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【有為転変】第152回 アーダン首相人気の背後で

先週末に行われたニュージーランド(NZ)議会(一院制、定数120)の総選挙では、アーダン首相率いる労働党が圧勝し、予想外の単独政権を実現できることになった。アーダン首相は当面、国内では向かうところ敵無しの状況で、国内外でその人気はうなぎ上りだ。だが、果たしてアーダン首相人気は実力が伴ったものなのだろうか。いつの時代も、大人気を博するリーダーに反発するあまのじゃくの批判はあるものだが、それがオーストラリアやNZの一部メディアから出始めていて注目している。

「強く、優しく(Be strong, be kind)」というフレーズは、アーダン首相が新型コロナウイルス対策で使ったフレーズだ。アーダン首相は、国内に死者が1人も出ていない3月時点で早々とロックダウンを敢行し、肉屋やパン屋、果物屋さえ営業を認めないという、世界で最も厳格な対策を主導した。その結果、コロナ感染による死者はたった25人しか出なかった。

内外で大人気のアーダン首相だが国内には難題が山積(共同)

内外で大人気のアーダン首相だが国内には難題が山積(共同)

また、クライストチャーチでイスラム教徒51人が死亡した、昨年3月のモスク銃乱射事件では、アーダン首相は被害者への哀悼と共感を示し、断固たる銃規制を実施。さらに昨年12月には、21人が死亡したホワイト島の火山噴火で、アーダン首相は国民を励まし続けた。

3件もの大惨事に見舞われた中での彼女のリーダーシップが国民の信頼を勝ち得て、それが今回の選挙で、労働党としては戦後最大の勝利につながったと言える。

■NZ人の60%が受給

それでも最近、アーダン首相による采配を疑問視する予想外の論調が出ているのは特筆すべきだろう。特に、経済采配に関する批判だ。

NZの経済成長の原動力になっているのは、年間500万人規模の観光客と、労働年齢移民の受け入れだ。ところがコロナによるロックダウンでこれら2つが壊滅され、国民の貯蓄水準も激減した。

その結果、第2四半期のNZの国内総生産(GDP)は、前年同期比で12.4%落ち込んだ。落ち込み幅はオーストラリア(6.3%)の2倍。1人当たりGDPは、1985年にオーストラリアの85%だったのが、現在はさらに78%に低迷している。

また国際通貨基金(IMF)のリポートによると、今回のコロナ対策で、NZ政府が追加支出した歳出額と、減少した税収額を合わせると、同国GDPの20%に相当する。この割合は、先進国では最も高い水準だという。

同様に、コロナ対策の給与補助制度は、オーストラリアの「ジョブキーパー制度」受給者が全労働者の25%だったのに対し、NZでは実に60%に上っている。いかに大規模な予算を国民にばらまいたかということを意味する。これにより、債務の対GDP比割合は、昨年は19%だったのに対し、24年には55%に跳ね上がると試算される。その影響は、今後国民に降りかかることになる。

■「重要問題を解決できなかった」

オークランド大学経済学教授のロバート・マカロック氏によると、NZ国民の平均年収は5万~6万NZドル(約346万~417万円)と、オーストラリアと比べるとかなり低い。しかもNZの貧困層は拡大しており、政府による食糧供給プランを受けた人の数は3年前に10万人だったが、今年は50万人に増えた。しかもそれはコロナまん延前の数字だ。

NZヘラルド紙も「アーダン首相は現実社会の問題を解決するために政権を担った。にもかかわらず、高騰する住宅相場を適正にするという問題や、貧困問題を解決することはできなかったのは事実だ」と指摘。「NZは住宅購入が最も困難な国のひとつで、オークランドの住宅価格は、シドニーやメルボルンと変わらないが、平均収入で見ればロンドンやニューヨークよりも住宅購入は困難だ」。

オーストラリアン紙で保守系論説で知られるグレッグ・シェリダン論説委員は「アーダン首相ほど、誤った賛辞を受ける国際的リーダーはいない」と酷評。自国ビクトリア州のアンドリュース首相を引き合いに出し、「彼らは働いているポーズばかりで、実際の政策で成し遂げた成果はわずかか、マイナスだ」とまで断罪した。

オーストラリアの保守系メディアには、アーダン首相のファーストネームをもじった「ジャシンダマニア」と言われるファン層が国内外で広がっているのは、「『穏健左派の若い女性』という立場が寄与しているに過ぎず、アーダン首相をアイドル化しているだけだ」という見方がある。

逆に言えば、アーダン首相が「穏健左派の若い女性」というスタンスだからこそ、保守系メディアの批判のターゲットにされている側面もあるだろう。

だが、たとえそうだとしても、実際の国内経済を見れば、第2次アダーン政権は、ジャシンダマニアの人々が思うよりも、遙かに厳しいいばらの道が待っているのかもしれない。【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリアニュージーランド
関連業種: 政治社会・事件

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