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【有為転変】第147回 国家安全法の衝撃

最近、世界で中国関連のニュースが怒とうのように降りかかる中で、中国に経済のキモを握られているオーストラリアの果敢な対応を興味深く見ている。28日には、中国政府が全人代で、香港で激しい共産党批判を犯罪とみなす国家安全法の制定を採択したが、これにも欧米諸国と共に反発するのは必至だろう。その一方で、こういう国際問題では相変わらず、無表情でだんまりを決め込むのは、我らが日本だ。

新型コロナウイルス感染症をはじめ、オーストラリアは最近、中国に翻弄(ほんろう)されている。モリソン首相が先に、ウイルスの発生源を特定する独立調査を各国に提案すると、中国政府は報復として、オーストラリア産の大麦に対して80%超の反ダンピング関税を課したほか、オーストラリアの食肉大手4社からの牛肉輸入も停止した。こうした手法は、政治問題に経済で報復する中国の常とう手法だろう。

■「最も中国依存度が高い」

オーストラリア経済は、中国に完全に握られていると言っても過言ではない。

最近、英国のシンクタンク「ヘンリー・ジャクソン財団」が、ファイブアイズ5カ国を対象に、中国のサプライチェーンにどれだけ依存しているかを示すリポートを公表している。

それによると、オーストラリアは高純度マグネシウムやマンガン、肥料用化学品など、戦略的物資のうち、中国に依存している品目が実に595品目にわたり、ファイブアイズの中で「最も中国依存度が高い」ことが明らかになっている。

先に興味深いと言ったのは、こうした上客に対しても、オーストラリア政府は毅然として「政治的に言うべきは言う」という態度を示すことだろう。

中国政府が今回、香港の統制を強化するための国家安全法を香港立法会の頭越しに採択すると明らかになった22日時点で、ペイン外相が直ちに英国などと共同声明を発表し、「香港市民の自由を明らかに破壊し、一国二制度を踏みにじるもの」として中国政府を強く批判した。

■わずか4日間で10万人署名

米トランプ大統領も中国に「強烈な対抗措置を執る」ことを明らかにしている。またホワイトハウスには「We The People」という世界からの請願を受け付けるプラットフォームがあるが、ここにわずか4日間で世界中から10万人の香港救援のための署名が集まった

さらに、世界では現在23カ国以上の200人以上の国会議員から、国家安全法に反対する署名が集まっている。オーストラリアからは、ガリス・エバンス氏やアレキサンダー・ダウナー氏といった元外相含め20人の超党派議員が加わったほか、ニュージーランドからも政府外交・防衛委員会のサイモン・オコナー会長などが名を連ねている。

中国はおそらく4月の時点で既に、全人代での国家安全法の制定を織り込んでいたのだろう。それを予告するかのように、4月に民主派主要メンバー15人が香港で一斉逮捕されている。

この時逮捕された中には、民主派の重鎮の李柱銘(マーティン・リー)元議員、民主派の新聞「蘋果日報(アップル・デーリー)」を発行する壱伝媒集団(ネクストメディア・グループ)の創設者である黎智英(ジミー・ライ)氏、民主派政党の李卓人議員などそうそうたる顔ぶれが含まれており、中国はそこまでやるか、と暗たんたる気分になったものだった。

香港返還10周年の2007年当時、筆者が彼らの多くに香港の将来についてインタビューした際、彼らは幾度となく親中派から脅迫や暴行を受け、身の危険と隣り合わせにありながら、香港の民主化に希望を持っていた。

それから13年後の今日、民主化が遅々として進まないどころか、断崖絶壁に立たされているのを見るのは断腸の思いでさえある。何度逮捕されてもなお信念を貫いている彼らの心中は察するに余りある。

香港の警察も、近年は一般市民に対して激しい暴力を振るって死傷者まで出す始末だ。香港警察は歴史的に市民の信頼が非常に厚い組織だったので、あれは本当に香港の警察か、と我ながら公憤を覚える。

■「無表情な操り人形」

さて、香港の危機が世界中で問題となる中で、実に奇妙な態度を示す国が、日本だ。

世界の国会議員連名の抗議には、日本の議員は1人も見当たらない。それどころか、オーストラリアなどが共同声明を発表したその日に、菅義偉官房長官が、中国の習近平国家主席を国賓として迎えるために再調整すると明らかにしたほどで、これにはさすがにあ然とさせられた。

日本政府は香港問題を無表情でやり過ごし、5日もたってから、参議院の防衛委員会で茂木外相が「日本としてもしっかりと中国とやりとりしなきゃならない」などと他人事のように答えているのみだ。

中国は、1989年の天安門事件で自国民を武力で弾圧したことで世界から経済制裁を受け、総スカンを食らった。だがその3年後に日本の天皇が訪中して、これを機に制裁解除に向けて動き出すことになった経緯がある。日本が、中国の制裁解除を手助けしたわけだ。

だが、それからも尖閣諸島や靖国問題などで、中国で反日暴動の嵐が幾度となく吹き荒れ続けた。

オーストラリアだけでなく、世界各国が毅然と対応している中で、日本の政府や国会議員だけが、「無表情な操り人形」のように振る舞っている。これは一体、なぜだろうか。【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: 社会・事件

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