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【アジアエクスプレス】 ヤクルトレディが挑む マレー系ムスリムの壁

乳酸菌飲料大手ヤクルトの女性販売員「ヤクルトレディ」。日本では身近な存在だが、同社のマレーシア法人では商品普及に向けて人口の6割を占めるマレー系の女性採用に力を入れる。イスラム教徒(ムスリム)が多数派のマレー系。働く女性に立ちはだかる文化の壁を乗り越え、ムスリム世帯にヤクルトのシェア拡大を図る。(NNAマレーシア 降旗愛子)

クランのヤクルトレディたち。主婦だった人が多く、毎日の朝礼で会社の理念や商品のコンセプトを唱和して意識付けする=2020年10月、マレーシア・スランゴール州(NNA撮影)

クランのヤクルトレディたち。主婦だった人が多く、毎日の朝礼で会社の理念や商品のコンセプトを唱和して意識付けする=2020年10月、マレーシア・スランゴール州(NNA撮影)

今年で5年目という華人系のヤクルトレディ、サブリナさん(66)の仕事に密着した。首都クアラルンプールをぐるりと囲む自治体、スランゴール州のクラン営業所に所属する。

車社会のマレーシアではヤクルトレディも車移動が基本だ。毎朝、事務所で朝礼を済ませてから商品を積み込み、担当エリアを回る。

クラン在住のサブリナさんは、勝手知った地元の路地をスイスイ進む。別の車で同行したが、うっかりすると見失いそう。最適な訪問ルートを上手に組めるかが、売り上げの鍵だという。

この日はマレーシア在住の日本人お笑い芸人、KLきんじょーさんがアシスタントとして同行。保冷ケースから商品を出すと「6個だって言ってるでしょ。それ5個じゃない」とすかさずサブリナさんが指摘する。

マレー系顧客を訪問するサブリナさん(右)。このお宅は父娘2代の付き合いだという=同

マレー系顧客を訪問するサブリナさん(右)。このお宅は父娘2代の付き合いだという=同

これまで、各地の営業所で多くのヤクルトレディたちのアシスタントを務めてきたきんじょーさんも「サブリナさんは断トツで仕事ができる」と太鼓判を押す。

顧客の多くはサブリナさんとの地元付き合いが長い。「ここのお嬢さんはニューヨークで働いているの」「そこはお父さんの代からの付き合いよ」と家族構成にも詳しい。

時には訪問先の家の冷蔵庫を開け、在庫チェックすることも。「奥さんが高い商品を買うようになった。客単価が上がったわ」と抜け目ない一面を見せる。

「ここの奥さんはシャイだからね。写真は撮らないほうがいいよ」と取材にも配慮してくれる。笑顔が印象的で、明るさと気遣いが顧客を引きつけるのだろう。

クランのヤクルトレディ(左)と、補佐するKLきんじょーさん=20年10月(MA MAG MARKETING提供)

クランのヤクルトレディ(左)と、補佐するKLきんじょーさん=20年10月(MA MAG MARKETING提供)

ヤクルトレディの担当地域は各2,000~2,500世帯ほど。不公平がないように面積ではなく世帯数で区切る。住宅だけでなく、町工場や商店も回る。これはどこの営業所も同じだ。

サブリナさんは曜日ごとに異なる顧客を20カ所ほど訪問し、毎月3,000~4,000リンギ(約7万5,000~10万円)程度を得ている。営業所では5年目と最も日が浅いが、売り上げは上位に入る。

マレーシアヤクルトの濱田浩志社長は「安全対策はもっとも気を遣う」と強調する。現金や商品と共に動き、販売ルートが決まっていることから待ち伏せ強盗などの危険性もある。安全のためバイクや自転車、徒歩などは認めていない。

営業所の立地は、女性が一人で出勤しやすいように治安の良い住宅地を選んでいる。朝礼以外の時間の使い方は自由で、家事や子どもの送迎など多忙な主婦でも働きやすいように配慮しているという。

■採用を阻むは夫たち、ムスリム社会の壁

マレーシアヤクルトは、2004年の進出から15年以上かけて知名度を上げ、乳酸菌飲料市場でシェア4割を占めるまでになった。進出当初は華人系が8割だった民族別の購入比率も、今ではマレー系が4割を占める。

ただ、濱田社長は「マレー系の多くはスーパーなど店頭で購入し、ヤクルトレディ経由は少ない」と明かし、マレー系ヤクルトレディの獲得を急ぐ。

ムスリムであるマレー系はハラル(イスラム教徒の戒律で許されたもの)製品であることを重視し、国産品を好む。同社の商品はハラル認証を取得しているが、日本企業が信頼を得るのは容易ではない。

マレー系市場にさらに切り込むには、口コミで商品の良さを正しく伝えられるヤクルトレディ経由の販売が欠かせない。それも、同じマレー系からでなくてはならない。

マレーシアは民族別にコミュニティーが歴然と分かれている。マレー系と華人系は歴史的経緯から相容れないことが多いが、約400人いるヤクルトレディはいまだに華人系が圧倒的多数だ。都市部では華人系がマレー系を訪問してもなかなか応じてもらえない。

そんなマレー系女性の採用に立ちはだかる大きな壁がある。それは、彼女たちの夫であるマレー系男性からの理解を得ることだ。

濱田氏によると、民家やオフィスを渡り歩く訪問販売の仕事はマレーシアのムスリム社会、特に都会では地位を認められにくいという。

妻がそうした仕事に従事することを嫌がる男性は多く、せっかく本人の意思でヤクルトレディとして活動を始めても、夫の反対を理由に辞めるケースがある。

また、マレー系を優遇するブミプトラ(マレー系と先住民の総称)政策も、女性の社会進出を阻む壁の一つになっている。

低所得のマレー系家庭は政府から援助を得られるため、夫が収入の増加を嫌がるのだ。こうした傾向は、隣国インドネシアのムスリム市場とも異なるという。

ただ、多くの壁が立ちふさがる中でも、努力によって妻が家計の大黒柱となって、夫と二人三脚で収入を伸ばす成功例も出ているという。

「健康と社会に貢献するヤクルトへの理解が深まれば、マレー人男性たちも必ずヤクルトレディの仕事に価値を見いだす」と濱田氏。生き生きと働くマレー系女性たちが増えていくことに期待を寄せている。

(おことわり)今回の取材は、10月14日から首都圏で発令された条件付き活動制限令以前に実施しました。

※特集「アジアエクスプレス」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2020年12月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: マレーシア日本
関連業種: 食品・飲料サービス社会・事件

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