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【アジア取材ノート】武漢に戻る活気と消費 日系が越えたコロナ禍

新型コロナウイルス感染症拡大の震源地となった中国・湖北省の省都、武漢市。都市封鎖が解除されて約7カ月、生産や消費が急速に回復している。現地、武漢の日系企業はコロナ禍をどう乗り越え、どのような教訓を得たのか。流通業者や自動車メーカーの知見を伝える。(NNA上海 吉野あかね)

江漢路を行き交う人々=8月12日、湖北省武漢市

江漢路を行き交う人々=8月12日、湖北省武漢市

8月中旬に訪れた武漢は、累計感染者が5万人を超える最も深刻な事態となった場所とは思えない平穏な雰囲気に包まれていた。

繁華街の江漢路は、食べ物を手に散策したり、ベンチに腰掛けて話に花を咲かせたりする若者でにぎわう。マスクをしっかり着けている点を除けば、コロナ流行前と変わらない日常が戻ったように見える。道ばたにマスクを売る店が出ていたが、足を止めて買う人はいないようだった。

コロナの感染拡大が落ち着き、消費活動が回復し始めている。長く続いた外出制限の影響で冷え込んだ個人消費を活性化させようと、市が市民に配布した「武漢消費券」(用途を定めた電子マネー)も後押しする。

市内で働く楊言茜さん(26)は「日本のような現金給付はないけど、市民向けには消費券があるし、打撃が大きかった産業には政府の手当がある。武漢の経済は年内に回復すると思う」と明るい表情で話す。

■安全性の徹底図り、顧客や店子を呼ぶ

7月下旬に増床リニューアルオープンしたイオンモール武漢金銀潭=同

7月下旬に増床リニューアルオープンしたイオンモール武漢金銀潭=同

日系流通大手イオン系のショッピングモール「イオンモール武漢金銀潭」を訪れると、家族連れや若者であふれていた。

「封鎖を経験した市民は、買い物や人と食事することの大切さを実感しているようだ」。施設を運営する永旺夢楽城(湖北)商業管理(イオンモール湖北)の南慎一郎総経理は感慨を込める。

市内封鎖後、4月1日に専門店の再開にこぎ着けるまで約2カ月半。テナント群は「すぐに業績が戻る」と楽観していたという。だが、再開から3週間たっても売り上げは全く戻らなかった。

「もう限界と思った」と南氏。その矢先、座席間を空けることなどを前提に店内飲食が認められ、若者を中心に人が戻り始めた。5月末にはアミューズメント施設の再開も認められ、子供と高齢者も戻ってきた。4月の再開当初、前年同期の3割程度だった売上高が6月には9割まで回復した。

南氏は「市による消費拡大策の影響が大きい」と指摘する。武漢市は4月中旬から7月末にかけて総額5億元(約78億9,000万円)の「武漢消費券」を市民に配布し、消費を喚起。イオンモールも消費券の利用者に割引を上乗せするキャンペーンを実施した。

専門店企業にも変化が生まれた。不採算店を閉め、テナント出店する商業施設を選別する動きが始まったのだ。消毒など感染対策を徹底したイオンモールは客足の戻りが早かったため、出店申し込みが多く舞い込むようになった。

イオンモール全体の取り組みとして、専門店の従業員がインターネット生配信で商品を宣伝、販売するライブコマースも始めた。市内モール各店の会員向けで毎回1万~2万人が視聴。購入品はあえて配送せずに来店受け取りとし、来店時の「ついで買い」などにつなげているという。

コロナ禍を乗り越えた中国で、商業施設はどう変わっていくのか。南氏は、「今までのようにブランドが確実に売れる時代は終わり、消費者は厳しい目で価値を判断するようになる」とみる。

遠出を控える市民もまだ多いなか、「安全安心」がポイントになるとも指摘。「イオンモールは安全で、安心して遊べる場所。買い物よりも遊びに来る人が増えるかもしれない」(南氏)。武漢の3カ所の既存店に加え、長江の東側にも出店を進める考えだ。

■日産の稼働再開、デジタルを活用

東風汽車の系列である東風日産の販売店は3~4月にかけて営業を再開した=湖北省武漢市(東風汽車提供)

東風汽車の系列である東風日産の販売店は3~4月にかけて営業を再開した=湖北省武漢市(東風汽車提供)

武漢市に本拠を置く日産自動車と中国自動車大手の東風汽車集団との合弁会社、東風汽車(DFL)はコロナ流行を受けて1月下旬の春節(旧正月)から生産活動を完全停止した。

「従業員と顧客の安全、健康が最優先だ」。DFLのトップで日産自動車の専務執行役員でもある山崎庄平氏は、安全な早期再開に向けてさまざまな手を打った。

中国の各拠点で稼働が始まったのは2月中旬から。従業員が安全に業務できるよう、生産現場やオフィスの消毒を徹底。100社を超えるサプライヤーと在庫確認や事業再開に向けた計画を進めた。そして、稼働停止から約1カ月半後の3月14日に中国内の全拠点を再開させた。

コロナの世界的流行を受けて生産・調達体制を見直す企業もあるが、同社は「大きな変更は予定していない」という。一方、今回のような事態に備え、これまで単一の企業から供給を受けていた部品については調達先の分散化を検討している。

復旧では、デジタル技術が重要な役割を担った。中国統括会社の日産(中国)投資はウェブ会議ツール「Zoom」(ズーム)のアカウントを全社員分作成し、どこにいてもビデオ会議やミーティングに参加できるようにした。DFLもビデオ会議システムを構築し、オンラインの業務環境を整備した。

「コロナ流行でデジタル転換はいっそう加速した」と山崎氏は指摘。デジタル化により「日産とその合弁による事業領域の拡大や、緊急時の効率的な対応が可能になる。コスト削減、さらに中核となる競争力の強化にもつながる」とみる。

中国での流行が収束に向かったことで販売は回復している。コロナ禍が直撃した2月は前年同月比8割減まで落ち込んだが、4月以降は7月まで4カ月連続でプラス成長。8月に一度マイナスとなるも9月には再びプラスに転じた。

「消費者が交通機関などでの移動の安全性に不安を感じ、マイカーの需要が徐々に増加してきている」と山崎氏。自家用車の需要で、中長期的な安定した成長を見込む。

世界ではいまだ新型コロナの流行が止まらない。日系自動車メーカーにとっては、いち早く回復した中国市場の重要性はさらに高まっている。

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■自動車部品も反転好調

「中国ではスピード感をもった行動と早い判断が必要」と話す武漢愛機汽車配件の奥田正道総経理=8月18日、湖北省武漢市

「中国ではスピード感をもった行動と早い判断が必要」と話す武漢愛機汽車配件の奥田正道総経理=8月18日、湖北省武漢市

自動車販売の好調を追い風に、武漢の日系部品メーカーでも生産回復が進む。

ホンダ系部品メーカーのエイチワン(埼玉県さいたま市)は車体用部品を現地生産する。拠点となる武漢愛機汽車配件の生産は武漢が封鎖された1月下旬から停止したが、3月中旬に再開にこぎ着けた。4月中旬には停止前の水準を回復し、現在もフル稼働が続く。

生産停止の挽回を目指す東風ホンダの増産体制は現在も続いており「今となってはコロナ前よりも生産は多い」と奥田正道総経理。

稼働再開時、感染者を出さないよう1,000人近くいる従業員全員にPCR検査を受けさせた。従業員一人一人の就業許可申請など復帰に骨を折った経験から「できるだけ現場を省人化していく必要がある」と考える。「省人化は経営的にも、リスクにも効果がある」と話す。

◇コロナ教訓に体制見直し

足回り部品を手掛けるエフテック(埼玉県久喜市)の子会社、偉福科技工業は顧客の需要回復に伴い9~10月も増産。少なくとも年内いっぱいは計画を超える受注が続いている。

コロナ禍で生産を一カ所に集中するリスクが浮き彫りになった。那須和久総経理は「生産体制の柔軟化は考えていかなければならない」と話す。

現在は同じ製品を広東省広州市の拠点で生産したり、中国で困難な場合はタイで生産したりといった取り組みを進めている。感染が世界に広がる中、東南アジアの拠点から代替生産の要請を受けることもあるという。

最近では設備の生産能力をはるかに上回る計画が客先から提示されるほど好況で、急きょ日本から製品の供給支援を受けることを決めた。10月にはその第一便を航空便で受け取るなど、グローバルな補完体制で対応している。

※特集「アジア取材ノート」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2020年11月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: 中国-全国日本
関連業種: 自動車・二輪車マクロ・統計・その他経済

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