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日本企業のイノベ創出が急務 大使館が奔走、背景に危機感も

在タイ日本大使館は近年、日タイの大手企業とスタートアップ企業の連携強化に向けて取り組みを進めている。産業構造の転換が迫られている日系企業のイノベーション創出を支援し、アジアでの日本ブランドの地位を高める狙いがある。一方で事業を担当してきた寺川聡・前商務官は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、デジタル化によって社会やビジネスを変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の流れが世界的に加速する中で、日系企業の対応の遅れに危機感を示している。

寺川聡・前商務官は「日本企業の存在感が薄くなっていることに危機感を感じていた」と話す=7月、バンコク(NNA撮影)

寺川聡・前商務官は「日本企業の存在感が薄くなっていることに危機感を感じていた」と話す=7月、バンコク(NNA撮影)

――日タイの大手企業とスタートアップ企業の協業を強化しようと思ったきっかけは

2017年6月にタイに来たとき、5,400社以上の日系企業が集積しているにも関わらず、日系企業の相対的な地位が落ちていると感じたためだ。タイの政府や企業関係者から聞いたのは、「在タイ日系企業といろいろ話をしてみても、多くの担当者は本社の窓口にすぎず、結局フィードバックが返ってこない」ということだった。いわゆる「NATO(No Action, Talk Only)問題」だ。

一方で事業の意思決定が速い中国企業が、華僑ネットワークを活用しながら東南アジア諸国連合(ASEAN)へどんどん進出してプレゼンスを高めていく状況に危機感を感じていた。

そこで日タイ企業ともに、柔軟性が高く事業のスピードも速いスタートアップ企業との連携を促進することで、新たなイノベーションの創出が図れるのではないかと考えた。まずはタイ財閥の経営陣を何度も大使公邸に招き、企業が抱える課題について時間をかけて議論を重ねた。

タイの大手企業もDXを推進する中で、(複雑な社会課題を先端技術で解決する)ディープテック分野に強みがあり、今までにないソリューションや技術を持つ日本のスタートアップ企業との協業に高い関心があることが分かった。

それからはタイ企業のニーズに合ったスタートアップ企業をマッチングさせるため、有力なベンチャーキャピタル(VC)などで構成する委員会を設立。この作業に約1年をかけ、タイ企業が抱える問題を解決できそうなスタートアップ企業を的確に絞り込むことができた。

在タイ日本大使館とCPグループは、日本のスタートアップ企業をタイの財閥に紹介するピッチイベント「ロック・タイランド」を共催している=19年3月、バンコク(NNA撮影)

在タイ日本大使館とCPグループは、日本のスタートアップ企業をタイの財閥に紹介するピッチイベント「ロック・タイランド」を共催している=19年3月、バンコク(NNA撮影)

特にスタートアップ企業への関心が高かった大手財閥チャロン・ポカパン(CP)グループとともに、19年3月からタイで(短時間でスタートアップ企業が自社のサービスや製品を紹介する)ピッチイベント「ロック・タイランド」を開催。これをきっかけに、CPグループ傘下の食品最大手CPフーズ(CPF)は、人工知能(AI)を活用した水産養殖向けサービスを展開するウミトロン(東京都港区)と協業することが決定するなど、複数の協業案件が生まれた。

■日系大手がかじ取り

――タイ企業だけでなく、在タイ日系企業とスタートアップ企業の協業も進んだ

タイに来た当時、日系企業の方々にDXやスタートアップ企業との連携強化について説明しても、真剣に考えている企業はほとんどいないという感覚があった。

そもそも、日系企業はまず日本本社で実例を作ってから海外拠点に導入するのが一般的。日本でもDXが進んでいない以上、タイから新しいことはやろうとする企業はめったにいないだろう。

そうした中で、自動車部品大手デンソーのタイ工場では18年、ディープラーニング(深層学習)を活用した情報解析サービスを提供するABEJA(アベジャ、東京都港区)との協業を開始した。工場の製造工程における作業スピードの計測や分析を、AI技術を活用して自動化させることで、大幅な業務効率化に取り組んできた。

このほか、豊田通商のタイ法人である豊田通商タイランドは19年、タイで自家用車向けのラッピングカー広告事業を手掛けるフレアと事業を協業。両社はフレアが開発したソフトウエアを通じ、スマートフォンを活用して運転動態を分析している。

こうした志の高い日本の大手企業がスタートアップ企業との連携を始めたことで、少しずつ他の日系企業の間でも「うちもやらなければ」という機運が高まってきたのではないかと思う。

■ コロナ禍でもやることは変わらない

――世界的に新型コロナの感染が拡大し、タイ企業にも「新常態(ニューノーマル)」への適応が求められる中で、企業の事業戦略は変わってきているのか

これまでも(企業のあり方を変革する)コーポレートトランスフォーメーション(CX)、DXは重要な経営課題だったが、新型コロナの感染拡大によって、そのトレンドがより強くなったと言える。

ただ、「アフターコロナ」「ウィズコロナ」という言葉を日本人はよく使いたがるが、個人的にはやるべきことは新型コロナの感染拡大前と変わらないと考えている。どれだけCXやDXを精度高く、真剣に早くやるかだと思う。

例えば、7月には(動画を見ている端末の画面を触ると情報が表示される)インタラクティブ動画サービスを提供するパロニム(東京都港区)が、タイの携帯通信最大手アドバンスト・インフォ・サービス(AIS)の持ち株会社、インタッチ・ホールディングスからの出資を発表した。両社は19年12月に開催されたロック・タイランドで初めて出会い、その後、オンラインで協議を重ねてきた。コロナ禍でも着実に案件は進んでいる。

■日系企業の「地盤沈下」に危機感

――在タイ日系企業のDXの必要性については

日系企業がタイに進出し始めた数十年前、その存在はすごく格好良かったと思う。地方の真っさらな土地に自動車メーカーがやってきて、そこから産業の裾野が広がっていった。何もない所から事業を立ち上げにタイに来ていたのは、高い志を持つ日本人たちだったのだと思う。ただ、タイで事業インフラが整備されるにつれ、どこかの段階で漫然と事業を運営すればいいという風潮になってしまっていると感じる。

今ここで変化しなければ、日系製造業の「地盤沈下」は取り返しがつかないことになるかもしれない。タイで新たな取り組みを始めている会社の中には、本社からのミッションがなくても、自ら問題意識を持って、先行投資を進めているケースもある。そうしないと生き残れないという危機感を持っているようだ。

コロナ禍で多くの企業の経営状況は厳しいため、在タイ日本大使館をはじめとする政府機関も同じ危機感を持ち、企業のCXやDXを積極的に支援していく。新たな変化を生み出していくことに努めていきたい。(聞き手=安成志津香)

<プロフィル>

寺川聡 経済産業省経済産業政策局産業人材政策室 総括補佐 

2017年6月~20年7月に在タイ日本国大使館で商務官を務め、オープンイノベーション創出支援や環太平洋連携協定(CPTPP、TPP11)の新規加盟交渉などを主に担当した。

経済産業省では、成長戦略、税制改革、資源外交、通商政策などの担当を経て現職。


関連国・地域: タイ日本
関連業種: 自動車・二輪車食品・飲料農林・水産IT・通信マクロ・統計・その他経済

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