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【有為転変】第151回 豪メディアに登場する中国外交官

オーストラリアと中国の緊張関係が続いている。中国は既に豪産の大麦と牛肉に輸入規制をかけているが、第3の標的としてワインにも規制を強化し始めており、一向に手を緩めていない。政治的なしこりがある際、貿易面で圧力をかけるのは中国の常とう手段だ。そんな中、在オーストラリア中国大使館の王晰寧公使が8月末、キャンベラの全国記者クラブで行った講演を興味深く見た。

王晰寧公使は在オーストラリア中国大使館のナンバー2で、前職は中国外務省の副報道局長である。

中国では、国家主席など国家首脳が直接対外的に自由に発言することがない。そのため外務省報道局というのは、共産党の公式見解を伝える唯一の機関で、その発言が内外で注目される。(余談だが、堅物で笑わない女性で知られる現在の華春瑩報道局長は、王晰寧氏と外務省で同期で、華氏が局長に昇格したのと同時に王氏はオーストラリア公使になった)。

王晰寧公使の今回のスピーチは「豪中両国は戦略的パートナーだ」といった親和的なものだった。だが、その後の豪メディア各社からの自由なクエスチョンタイムでは、機関銃のような激しい質問の集中砲火を浴び、自由主義国側から中国に対する総攻撃とも言えるものだった。リアルタイムで見ているこちら側がハラハラさせられるほどだった。

在オーストラリア中国大使館の王晰寧公使は豪メディアによく登場している(ABCテレビから)

在オーストラリア中国大使館の王晰寧公使は豪メディアによく登場している(ABCテレビから)

ある記者は「豪政府の閣僚が(中国の担当閣僚に)電話したのにそれに出ず、折り返しの電話もしないなどという戦略的パートナー関係が一体どこにあるのか」と糾弾した。

これは豪バーミンガム貿易・投資・観光相が、豪産品目に対する中国側の相次ぐ関税引き上げなどを受けて、中国側の閣僚と話し合うために電話したのに、けんもほろろに袖にされたことを指している。

これについて王晰寧公使は「おそらくコロナ対応で忙しくて気づかなかったんだろう」などと居直ったので、あまりの荒唐無稽さに失笑が起きていた。

逆に、オーストラリアが先に国連に対して、中国での新型コロナウイルス感染症の発生源とパンデミック(世界的大流行)についての独立調査を提案したことを振り返り、「中国を調べもせずに、新型コロナの元凶であるかのように中国を非難したのは両国の戦略的パートナーシップに反することで、それが中国人の感情を傷付けた」などと非難。「豪中関係に影を落としているのは、オーストラリア側に責任がある」と逆ねじを食らわせた。

案の定、翌日のオーストラリアの新聞紙面はどれも、いかに王公使の主張が現実離れしているかといった論説が並び、オーストラリアの嫌中感情に拍車をかけた形になった。

■批判に耳を貸さず

ところで王公使は、今年2月28日に生放送された豪公共放送ABCの番組「Q&A」にも出演している。ちょうど新型コロナが猛威を振るっていた頃である。スタジオ内でパネルディスカッション形式で放映されたこの番組の中でも、王公使は矢面に立たされた。しかし、証拠映像などを元に「中国政府は当初、新型コロナウイルスの発生を隠ぺいしようとした」などといった他のパネリストの批判の数々に、王公使は全く耳を傾けなかった。

また新疆ウイグル自治区からオーストラリアに逃れた若い男性が2人登場し、同自治区に残された妻や子どもたちが出国を許されないことなどを訴えても、王公使は「彼らは出国したくないと聞いている」とまで言ってのけた。

■食い物にされてきた中国

中国の外交官は、自国内ではそうした討論番組で自由な質問に答えるといったことはしない。まして、オーストラリアのような国でテレビの討論番組や記者クラブで自由に質問を受ければ、完全なヒール役になるのは自明の理だ。

ではなぜ、大損する役回りをわざわざ買って出るのだろう。豪メディアの視聴者を説得できると本当に思っているのだろうか。

先の番組を見ていて個人的に感じたのは、もしもあれが公平な審査員がいるディスカッション競技であれば、王公使に全く勝ち目はないのだが、一般の中国人が見れば、心情的に王公使に軍配を上げるだろうということだ。オーストラリア側の記者たちやパネリストが、論理性や正当性などの面で、圧倒的に勝っていたにもかかわらず、だ。

それは、王公使が四方八方からやり込められながら、中国語なまりの英語で四苦八苦して答える様子が、一般の中国人には「アヘン戦争以来、中国人は西側の列強諸国から食い物にされてきた」という近代史や、中国人のアイデンティティーと重ね合わせられるからだ。

中国の外務省は、テレビの前にいる在豪中国人向けに、そこまで計算しているのかもしれない。まさかとは思うが、緻密な中国の外交戦略を思うと、否定しきれないところもある。【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: 社会・事件

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