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【プロの眼】撮影とコミュニケーション

辺境写真家・栗田哲男(5)

辺境写真家としての私は、世界各地で風景や野生動物なども撮りますが、メインは人物です。だからこそ、撮影で最も大切にしているのは、人々とのコミュニケーションと縁です。

宿泊させてもらうことになった筆者のためにご飯を炊いてくれる夫婦=ミャンマー・チン州撮影

宿泊させてもらうことになった筆者のためにご飯を炊いてくれる夫婦=ミャンマー・チン州撮影

写真家によって人物写真の撮影スタイルはさまざまですが、私のそれは、人の自然な表情を切り取るため被写体となる方の承諾なく素早く撮影するスタイルの「キャンディッド・フォト」とは対照的です。

相手の承諾云々ではなく、コミュニケーションを取った上で撮影をするからです。もちろん、これはキャンディッド・フォトを否定する意味を全く含みません。スタイルの違いだけです。撮影者を意識しない自然な表情を引き出したい時は、より深いコミュニケーションが、逆に撮影者の存在を空気のごとく消してくれると、私は考えます。

■心を開けば通じ合う

コミュニケーションとは何でしょう。試しにグーグルで検索してみると、「気持ち・意見などを、言葉などを通じて相手に伝えること。通じ合い」と出てきました。そうです、まさしく通じ合うことなのです。

通じ合う手段は言葉だけとは限りません。共通言語を持たない人とのやりとりでは、ボディーランゲージによるかもしれません。さらには、アイコンタクトだけということすらあります。

逆に、片言であろうと共通言語が存在するならば、深く話し込むかもしれません。つまり、コミュニケーションに時間の長さは関係ありません。通じ合うことこそがコミュニケーションと考えているからです。ですから、撮影におけるコミュニケーションは1秒かもしれないし、何時間にも及ぶかもしれません。

では、どうすればコミュニケーションが成立するのでしょうか。

簡単です。それは自ら心を開くだけです。偽りのない笑顔で接することも一つです。また、私が特に気を付けているのは、「出された食べ物は拒まない」ということ。辺境、秘境の地では食事やお酒などをいただくことがあります。そういった際に、遠慮なくそれを受け入れ、同じ場所で一緒に同じものを食べることで深まることが少なくありません。

この日知り合った人たちと夕食を共にする筆者(手前左)=中国雲南省撮影

この日知り合った人たちと夕食を共にする筆者(手前左)=中国雲南省撮影

■コミュニケーションの結果としての写真

ただし、「撮影するために、まずはコミュニケーションを取る」のかというと、実は私の考えは少し違います。

写真を撮るためにコミュニケーションを取るのではなく、「コミュニケーションの結果として写真が生まれる」ことが理想だと思っています。よって、コミュニケーションの結果、写真が生まれない場合もあります。誰かとコミュニケーションを取ることにおいて、写真を撮れるかどうかは重要ではありません。写真を撮ることではなく、コミュニケーションを取ることが目的だからです。

もちろん、写真を撮りたいと思って、誰かとコミュニケーションを取ることもあります。しかしそういった場合、どうしてもあざとさが写真の中に見え隠れしてしまうもの。また、結果として良い写真が撮れたのならば、それは良いコミュニケーションができた証なのだとも思っています。冒頭で撮影対象のメインは人物だと書きましたが、実は風景を撮るのにもコミュニケーションが必要です。その場所にどういった自然が存在し、どんな歴史があるのかなど、その場所を深く理解し、自然とも対話するのです。これは決してスピリチュアルな意味ではありません。よりその場所を理解することで、どう切り取るのかが自然と見えてきます。

町を歩いていて出会った人のポートレート1=バングラデシュ・ダッカ撮影

町を歩いていて出会った人のポートレート1=バングラデシュ・ダッカ撮影

町を歩いていて出会った人のポートレート2=インド・グジャラート州撮影

町を歩いていて出会った人のポートレート2=インド・グジャラート州撮影

■縁がもたらす産物

一方で、誰とコミュニケーションを取るかは、縁でもあります。どこで誰と出会うかは自分では決められません。偶然の産物です。

旅先での移動は、飛行機や路線バスなどの公共交通機関が存在しなくなった地点からは、車をチャーターしたり、バイクタクシーを利用します。それすらない場合は、車やバイクを持つ地元の人を探し、行きたい場所まで送ってくれないかとお願いすることも。運転手となってくれる人はコーディネーターの役割も果たしてくれるので、こうした人々とのコミュニケーションも「結果」に影響してきます。

数年前に私は冬虫夏草採取をテーマとしたドキュメンタリー作品を撮りました。これは5年という歳月をかけて地元民らとのコミュニケーションの結果生まれたものです。

もともと冬虫夏草採取を撮ろうという気持ちは全くありませんでした。しかし、縁あって当時乗り合いワゴンの運転手であったチベット族の男性と出会い、彼と交流する中で、冬虫夏草採取について知りました。その後、少しずつ彼との信頼関係を築いていくうちに、採取の現場を撮影できることになりました。冬虫夏草採取には明確な縄張りがあり、たとえ同じチベット族であろうと外部の者は立ち入ることが一切許されない、閉ざされた世界です。

こういった撮影ができたのも縁とコミュニケーションの結果でした。

このように私の写真においては縁とコミュニケーションが重要な要素となっています。今後も多くのコミュニケーションの場を作っていきたいと思います。

<プロフィル>

栗田哲男(くりた・てつお)

名古屋市出身。1971年生まれ。経営学修士。中国語はネーティブ並みに堪能。中国在住17年の経験有り。日本の上場企業の海外駐在員を、現地法人社長として長く務めた後、フリーランスの写真家に。特に秘境・辺境地域に暮らす少数民族の写真を文化人類学的な側面から捉えることを得意とし、『辺境写真家』という呼称で活動。大学やイベントなどにおける講義、講演並びにテレビ出演なども行っている。ウェブサイト<https://www.tetsuokurita.com/>、フェイスブック<https://facebook.com/TetsuoKuritaPhotography/

※特集「プロの眼」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2019年12月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: 中国インド日本
関連業種: 社会・事件

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