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【食とインバウンド】欧米豪の富裕層に「クリーンフード」を

第8回

新型コロナウイルス(COVID19)の感染拡大によって中国人訪日客が急減しています。昨年の韓国人客減に続く打撃で、インバウンド業界は戦略の変更を迫られています。そこで注目されているのがASEAN(東南アジア諸国連合)と欧米豪(ヨーロッパ諸国)です。東アジアに次いで訪日客が多いASEANと比較的支出額が多いとされる欧米豪を取り込み、東アジアの落ち込みをカバーしようとしています。今月は欧米豪客へのアプローチについて考察します。

■やっぱり欧米豪は上客だった

「ムスリム(イスラム教徒)客は団体で数品をシェアすることが多い」「台湾人客は注文する品数は少ないが、年に何度か来店してくれる」「欧米豪客はお酒を飲むうえ高額の料理を注文してくれる」。

こう話すのは、ハラールにもベジタリアン(菜食主義者)・ヴィーガン(完全菜食者)にも対応しているレストランのシェフだ。「富裕層は欧米豪の方に多いと思う」とも話してくれました。データからもその傾向が読み取れます。

チャートは国別の訪日客数と一人当たりの旅行支出額および宿泊数を示しています。最も支出している訪日客はオーストラリアで、13泊して一人当たり25万円ほどを使っています。それに続くのは英国、フランス、スペインです。米国は中国、ドイツ、イタリアに次ぐ8位ですが、全国籍・地域が8.8泊で15万8,000円であることを考えると、総じて「欧米豪は上客」といってよいでしょう。

先述のシェフは「欧米豪客は食材についても関心が高い。見慣れない野菜があると、これは何か。どこで採れたのか。どうやって栽培されたのかといった質問をされる」と言います。それはハラール(イスラム教の戒律で許されたもの)やベジタリアン(菜食主義者)・ヴィーガン(動物性を食べない人)がする質問「何を使って作った料理か」からさらに突っ込んだ内容です。彼らはつまり、産地や栽培方法などさらなる情報開示を求めているのです。

■ますます求められる情報開示

SDGs(持続可能な開発目標)への関心の高まりとともに食材そのものへの関心が高まっています。代表的なところではオーガニック(有機食品)、GMO(遺伝子組換え)、保存料着色料といったものですが、現地のスーパーマーケットではこれらにとどまらない“チェックポイント”が溢れています。読者の中にはやっとハラールやベジに取りかかり始めたのに「また新しいハードルか」と感じていらっしゃる方がいるかもしれません。しかし、それが世界の食を巡る動きです。私も実際に米国へ足を運んで驚きました。

高級スーパーマーケット「ホールフーズ」のデンバーユニオン駅店。オーガニック野菜が取り分けできる=2019年5月4日、米国コロラド州デンバー(横山撮影)

高級スーパーマーケット「ホールフーズ」のデンバーユニオン駅店。オーガニック野菜が取り分けできる=2019年5月4日、米国コロラド州デンバー(横山撮影)

向かったのは自然食品にこだわる高級スーパーマーケットとして知られる「ホールフーズ」です。全米を中心に世界で約500店舗を展開する同社は2017年アマゾンが買収して話題になりました。「含んでいれば取り扱わない」とする162もの食品成分をブラックリストとして公開しています。その中にはMSG(うまみ成分)、人工着色料、人工甘味料といった日本ではおなじみの成分も散見され、米国消費者の厳しい目線を感じます。

写真はホールフーズの店内で撮影したものです。魚介類は養殖でないもの、牛肉は草だけ(穀物は環境負荷が高いと考えられているため)を飼料にしたもの、鶏肉にいたっては鶏舎不使用や屋外での飼育など実に5段階にクラス分けしているほどの徹底ぶりです。こうした自然な形に近い食品食材は「クリーンフード」と呼ばれSDGsに対する具体的な行動の一つとして認識されています。

■代替肉にも投げかけられる「それはクリーンか」

ホールフーズで売られているオーガニックのインスタントラーメン(横山撮影)

ホールフーズで売られているオーガニックのインスタントラーメン(横山撮影)

ホールフーズの食肉販売コーナー。飼育方法ついて同社基準で5段階と、さらにプラスして「生涯同じ農場で育てられたか」までをクラス分けしている(横山撮影)

ホールフーズの食肉販売コーナー。飼育方法ついて同社基準で5段階と、さらにプラスして「生涯同じ農場で育てられたか」までをクラス分けしている(横山撮影)

クリーンフードの波は早くもプラントベースド(植物性)食品にも及んでいます。代替肉は健康志向や環境意識の高まりもあって世界中で普及が急拡大しており、ビヨンドミート社とインポッシブル・フード社が市場をけん引しています。

そんな2社を巡ってある議論が盛り上がっています。クリーンか否か。使っている大豆がGMOの作物か否かが論点になっているのです。

ビヨンド社はGMO食材を使っていませんが、インポッシブル社は使っています。GMOに対する消費者の目線は厳しく、ある調査によると「GMO食品は非GMO食品に比べて健康的ではない」と答えた消費者が16年は39%であったのが、18年には49%に達しました。インポッシブル社は米国当局に1,066ページからなる科学的証拠を示して安全性に問題はないことが認められ販売認可を得ましたが、消費者の議論は収束していません。

ちなみにホールフーズではGMOはブラックリストに入っています。そのためインポッシブル社ではなくビヨンド社が商品棚に並んでいます。

ホールフーズの魚介類コーナー。養殖ではない自然の魚であることを明示している(横山撮影)

ホールフーズの魚介類コーナー。養殖ではない自然の魚であることを明示している(横山撮影)

米国消費者はなぜこうも厳しいのでしょうか。現地でヒアリングした回答で多かったのは「自分の身は自分で守る」でした。米国は日本と異なり国民皆保険制度がありません。健康も安全も自分で守らなければならない。だから食材にも気を配るのだと。インバウンドで富裕層を呼び込みたいのであれば、まずはホールフーズを利用する消費者をイメージするとよいでしょう。彼らのような高所得者層に対して何をどうアピールするのか。日本のクリーンフードを使った料理は食への関心が高い富裕層にこそ刺さるでしょう。

<プロフィル>

横山真也

ヨコヤマ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役

フードダイバーシティ株式会社 共同創業者

1968年兵庫県生まれ。2010年日本で独立開業後、12年シンガポールで法人を設立。国内外の企業買収、再生、立ち上げ、撤退プロジェクトを運営管理するかたわら、14年ハラールメディアジャパン株式会社(現フードダイバーシティ株式会社)を共同創業。16年シンガポールマレー商工会議所から起業家賞を受賞(日本人初)。米トムソン・ロイター系メディアSalaam Gatewayから”日本ハラールのパイオニア”と称される。ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科修了(MBA)、同大学非常勤講師。


関連国・地域: オーストラリアニュージーランド日本米国欧州
関連業種: 食品・飲料サービス社会・事件

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