ月で売り上げゼロに

会社設立から4カ月、観光のハイシーズンで多忙な日々を過ごしていた。19年にタイを訪れた日本人旅行者は180万人に上り、予約が次々に舞い込んだ。順風満帆だったが、新型コロナウイルスが世界を襲った。20年3月、タイ政府が外国人の入国制限措置を開始したことから、入っていた予約は全てキャンセル。カーリース事業を除き、売り上げはゼロになった。

仕事を失い、銀行残高は減っていく一方。「立ち上げたばかりの会社をたたむことは選択肢になかった」と言うが、どうしていいのか分からず、ステイホームをしながら今後について悶々とする日々を過ごしていた。

日本の医療機関にタイ製のフェースシールドを寄贈したり、検温器の輸入販売を試みたりしながら新たな事業を模索していたある日、日本に一時帰国する知人の荷物をバンで保管倉庫まで運ぶ手伝いをした。車がなく荷物を運ぶのに苦労していた知人から予想以上に感謝され、「これだ」と思った。

時を同じくして、バンコクをはじめタイでは新型コロナ対策として行動制限措置が取られ、遠隔勤務(リモートワーク)が浸透し始めた。「都心のオフィス需要は縮小し、それに伴い、都心から家賃が比較的安い郊外に引っ越す人が増えるだろう」と見込んだ。

タイには引っ越しを専門とした業者が少なく、日系運輸大手は海外引っ越しに軸足を置いている。国内引っ越しならば商機がある――。送迎業で培ったノウハウやスタッフを活用し、20年6月、タイ国内引っ越しサービス「クラウドムービング」を開始。料金は大型バン1台、スタッフ1人で、格安とされる1時間1,000バーツ(約3,500円)に設定した。

■「ジャパニーズクオリティー」目指す

サービス開始1カ月目に手掛けた引っ越し件数はわずか2件、売上高は4,500バーツ。「仕事が全くなく、何もできなかった日々から比べると、引っ越しの問い合わせをもらえることが本当にありがたかった」と振り返る。

広告や口コミで評判が広まり、1年で受注件数は月間40件ほどに増え、繁忙期の3~4月には60件ずつ受注。1年間で手掛けた引っ越し件数は計308件に上った。コロナ禍でタイへの再入国が難しい人たちに代わり、荷物の梱包から配送・預かり、住居の引き払いまで一括で提供する「リモート引っ越し」の特需もあるという。

顧客には事前に段ボールとガムテープ、緩衝材を無料で提供する。引っ越し作業時に家具や家電が傷つかないように梱包するキルティング製の「ジャバラ」は日本から取り寄せ、衣類をハンガーにかけたまま運搬できる「ハンガーボックス」は手作りした。

スタッフにはユーチューブ動画で日本式の引っ越し作業を教育し、身だしなみを整える、新居に家具を搬入する際には拭いてから運び込む、といった細かいことにも気を配る。ただ荷物を運搬するだけではなく、手頃な料金で「ジャパニーズクオリティー」のサービスを提供することを目指す。

現在、顧客の大半が日本人で、8割が直接の問い合わせ、残り2割が提携する日系不動産会社からの受注。日本人以外の引っ越しも何件か引き受けたことがあるが、日本式のサービスは好評で、手応えを感じているという。「引っ越し作業は数時間から1日という短いスパンで完結する仕事。作業後に『ありがとう』と言ってもらえることが何よりもうれしいです」

今後は引っ越し業をメインに、国際的な人の往来が再開したら、リムジンサービスと両立していく計画だ。観光立国のタイににぎわいが戻ることを心待ちにしつつ、「ありがとう」の言葉を励みに、きょうも引っ越し作業に汗を流す。(タイ版編集・本田香織)


関連国・地域: タイ
関連業種: サービス観光

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