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【有為転変】第157回 小さな州の大きな野望

3月中旬に、南オーストラリア(SA)州の主要産業を視察した。SA州の産業というと、個人的には防衛産業や鉄鉱石やウランなどの資源産業、近年注目される宇宙産業などの印象が強いが、近年は大規模な停電が相次いだ反省から、再生可能エネルギー電力をさらに充実させる試みが花盛りだ。何しろ今からわずか10年後には、州総発電量のうち再生可能エネルギー割合を100%にできる見通しだという。国内で陰に隠れがちな小さな州が、世界の注目を集め始めている。

SA州ではもともと、再生可能エネルギーの割合を40%としていた。SA州を国とした場合、再生エネルギー割合の国別ランキングでは7位に位置する高水準だ。

しかし、2016年から再三にわたり大規模な停電が発生し、深刻な電力不足が問題となっていた。悪天候時に供給が安定しない再生エネルギーの割合を高く設定し過ぎたことが一因だと言われていた。

「SA州は再生エネルギー先進州になる」とマーシャル首相(Raj Suri撮影)

「SA州は再生エネルギー先進州になる」とマーシャル首相(Raj Suri撮影)

大規模な停電を受けて、「やはり再生エネルギーへの過剰な依存はダメだ、化石燃料による発電に回帰せよ」という主張も強かった。ところがSA州は逆に、再生エネ事業をさらに発展させる形で、蓄電施設への投資を拡大させていく。

SA州は17年に、5億5,000万豪ドル(約476億円)を投じ、米電気自動車大手テスラのリチウムイオンの大型蓄電施設を建設すると発表。容量は10万キロワットで、3万世帯以上に電力供給が行える規模だ。蓄電池施設としては世界最大級だった。この蓄電施設は初年度から予想外の高評価を受け、他州や他国からの引き合いも強いという。

テスラの蓄電施設のほかにも、SA州が近年、矢継ぎ早に打ち上げたプロジェクトは興味深いものばかりだ。

エネルギー大手エナジー・オーストラリアは、2億豪ドルを投じ、同州スペンサー湾の沿岸部に国内で初めて海水を利用した揚水式水力発電所を建設中で、近い将来稼働する見通しだ。発電容量は100メガワット(MW)。この発電所に設置される蓄電施設は、家庭用蓄電池6万個分に匹敵する電力を6~8時間蓄電可能だという。

またライバルのAGLエナジーも、同じく2億豪ドルを投じた電力網構築の一環として、SA州のトレンズ島に最大容量250MWの蓄電施設を建設する。石炭発電所のロイヤンAは、売り渡す方針だ。

さらに、アデレードの地場電力会社エスエーピージェン(SAPGen)は、アデレード東部テプコでガス燃料と太陽光によるハイブリッド発電所を建設する。新発電所は22年の操業開始を目指し、総出力は422MWで、ガス燃料から380MW、蓄電池から30MW、太陽光から12MWを賄うという。

■相次ぐ水素プロジェクト

さらに注目されている燃料が、軽油に代わり、列車やトラック、バスの燃料となる水素だ。SA州では既に一部の一般家庭で、天然ガスに混入される形で、暖房や調理に使われつつある。

水素に関わるSA州の目玉プロジェクトとしては、三菱重工業も関わる、SA州の水素開発企業ハイドロジェン・ユーティリティー(H2U)が、再生可能エネルギーを利用して水素貯蔵材料(水素キャリア)としてのアンモニアを生産する「グリーン・アンモニア事業」が注目されている。

また、再生エネルギーを利用して製造される「グリーン水素」を民間に供給するプロジェクトも、4月開始まで間近となっている。

同プロジェクトは、アデレード近郊のミッチェルパークにある700以上の世帯や企業に対し、再生エネルギーで生産された水素を5%混合させた天然ガスを、既存のガスパイプラインを通じて供給するものだ。電気分解装置を全体のネットワークに組み込んだ上で、グリーン水素の混合率を10%まで高めるという画期的プロジェクトだ。

■広大な土地を有効活用

SA州の人口は約177万人と、日本全体の約70分の1しかないのに、面積では約100万平方キロと、日本の約2.5倍もある。この広大な土地で、SA州は再生可能エネルギー事業を効率的に運用している。

海外の投資家からは、クリーンエネルギー事業に既に総額70億豪ドル以上の資金が集まり、今後も200億豪ドル以上が調達できる見通しだという。

また潜水艦事業でもめていたフランスのネイバル社との間でも、地元企業への発注割合を6割とすることで連邦政府とまとまる見通しだ。

さらに近年話題の宇宙産業も緒に就いたばかりだ。軍需産業と宇宙産業はこれから大きく動き出す。アデレード経済が大きく飛躍する時代は、本当に来るのかもしれない。

さて――。

先日のアデレードでは、マーシャル首相と夕食を共にする機会にも恵まれた。筆者は、SA州をPRする隣席の首相にいたずらっぽく苦言を呈してみた。

「……しかし首相、新型潜水艦を日本に発注していたら、現在とは比べものにならないほどの日系企業からの投資がアデレードに集まっていたはずなんですけどねえ」。マーシャル首相は苦笑いしていた。【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: 社会・事件

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